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「あなたは生きていますか?」8

中編3
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「あなたは生きていますか?」8

母の語る過去の話に耳を傾けたくなかった私は

「今日はご飯いらない」と言い

自室に戻った。

「えーーったく、もう作っちゃったわよー」

という声が遠ざかる。

布団に寝転がりながら思い出してみる。が

記憶力の差なのか私だけなのか。十数年前の事など覚えていない。

(絵里は生きてる時のことは何も覚えてないって言っていたけど…どこかでまだ覚えているんだろうな。木彫りにしても炭酸水にしても。)

固定された右手を見ながら考える。

(…探しに行くか。)

夕食作りをとっくに終えていた母に車の鍵を借り、自室へ行き木彫りを手に取り呟く。

「行くよ」

返事は、なかった。

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探すと言っても心当たりのある場所は一つしかない。

あのトンネルか。

それとも思い出そうとして家畜小屋に行ったのか?

とにかくそっちの方まで行くか。

と車のエンジンを掛けた時、携帯が鳴った。

警察署からだった。

事情を聞きたいので署まで来てくれないか、との事だった。

後日伺いますと二つ返事で了承した私だがそんなことどうでもよかった。

とにかく早く迎えに行ってあげないと。

そして片道二時間半の距離を絵里の事だけ考えながら運転した。

あの廃屋が並ぶ道。まずは家畜小屋に行ってみよう。

前と同じ場所に停車し懐中電灯を取り出す。

前来た時は気にしなかったけどゴミがすごいな。

たまり場にでもなってるのか。

空き缶やビニール袋など数え切れない程のゴミ。

そんなゴミの山を足で避けながら進む。

「絵里」

と声をかけてみたが反応はない。綺麗に反響していた。

(ここには居ないか…トンネルかな)

と、来た道を戻ろうとした時足元に落ちていたある物を手に取ってみる。

(お守り…?)

気になった私は不謹慎ながらお守りを開いて見てみる。

「これ…」

そこにはくすんだおはじきが入っていた。

お守りの文字を確認してみる。

「交通安全」と書かれたお守りの隅には小さくあの神社の名前が刺繍してあった。

思い出した。このおはじきは俺が絵里にあげたものだ。

7歳の頃、木彫りの像の事で父と母と一緒にお礼に行った時初めて会った絵里。

人見知りしていた絵里に「こんにちは」と言うと神主さんの後ろに隠れてしまった。

そして神主さんに

「1年経ったらまた来なさい。新しいものと交換してあげますよ。」

と言われた。

1年後約束通り行くとそこには少し背が伸びていた絵里がいた。

「こんにちは」と言うと頭を少し下げた。

「一緒に遊ぼ」と言うと頷いた。

そして当時住んでいた家が神社と近かった事もあって

しょっちゅう遊びに行っていた。

神社の中で隠れんぼしたりなわとびを一緒に練習したり。

おはじきをやったり。

絵里が神主さんの目を盗んで炭酸水を持ってきてくれたり。それで怒られたり。

最初は「うん」しか言わなかったが1ヶ月もすると

絵里から喋りかけてくれたりうちに遊びに来てくれたりしていた。

そんな日が半年ほど続いたある日

父の仕事の都合で私は引っ越さなければならなかった。

と言っても隣の県なのだが当時の私にはそれが果てしない距離に思えた。

(もう絵里ちゃんに会えない。嫌われちゃう)

と思った私は絵里に直接伝えることも無く

その地を後にした。

父と神主さんは言ってしまえばビジネスで繋がっただけの赤の他人。それから付き合いもなく絵里と会えなくなるのは自然な事だった。

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最後遊んだ日、私は絵里に「これあげる。お守り」

と言ってグリーンのおはじきをあげた。

絵里は何か気付いたのか、

「ありがとう。また遊ぼうね」

と言って私の手を力強く握っていた。

私は「またくるね」と言って絵里の手を握り返した。

そのおはじきが今ここにある。

絵里はずっと持っててくれたのか。

そして忘れるかもしれない約束をずっと信じて待っていてくれた。

思い出した私はまた、泣いていた。

「今行くよ」と言い私はその場を後にした。

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続く

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