僕は原因不明の体調不良に侵されている後輩を連れ、ある男性を訪ねた。
それは以前、僕がお世話になった男性。
separator
紫水「おや?カイさんではありませんか?
残念な事に、あなたはどうやら私と縁が出来てしまったみたいですね(笑)」
僕「僕も出来れば紫水さんには会いたくは無かったんですが…。
あっ!悪い意味じゃないですよ?」
紫水「分かっています(笑)
で?そちらの方ですね…?」
僕「はい…。2日程前から原因不明の体調不良に悩まされてるみたいで…。
僕が思うに、病気ではなく霊障かな…と。」
暫く後輩を見つめる紫水。
紫水「とりあえず中にお入り下さい。
お話はそれからに致しましょう。」
僕達は紫水さんに案内され、以前と同じ部屋へ通された。
紫水「お連れの方は、そこに横になって頂いて構いません。随分、お辛そうですので。」
紫水さんの言葉に甘え、横になる後輩。
その様子を眺めていた紫水さんが切り出した。
紫水「さて…。
結論から申し上げますが、お連れの方に生じている体調不良は、病でもなければ霊障と呼ばれるモノでもありません。」
僕「え?霊障じゃないんですか?
病気でもないって…。
じゃあ何だって言うんですか?」
僕はてっきり幽霊絡みだと思っていたので、紫水さんの言葉に拍子抜けした。
紫水「呪い…と呼ばれるモノですね…。」
呪い??
そんなモノが本当に存在するのか?
しかもこの国に?
僕「の、呪いってそれ間違いないんですか?
この近代化社会に呪いなんてモノが存在するんですか?」
僕は紫水さんの思いもよらない言葉に、動揺を隠せなかった。
紫水「ふふっ…。」
ん?紫水さんが笑った?
紫水「あなたは面白い事を言われますね。
確かに今の世は近代化社会などと呼ばれておりますが、それと呪いにどの様な関係が?」
……。
確かに…。
どう考えても全くと言っていい程、無関係だ。
紫水「お連れの方は間違いなく呪いの影響を受けておられます。
更に言うと、この呪いは私の力ではどうしようもありません。」
?!
紫水さんにもどうしようもないだと?
でもこれが呪いというなら、何とかして解く方法や…呪い返しというのも聞いたことがある。
僕「紫水さん?これが呪いなら相手に返す事は出来ないのですか?
テレビか何かで見たことがあります。
呪い返しは存在しないのですか?」
紫水「呪い返し…。よくご存知で。
確かにそういったモノは存在します。
しかしそれは、浅はかな素人や並の術者が行った呪いにのみ、成立致します。」
素人?並の術者?
どういう事だ?
紫水「この呪いを行われた方は、相当な術者と見て間違いありません。
先程、この近代化社会に呪いが存在するのか?と仰いましたが、確かに呪いは存在致します。
この国にもまだ相当な力を持つ術者が潜んでおります。
しかも、今回の術者はその中でもかなり上位におられる方…。
その様な方の呪いに対して呪い返しなどという子供騙しは、とてもじゃありませんが通用致しません。」
僕「ちょ、ちょっと待って下さい!
相当な力とか、かなり上位とか…そんな凄いヤツに後輩は呪いをかけられたって言うんですか?」
紫水「はい…。
間違いありません。」
僕「じゃあ、後輩は?後輩はどうなるんですか?!」
僕は興奮の余り、声を荒げていた。
後輩は涙を流し話しを聞いている。
紫水「間違いなく死にます。」
そ、そんな…。
後輩はもう助からない…。
僕も後輩も声をあげて泣いた。
そんな僕達を見ていた紫水さん。
紫水「ま、待って下さい!
まだ死ぬと決まった訳ではありませんよ?」
ん?
だって紫水さんは、呪いを解く事も返す事も出来ないと…。
後輩は死ぬと…。
紫水「はぁ〜。大変申し訳ありません。
またいつもの言葉足らずが…。」
忘れていた!
この人は肝心な部分を伝え忘れる癖があったんだ!
紫水「呪いを解く事も、返す事も出来ませんが、呪いを止める事なら出来ます。」
呪いを止める?!
そんな肝心な事を!
言葉足らずでは済まないですよ!紫水さん!!
紫水「ぐずぐずしている暇はありませんね…。
早速ですが、お連れの方の呪いを止めさせて頂きます。」
そう言うと紫水さんは部屋を後にした。
後輩「せ、先輩…。
俺…どうなるんですかね…。」
僕「大丈夫だ!
お前、紫水さんの凄さを知らないだろ?
あの人に任せておけば大丈夫だ!」
僕は本当にそう思っていたのか、そう思いたかったのか…。
後輩を勇気付ける為、僕はわざと明るく振る舞った。
暫くすると、紫水さんが部屋へ戻って来た。
紫水さんの手には、透明な液体の入ったグラスと笹?の葉。
紫水さんはゆっくりと後輩の頭もとにグラスを置くとその葉を中に浸した。
少し間を開け、再び葉を手にした紫水さんはそれを自分の口元に持っていく。
ピィィ〜。
笹笛??
紫水さんは葉っぱで笛を吹く。
そしてゆっくりと後輩の額に手を当てた。
紫水「これで大丈夫です。
今以上に呪いの影響を受ける事は無くなりました。
ただ、これ以上は受けないと言うだけで、あなたの体調が回復する訳ではありません。
そこをお忘れなく。」
僕「こ、これからどうしたらいいでしょう?」
紫水「そうですねぇ…。
まずはこの呪いを施した術者に会いに行く必要があります。」
??
術者に会う?
呪いをかけた本人に?
僕「何処の誰かも分からない相手にどうやって会いに行くと?
しかも、そんなヤツに会いに行くとなるとかなりの危険を伴うんじゃないですか?」
紫水「術者が私達にとって、敵となるかどうかは会ってみないと分かりませんよ。」
僕「なっ、何を言ってるんですか?!
後輩をこんなひどい目に合わせてる張本人ですよ?!
僕達にとって敵に決まってるじゃないですか!」
僕は、悠長な事を言っている紫水さんに、本気で腹をたてた。
紫水「あなたの知る真実のみが真実とは限りません。
お忘れですか?」
?!
前に聞いた台詞。
確かに前回は、紫水さんの言葉通りの結末になった。
でも…でも今回は…。
紫水「それに…。
この呪いを施した術者ならおおよその検討はついてます。」
何だって?紫水さんはこの術者の事を知っているのか?
紫水「とはいえ、検討が付いているだけで、居場所までは分かりません。
勿論、面識もありませんよ?」
僕「どういう事ですか?
何処にいるかも分からないし、面識も無いのに誰かは分かる?
全く理解が出来ませんが?」
紫水「先程申し上げましたが、この国にも相当な力を持つ術者が潜んでおります。
しかし、これ程の力を持つ術者となるとその存在は限られて参ります。
恐らくこの国に1人…。」
1人?!
呪いだとか、術者だとか余り詳しくはないが、この国にたった1人?
それってとてつもなく凄い相手なんじゃないのか?
紫水「まぁ、居場所については、私にお任せ下さい。
分かり次第ご連絡させて頂きます。」
僕と後輩は紫水さんからの連絡待ちとなり、後輩を病院へ戻す為、紫水さんの家を後にした。
二人を玄関先で見送り、部屋へと戻った紫水。
紫水「カイさん…。
あなたは本当に面白い方だ。
私は良い方と縁を持てたのかも知れませんねぇ。
この件で、何か糸口でも見つかるといいのですが…。」
作者かい