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長編11
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インチキ霊能者

僕は今、非常に困っている。

毎晩、毎晩、霊障に悩まされ十分に睡眠もとれていない。

それ処か最近は食事すらまともに食べれなくなって来た。

このままじゃヤバイ…。

それもこれも全部この女のせいだ。

今も僕の横で不気味に笑うこの女…。

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あれは2週間前…。

深夜1時を過ぎた頃、小腹が減った僕は近くのコンビニへ買い出しに出掛けた。

コンビニまでは歩いて10分程。

その道中に公園がある。

小さな公園。

僕はその公園の前をコンビニへ向かい通過しようとした。

が…。

不意に何かが気になった僕は、公園の中を見た。

女性。

その公園の入口近くの木の下に女性が佇んでいた。

女性はこちらに顔を向け佇んでいる。

こんな時間に1人で?

彼氏と喧嘩でもしたのかな?

と、少しは気になったが、僕には無関係なので足を止める事無く、コンビニへ向かった。

買い物が終わり、店を後にする僕。

勿論、帰りも公園の前を通る。

だが、その女性はもうそこにはいなかった。

と、たったこれだけの事…。

僕が何かをしたわけでも、何かをされた訳でもない。

ただ、公園の前を通っただけ。

その日から、その女が僕に付きまとっている…。

何て理不尽な…。

そうは思うが、彼女にはそんな事は関係ないのだろう。

日に日に衰弱して行く僕を、今日も嬉しそうにニタニタと薄ら笑いを浮かべ眺めている。

あぁ…。

このまま死ぬのかなぁ?

そんな事を考え始めた時、僕の衰弱ぶりを心配した同僚が、悩みでもあるのか?と尋ねて来た。

僕は、信じて貰え無いのを覚悟で、同僚に全てを話した。

予想に反し、同僚は僕の話しを信じてくれ、おまけにその道のプロまで紹介してくれるという。

どうして同僚がその様な人と繋がっているのかは聞かなかった。

同僚は手帳の1枚を破り、そこに住所を書き込んだ。

同僚「近い内にこの住所の人を尋ねていけよ?

お前の衰弱ぶりを見てたら、あまり猶予は無さそうだ。

いいか?早くいけよ?」

同僚はそう言うと仕事に戻って行った。

その道のプロか…。

何とも胡散臭い言い回しだが、今の僕がヤバイのは事実。

駄目元で行って見ようと心に決めた。

その週の土曜日。

僕は午後から時間を作り、同僚に貰ったメモの住所を尋ねた。

そこはごく普通の一軒家。

僕はその家のインターフォンを押す。

暫くして、中から出て来たのも、ごく普通の男性。

いや、普通ではない?

年齢は僕の少し下。

34、5てとこか?

に、しては真っ白。

短く整えられた髪の毛が雪の様に真っ白な男性。

その男性は僕を見るとニッコリと微笑んだ。

男性「大分、お疲れの様ですね?

中でお話を聞かせて下さい。」

男性は僕を家へ上げると、畳の敷いてある部屋へと案内した。

男性は僕と向き合うように座るとこう切り出した。

男性「あなたは私を信用しなくて結構です。

その代わり、私があなたを信用します。」

信用しなくていい?

信用する?

この男性は何がいいたいのだろうか?

霊能力者と呼ばれる者の常套句か?

僕はこの男性に少し警戒心を抱いた。

男性「それでは、あなたがこの様な状態に陥ってしまった経緯を私にお話し下さい。」

男性はそう言うと静かに両腕を拡げた。

僕は男性に言われた通り、僕に起こっている事の一部始終を話した。

僕が話している間、男性は座ったまま、両腕をゆっくりと扇ぐ様に動かしていた。

第三者が見れば、異様としか言い様の無いその光景。

だが、男性の舞うような動きは、優しく、それでいて力強く。

僕を見つめる目は、鋭く、それでいて暖かく。

僕は、そんな男性にいつしか安心感を抱いていた。

先程まで怪しんでいたこの男性に。

あぁ…。この人…。

本物かも…。

一通り説明し終えた僕は、気付けばこの男性の事を信用してしまっていた。

そうせざるを得ない程に、この男性の持つ澄んだ空気が心地よかった。

男性「それは大変でしたね。

さぞお辛い事とお察しします。」

僕「助けて貰えますか?」

男性「あなたが望む望まぬは問題ではありません。

私はあなたを救う。私に救わせて下さい。」

僕は、この男性の言葉に目頭が熱くなった。

僕「宜しくお願いします。」

男性「私は必ずあなたを救います。

しかし…少し厄介ではあります。

そう簡単には、あなたから離れてはくれないでしょう。

この男性は…。」

???!

何??

今、なんと?

男?男と言ったのか?

僕の耳がおかしくなければ、この男性は、間違いなく、男と言った。

僕「あ、あの…。

今、男性と仰いましたよね?

それって、僕に憑いてるのが、男ということですよね?」

男性「はい。

貴方には男性の霊が憑いております。」

なっ、なんと?!

僕に憑いてるのが男だと?

嘘だろ?

この人の持つ空気…。

あれは何だったんだ??

僕に憑いてるのは女だ…。

こ、コイツ…………。インチキか……。

僕はこの男性を信じ、本当に助けて欲しいと願った。

なのにこの男性はインチキ霊能力者…。

僕は、一度は信用した男性に裏切られた事で、男性に対し、怒りをあらわにした。

僕「僕を救う?救わせて下さい?

ふざけるなよ!

そうやって僕を騙して金でも巻き上げる積もりだったんだろ?

何が霊能力者だ!このインチキ霊能力者め!」

男性は僕の罵倒を無言で聞いていた。

僕「こんな所にいる意味は無いので帰らせて貰います!」

そう言って部屋を後にする僕。

インチキ野郎は僕の後ろをゆっくりと着いてくる。

僕が玄関を出ようとした時、それまで無口だった男性が口を開いた。

男性「あなたは私を信用しなくて結構です。

その代わり、私があなたを信用します。

あなたの知る真実のみが、真実とは限りません。

どうかお気を付けて。」

男性はそう言うと、深々と頭を下げた。

僕はそんな男性を無視し、足早にその場を去った。

あぁ!ムシャクシャする!

誰かこの女を払ってくれ!!

僕は疲れきった身体で力なく歩く。

歩いていると看板が目に入る。

「◯◯寺、次の角を左」

◯◯寺?

どっかで聞いたような…。

?!思い出した!

確か以前、テレビの特集で、霊を封じ込める御札を作る住職がいるとか言ってたな。

僕は何の迷いもなく◯◯寺へと足を進めた。

長い階段を登り、本堂らしき建物が見える。

その建物の前を掃いている1人の僧侶。

僕「あ…あの…。」

僕が声を掛けると、僧侶は顔を上げ、僕を見て言った。

僧侶「お若い方。大変でしたなぁ。

その女性に大分、苦しめられてるのでしょう。

もう大丈夫ですよ。」

あぁ…、この人には分かるんだ…。

僕は先程、インチキ霊能力者に騙されかけた事と、これまでの苦労が波の様に押し寄せ、やっと本物に会えた安心感からその場に泣き崩れた。

僧侶は黙って僕の話しを聞くと、1枚の御札を手渡した。

僧侶「これを部屋に貼りなさい。

それだけで、あなたを苦しめる者から解放されましょう。」

僕「ありがとうございます!

ありがとうございます!」

僧侶「いえいえ。」

僕「あ、あの…。

お代の方はおいくらにさせて頂きましょう?」

僧侶「お代ですか…。

それはあなたのお気持ち次第ですな。」

そう言われた僕は、手持ちの五万円を僧侶に支払い、意気揚々と寺を後にした。

部屋に戻るとすぐに御札を貼る僕。

これでやっと解放される…。

それから3日が経った頃…。

僕は以前にも増して、倦怠感にさいなまれていた。

体調は前より酷くなり、食事はおろか、水分も喉を通らない…。

会社も2日間、無断欠勤だ…。

御札を貼ってから、あの女を見る事は無くなったのに何故だろう?

意識が朦朧とする…。

もう動く事も出来ない…。

この時、僕は確実に死を予感していた…。

コンコン。

部屋のドアが叩かれる。

ん?誰だろう…。

僕は来訪者を確認する為に、ドアへ向かう事すら出来ない。

コンコン。

尚もドアは叩かれる。

??「カイさん?

おられますでしょうか?」

??

この声…何処かで聞いたような…。

??「カイさん?

お辛いとは思いますが、ドアを開けて下さい。

それだけで結構です。」

?!

思い出した!

以前、同僚に勧められて会いに行ったインチキ霊能力者の声だ!

今更、インチキ霊能力者が僕に何の用だ!

男性「カイさん?

お願いします。

ドアを開けて下さい。

それだけであなたを救えるんです。」

僕は男性の呼び掛けに耳を貸さなかったが、あまりにしつこくドアを叩くので、気の済む様にさせて早く帰って貰おうと、気力を振り絞り、ドアを開けた。

男性「カイさん。

ありがとうございます。

後は私に任せて下さい。」

男性はそう言うと部屋へと足を踏み入れた。

男性「やっぱり…。」

部屋に入るなり御札を見た男性が呟いた。

そして御札の前に立つ。

男性「カイさん?

この御札、凄く効果があったでしょう?」

何だ?いきなり?

僕「あぁ…。それを貼った日から、何も見なくなったよ。それが?あんたに何の関係があるんだよ!」

男性「そうでしょうね…。

この御札によって、この女性は動けなくなっています。」

女性??

今、女性と言ったのか?

前に会った時は、僕には男が憑いてると言っていたじゃないか?

男性「まぁ、動けなくなっているだけで、まだ此処には居ますけどね。」

此処にいる?!

あの女は消えたんじゃないのか?

僕は何が何だか意味が分からない。

男性は部屋の隅を見つめて言う。

男性「彼女、物凄く怒ってますね(笑)」

そりゃそうだろう…。

僕が貼った御札で動けなくされてるんだから…。

男性「ハハ(笑)

本当にかなり怒っていますよ(笑)」

コイツ…頭がおかしいのか?

何でもいいから早く帰ってくれ…。

男性は部屋の隅を見つめたまま独り言を言い始めた。

男性「この様子じゃ私は必要ありませんね(笑)」

いよいよ危ないヤツだ…。

僕はこの危ない男性に関わらぬ様、なるべく男性から離れた位置に座り込む。

男性「あなたにお願い出来ますか?」

男性は誰もいない空間に問いかける。

男性「そうですか。

それでは宜しくお願いします。」

男性はそう言うと、部屋の隅から、御札に向き直り、御札を指でなぞる仕草を見せた。

すると、まるで刃物で切ったかの様に、御札が2枚に分かれヒラリと床に落ちた。

男性は次に部屋の中央を見上げ、じっと佇む。

この男性は一体何をしてるんだ?

頼むから早く帰ってくれよ!

僕はこの訳の分からない男性が恐怖でしか無かった。

男性が佇み出して数分後。

パチパチパチパチ。

男性「お見事でした(笑)」

おもむろに拍手をし、見上げたまま話し出す男性。

そして男性はゆっくりと僕を見た。

男性「もう大丈夫です。

あなたは長い苦しみからようやく解放されました。」

そう言い、僕の横を指差す。

僕はその動きにつられ横を見る。

?!

そこにはニッコリと微笑む綺麗な女性。

僕「なっ?!」

男性「カイさん。

あなたがこれ程までに追い詰められたのは、私の責任です。

初めから女性の事について話していれば…。」

ん?どういう事だ?

この女性は一体誰なんだ?

男性「どうも私は昔から言葉たらずな所がありまして…。

本当に申し訳ありません。」

僕「ちょ、ちょっと待って下さい!

あなたが何を言っているのか僕には全く理解が出来ません!」

男性「そうですよね。

では、順を追ってご説明致します。

まず、あなたの横にいる女性。

それは紛れもなく、あなたが今まで見て来た女性です。」

は?この綺麗な女性が?

そんな馬鹿な!

男性「あなたは公園で初めてその女性を見た。

その時、女性はあなたを見ていた。と、仰いましたよね?

それは違います。

公園で会った時も、あなたの家でも、彼女はあなたを見ていたのでは無く、あなたの後ろにいるモノを見ていたのです。」

僕に後ろにいるモノ??

男性「この女性は、公園であなたを見掛けたとき、そのモノの存在に気付いた。

どういう心情かは分かりませんが、それに気付いた彼女はあなたにとり憑いた。

あなたを守る為に。」

この女性が僕を守る?

でも僕はずっと霊障に悩まされていたんだけど?

男性「元々あなたに憑いていた男性の力が強く、彼女は完全には抑えきれ無かった。

それであなたは体調不良に陥ったのです。

しかし、彼女が抑えなければあなたは既にこの世には居なかったでしょう。

彼女があなたを見て笑っていたのは、あなたに手出し出来ずに悔しがる男性を見て笑っていたのです。」

彼女がいなければ僕は死んでいた?

そんな話しを信じろと?

男性「あなたの知る真実のみが真実とは限りません。

前にそうお伝えしましたよね?

彼女を見た日から霊障が始まったのであなたは必然的に彼女のせいだと決めつけた。

そして僧侶からの御札により、彼女を封じ込めた。

あなたを守っていた彼女を…。

邪魔者が居なくなった男性は、すぐにあなたを今まで以上に苦しめ始めた。

今までと逆の立場になり、目の前で苦しめられているあなたを見ながら、何も出来ないでいる彼女の怒りよう…。それはそれは(笑)

あれを鬼の形相と呼ぶのでしょうか?

私でさえも寒気が致しました(笑)

そして私は、彼女の気持ちを汲み取り、彼女に男性を払って頂きました。

これが、濁りの無い真実です。」

一部始終を聞かされても、どれもが全く信用出来ない。

まるで狐にでも化かされている様だ。

男性「カイさん?

まだお身体はお辛いですか?」

?!

男性にそう言われ僕は気付いた!

さっきまで意識を保つのがやっとだったはずが、今は快調と言える程にハツラツとしている!

僕「も、もしかして全て本当の事なんですか?!」

男性「真実とはそういう物ですよ(笑)」

僕はやっと解放されたと喜びでいっぱいになったが、同時に隣にいる女性に対し、どういう態度を示せばいいのか困惑した。

彼女は相変わらず、優しい笑顔で僕を見ている。

僕「あの…。

今まで僕を守ってくれていたのに、勘違いで…。

本当にすみませんでした…。」

彼女は何も言わず微笑んでいる。

男性「さて…。

彼女への誤解が解けた所で大変、酷なお話しになりますが、彼女も又、あの男性と同じく、この世の者にあらず。

然るべき場所へと還す必要があります。」

?!

それってもしかして…。

男性「少し残念に思うかもしれませんが、これも又、真実…。」

男性はそう言うと、そっと女性の頭に手を添えた。

暫くすると、女性が足元からゆっくりと消えて行く…。

それでも彼女は微笑んだまま、僕を見つめている。

僕は何も言えない…。

何を言えばいいのか分からない…。

そうしている間に彼女はもう完全に消えようとしている。

僕は困惑する気持ちを抑え込み、精一杯の気持ちを込め、彼女に言った。

僕「ありが…」

女性「良かったね…」

僕の言葉に被せる様に彼女はそう呟いた。

そして静かに消えて言った…。

呆然とする僕。

男性「あなたが気にやむ事は何もありません。

彼女もきっとそう言う筈です。

それよりも、もうあなたを苦しめる者はありません。

しっかりと前を向いて歩んで下さい。」

僕「色々と…。

本当にありがとうございました。」

男性「私とは縁が無い方が宜しいでしょうが、また何かあれば何時でもどうぞ(笑)

それでは。」

僕「待って下さい!

あなたのお名前は?」

男性「?!

本当に私は言葉たらずで…。」

僕「名前も言わないなんて言葉たらずにも程がありますよ(笑)」

私の名は…紫水。

また、いつか…。

Concrete
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流れ人様。

そんなご謙遜を?!Σ(゜Д゜)
僕の作品は、ただただ自分の欲求を満たす為の自己満足作品ですよ!
どうしようもなく、お暇な時に読んで頂ければと思います(笑)

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ちっちっち♪様。

初めまして。
コメントありがとうございます。
私めの駄作で楽しんで頂けて光栄です!
これからも宜しくお願いします。

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月舟様。

私めにシリーズと言うお言葉は禁句です!
胃が痛くなりますので(笑)

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零音様。

初めまして。
かいと申します。
私の駄作にこの様なコメントを頂きありがとうございます。
これからもお暇があれば読んでやって下さい。

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むぅ様。

いつもコメントを頂き、本当にありがとうございますm(__)m

かいワ―ルド…。

言い響き!笑
これからも暇潰しにどうぞ!

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