車に乗りトンネルへ向かう。
相変わらず頭は絵里の事でいっぱいだった。
会ったらどんな顔をしてどんな言葉をかければいいのだろうか。
クサイ台詞ばかりが頭に浮かんでくるが全て却下。
(いつも通りでいいよなぁ)
そして前と同じくトンネルの少し手前で車を止めて歩いて向かう。
道が狭く対向車が来たらすれ違えないからだ。
そしてトンネルの入口が見えてきた…?
入口で誰か蹲っている。走って向かい
「絵里!」と叫ぶ。
振り向いた女性は絵里ではなかった。
その女性は新しい花瓶と新しい花の前で手を合わせていた。
「あの、どなたですか?」と言い終わる前に気づいた。
前来た時にヘラヘラしていた女だった。
「こんばんわ。この間はご迷惑をおかけしました。」
とその女が言う。
「こんばんわ。いえこちらこそ。ところで何してるんですか?」
と尋ねるとその女は不思議そうな顔で
「新しい花瓶と花…持ってこいって言いましたよね?」
(あぁ、そういえば…てゆうか見た目とは違って律儀な女だな…)
「そうですか。でもなぜ君が?俺は見てた男共に言ったんだけど。」
「それが…彼等警察に捕まって来れないので代わりに私が…」
「あ、そうですか。わざわざどーも。」
ここに絵里が居ないことに落胆した私は無愛想だったことだろう。
そして宛もなく絵里を探しに行こうとした時
「あの…」
女が苦虫をかみ潰したような顔で私を見つめる
「何か?」
「ここで亡くなった方、あなたの恋人ですか?さっき絵里…と言ってましたけど」
「…俺の初恋の相手です」
私は恥ずかしげもなく却下したはずのクサイ台詞を言っていた。
「そうですか…」
女がなぜ男の代わりにここに来て花を供えたのか。
なぜこんなに苦しそうな表情をしているのか。
勘の鋭い私はもう気付いていた。
「君に罪はないよ。でも君の彼氏は違う。たとえ罪を償って帰ってきても俺はきっと君の彼氏を殺しに行くよ。」
女は私の顔を見て「あの…」と言った後立ち上がり
私に頭を下げ去っていった。
(どこにいるんだよ…絵里のやつ…)
車に戻るとボンネットの上にハンカチが置いてあった。私は気付かないうちに唇を噛みきっていた。
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結局絵里は見つからなかった。神社に行こうとしばらく山道を模索してみたが思い出せなかった。
やっと電波の入る所まで降りてきて
(怪しまれるだろうが母に聞いてみるか)と車を止めて携帯を手にした時
反対車線のバス停に座る人影に目が止まった。
同時に時間も止まった様に感じた。
「絵里…」
と呟くとこちらを向き涙を流しながら微笑む絵里がいた。
「絵里!」と再度大声で呼ぶ。
消えないでくれという願いを込めて。
そして車から降り走行車の有無も確認せず道路を横切った。
絵里はちゃんといてくれていた。
「なにやってたんだよ、心配かけんな」
見つかったことで多少の憤りを抱えつつ私は絵里の前に膝をついた。
「どこ行ってたんだよ」
絵里はその質問には答えずに私の胸に顔を埋めて
「思い出したよ。優くん」
と一言だけ呟いた。
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続く
作者amane