私の胸に埋めた絵里の頭を優しく抱いて
「俺もだよ。俺もさっき思い出した。ごめん」
と言ってポケットからお守りを取り出し絵里に手渡す。
「これ…」
絵里は大事そうに両手で包み子供のように泣きじゃくった。
絵里の頭を撫でながら、私も静かに泣いた。
なぜ私は初恋を忘れていたのか
なぜ絵里は思い出せたのか。
それは今でもわからない。
ひとしきり泣いて震えている絵里に気づく。
「寒いしうちに帰ろう」
「うん」
nextpage
家に着いたのは23時過ぎ。疲れ果てていた私はそのまま布団に寝転がる。
私は何をどこから話せばいいのか困惑していた。
沈黙を破ったのは絵里だった。
「ねぇ」
「どうした?」
「喉、乾いた」
「あんだけ子供みたいに泣いたら喉も乾くだろーなー。ちょっと待ってて」
冷蔵庫に行こうと振り返る直前怨霊のような顔をしてたような気もするが気のせいだろう。
「はい」
といいコップに入れたウィルキン〇ンの炭酸水を渡す。
絵里は
「ありがとう」
と言い受け取る。
その瞬間
「ガシャン!!」と大きな音がなった。
絵里の目の前にコップが地面に落ち割れていた。
(…?)
一瞬何が起こったのかわからなかった。
しかし私はもう何となく分かった気がしていた。
「…今初めて絵里が幽霊だと思えたよ」
「…そうだね。」
絵里は少し俯いて微笑みながら言った。
その時の絵里の顔は一生忘れられないだろう。
「今日はもう寝よう」
「うん」
「「おやすみ」」
初めて2人で一緒に布団に入った。
肌が触れ合う感触はしっかりあった。
nextpage
朝8時
先に目を覚ましたのは私だった。
横で寝ている絵里を起こさないようゆっくりと布団から出る。
顔を洗いお風呂に入りシャンプーをしていると背後から視線を感じる。
目をつぶって頭を洗ってる時に後ろから視線を感じたら上に怖い顔の霊が居る…って話は有名だったが。
(俺は今幽霊と同居してんだぞ…)
頭を流し上を見てみると…真っ白の天井に換気扇一つ。
「ふっ…くだらな。」と皮肉を言い鏡を見ると
後ろに絵里が立っていた。
何かよく分からない音が喉から出た気もするが
驚きすぎて覚えていない。
息を整え
「何してるんだよ」
と聞くとクスクス笑って消えてしまった。
(あいつ…あんな悪戯っ子だったか?それとも昨日の仕返し…?)
お風呂も早々に上がり絵里に聞きたいことが山ほどあったのだが、
(まずは現実的な方を片付けなきゃな)
と、警察署に電話をかける。
担当刑事が不在なので正午過ぎに来て欲しいとのことだった。
そして職場。この時私は絵里と一時も離れたくなかった。今のうちにたくさん思い出をつくらなければとどこからか焦りを感じていた。
詳細は伝えず自分の勝手な都合で迷惑をかけるだけなので退職します。
そう伝えると
「そうか。しっかりしろよ。待ってる」と言い電話を切られた。
呆れた様な言い方でもなく何か怒られているような言い方に私は申し訳なさでいっぱいだった。
そして…放置しっぱなしだった彼女。
恐らく悪友が伝えてくれたのだろう。
あの日から電話はかかってきていない。
メールBOXは…開いていない。
勇気を出して電話をかける。…出ない。
メールを確認してみると色んな人からメールが来ていた。
非現実に忙しくて現実を忘れていたなんて…
…(俺は生きてますか?)
nextpage
山のような受信メールの中に彼女からのメールがあった。二日前だ。
内容は別れを告げるものだった。
それまでの俺と彼女の楽しかった過去の事
辛いから待てないとの事だった。
決して嫌いになった訳じゃない。
またしても俺は申し訳なさに押しつぶされそうになっていた。
ありがとうとごめんねをメールで伝え
布団に寝転がり目を閉じる。
何故か急に愛おしくなり
「絵里」
と呼んでみる。
「うん」
と返事があり私は安心して眠りに落ちてしまった。
nextpage
続く
作者amane