僕達四人は、匠さんの件を報告する為、そして蛍さんの言葉の意味を確かめるべく、叔父さんの待つ小屋へと向かった。
そこに居たのは、いつもと変わらぬ優しい叔父さん。
だが、そんな叔父さんの口から信じられない言葉が飛び出す。
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叔父「僕を消して欲しいんだ。」
?!
紫水「なっ?!」
葵「何を?!」
匠「おいおい!」
僕「…………。」
叔父さんの余りにも突拍子のない言葉に、僕達四人は驚きを隠せない。
紫水「何を馬鹿げた事を?!
叔父さんを消す?
ふざけんな!!」
明らかに紫水さんが動揺している。
無理も無い…。
ずっと叔父さんを探して僕には想像も出来ない道を歩んで来たんだ。
それでやっとまた叔父さんに会うことが出来たのに…。
叔父「紫水君?
君は僕の事が好きかい?」
紫水「当たり前やろ!
今日まで叔父さんに会う為だけに生きて来たんや!」
叔父「そっか…。
僕も君が大好きだよ(笑)」
この時、叔父さんは本当に嬉しそうな顔で笑った。
叔父「だから僕を消して欲しいんだよ。」
叔父さんの表情がまた険しくなった。
葵「口を挟んで申し訳ありません。
しかし、余りにも唐突過ぎて話が見えません。
どうか、分かるように説明して下さい。
それでないと私はおろか紫水さんは納得出来る筈がありません。」
叔父「説明ねぇ…。
まぁそれもそうだね。」
そういうと叔父さんは話し始めた。
叔父「本当はね?
君達をあの家から救った後、すぐにでも消して欲しかったんだよ。
でも、あの時の君達じゃどう頑張っても僕を消す事なんて出来ない。
だからね?
匠君の件を君達に依頼したんだよ。
神が相手だからね。
嫌でも君達は今以上に強くならないといけないだろ?
それに上手くいけば、匠君というもう一人の強力な術者も君達の仲間になる。
そして、君達は見事に僕の依頼をやり遂げた。」
匠「そ、それじゃあ紫水や葵に俺の暴走を止める様に依頼したのは、全ては叔父さん自身を消させる為の伏線だったって事…。」
叔父「正解!(笑)
僕の読み通り、君達は本当に強くなって帰って来た。
そして匠君も連れてね。
本当に予定通りに。」
葵「ちょっと待って下さい!
今の話しは分かりました。
ですがそれは、何故、私達を匠さんの元に向かわせたか。の説明であって、叔父さんを消さなくてはならない説明にはなっていません。
そこをお話し下さい。」
叔父「ばれちゃった?(笑)
誤魔化されてくれると思ったんだけどなぁ(笑)」
紫水「ちゃんと…ちゃんと説明して…。」
叔父「紫水君…。
分かったよ。
ただ、余り時間が無い様なんだ…。
だから手短に話すよ?
何故?どうして?は無しだよ?
理解出来なくともそれが真実なんだから。」
そういうと叔父さんは話し始めた。
叔父さんは、あの家の呪縛が解け、僕達に出会った頃から、何か異変を感じていたらしい。
それがどの様な物か、叔父さん自身にもはっきりとは分からなかったが、不意に自分が自分で無くなる感覚に襲われるのだと言う。
そして一度そうなってしまうと自分で自分の力を抑えられなくなってしまう。
叔父「これはね?
あくまで僕の推測だけど、僕という存在しない存在が、徐々にその存在を強めていると思うんだ。」
存在しない存在が存在を強める??
僕「あの…。
全く意味が理解出来ないんですけど…。」
叔父「う〜ん…。
僕自身も良くは分からないんだけど…。
今、君達の中で僕は、善か悪かどっちだい?」
葵「勿論、善ですよ。」
紫水「叔父さんは昔からずっと善のままや…。」
匠「俺は良くは分からないけど、絶対に悪では無いな。」
叔父「そう思うだろ?
でもそれがおかしいんだよ。」
叔父さんが善の何がおかしいんだ?
僕には全く理解出来ない…。
叔父「僕は無の存在なんだよ?
そんなモノに善悪があると思うかい?
確かに今までは、不思議と僕の自我が生きていたから、善として存在していられたのかも知れない。
でもそれが無くなったら?
僕は善でも悪でも無くなるんだよ。
例えるなら、無邪気に笑いながら動物を殺めてしまう子供の様に、僕も君達を殺めるかも知れない。
僕「そ、そんな事、絶対にありませんよ!」
叔父「そう言い切れるかい?
それは僕が君達を殺める事を、君達が悪だと捉えているからだろ?
でも、僕には善も悪も無いんだよ?」
紫水「そ、そんな事…。」
叔父「匠君を守っている少女は、それに気付いたんだよ。
僕を避けようとしたのもその為だよ。」
叔父さんが僕達を殺める?
善悪の区別がつかなくなってしまう?
それがもし、本当だとしたらとんでもない事になる…。
叔父「だから…だから僕を消して欲しいんだよ。
君達は何も気にする事は無いんだよ。
僕という存在はずっと昔にこの世から消えているんだから。
君達の前にいるのは、一体の化け物だ…。
化け物を消し去るのは君達の仕事だろ?
だから、僕から君達に依頼する。
君達の手で僕という化け物を消し去って欲しい…。」
叔父さんの言葉に誰も何も返さない。
返せる訳がない。
紫水さんにいたっては俯いて涙を流している。
叔父「お願いだよ。
僕の自我が消えてしまう前に…僕を…」
紫水「分かった…。」
?!
僕「ちょっと紫水さん?!」
葵「紫水さん!
早まらずとも何か他の方法があるかも知れないのですよ?!」
紫水「私は誰よりも叔父さんの事を知っています。
その優しさも…その強さも。
叔父さんはずっと私の憧れでした。
これからもずっと…。」
紫水さん…。
紫水「そんな叔父さんが私達にお願いしているのです。
聞かない訳には行きませんよ…。」
それは絶対に紫水さんの本心じゃない…。
この場にいる誰もがそう思った筈だ。
叔父「紫水君…。
ありがとう。
葵君、匠君、君達にも面倒をかけて本当にすまない。」
叔父さんはそういうと僕達に向かって頭を下げた。
叔父「さぁ…。
それじゃ早速始めようか…。」
そう言って叔父さんは小屋の外へ向かう。
僕達も力無く、その後に続く。
叔父「いいね?
さっきも言った通り、僕は化け物だ。
何の躊躇もいらないよ?
君達の全力を僕にぶつけるんだ。
僕は何の抵抗もしない。
今の君達三人の力を全力で無抵抗の僕にぶつければ、幾ら僕でもただでは済まない筈だ。
もう一度言うよ?
何の躊躇もいらない。
一度で消えなければ何度もぶつけるんだ。
僕が完全に消えて無くなるまで…。
いいね?」
僕は涙で前が見えない…。
いや、僕だけじゃない。
紫水さんも葵さんも、匠さんまでもが涙を流し、今にも膝から崩れ落ちそうになっている。
それでも三人の目はしっかりと叔父さんを見据えている。
ピシッ!!
空気が張り詰め、振動し始めた。
三人が覚悟を決めた様だ…。
ゴゴゴゴ!と地鳴りの様な音が響き出した。
今の三人が全力を出せばこれ位は当然か…。
これを何の抵抗も無く受ければ叔父さんは…。
紫水「叔父さん…行くよ…」
紫水さんが叔父さんに声をかけた。
叔父さんは静かに目を閉じる。
三人はそれぞれに印を結び、葵さんは地面に両手を、紫水さんは天に両手を、匠さんは胸の前で手を打った。
爆音と共に、衝撃が叔父さんへ向かっていく。
叔父さんは静かに目を閉じた。
そして、何とか聞き取れる程の声で呟いた。
叔父「紫水君…。
君が僕の甥で本当に良かった…。」
物凄い衝撃音と共に舞い上がる砂ぼこり。
衝撃により空高く舞い上がった巨木が次々に地面へと降り注ぐ。
お…叔父さん…。
僕はその場に座りんだ。
紫水さんも膝から崩れ落ち、地面を見つめている。
舞い上がった砂ぼこりが風に流され、徐々に叔父さんのいた場所が見える様になって来た。
そこには叔父さんの姿はなかった…。
僕「お、おじ…」
紫水「叔父さん!叔父さん!叔父さん!!!」
僕の声を書き消すように紫水さんが叫ぶ。
紫水「叔父さん!叔父さん!!
叔父…さん…。」
誰も紫水さんに声をかけられなかった…。
葵さんも匠さんも俯き何も言わない。
「匠!!!」
不意に匠さんの名前を叫ぶ女性の声。
四人が一斉に声が聞こえた方を見た。
?!
匠「蛍?
どうした?!」
そこには蛍さんの姿が。
そして、蛍さんは険しい顔で空を見ている。
蛍さんの視線を追うように空を見上げる僕達。
?!
紫水「なっ?!」
僕達が見上げた先。
そこには僕達を見下ろす叔父さんの姿。
葵「ど、どういう事です?!」
動揺を隠せない僕達の前にゆっくりと降りて来る叔父さん。
紫水「叔父さん?!
こ、これは…?」
叔父「これは?
これは何だい?
僕が聞きたいよ。
危うく君達に消されるところだったよ。」
叔父さんの言っている事が分からない…。
自分で消して欲しいと頼んだはず…。
紫水「叔父さん?
本当に叔父さん…ですか?」
叔父「本当に?(笑)
僕が君の叔父さんじゃ無かったら僕は誰なんだい?(笑)」
間違い無く、目の前にいるのは、僕達がよく知る叔父さん。
だが、それは間違い無く叔父さんでは無かった。
紫水「自我が消えたか…。」
匠「自我が消えたって事は、今が純粋な無の存在ってヤツか?!」
葵「そうなりますね…。
これはかなり厄介ですよ…。」
三人の表情があからさまに曇っていく。
蛍「た、匠_。
絶対に戦っちゃダメ…。」
?!
蛍さんが震えている?
匠「蛍…。
あぁ…これは確かに簡単には行きそうもねぇよな。
お前が怯えんのも無理はねぇ…。」
蛍「ち、違う…。
コレはそんなんじゃない!
勝てるとか勝てないとか…。
完全に次元が違うの…。」
あの蛍さんの怯え様…。
彼女も今は匠さんの守り神として、それ相応の力を持っているはず…。
その彼女があそこまで…。
蛍「に、逃げて…。
私が時間を稼ぐから皆逃げて…早く!!」
そういうと、蛍さんは叔父さんの前に立った。
叔父「おや?
もう一度、死んでみるかい?(笑)」
匠「てめえ!!」
匠さんが激昂し、叔父さんの胸に両掌を当て、何かを呟いた。
ボンっ!
瞬間、叔父さんの胸が弾けとんだ。
匠「へっ。
ざまぁみやがれ!」
胸を吹き飛ばされ、穴を開けた叔父さんを見て匠さんが言う。
叔父さんは黙って穴の空いた自分の胸を見つめていた。
叔父「これが何か?」
?!
目の錯覚だろうか?
先程までは確かに叔父さんの胸には穴が空いていた。
それをじっと見ていた筈だ…。
だが、その穴が今は無い…。
目を離した訳では無い。
かと言って、目の前でみるみるうちに
穴が塞がった訳でも無い…。
気が付くと穴はもう無かった…。
全く理解出来ない…。
匠「ば、化け物が…。」
紫水「匠さん!
すぐに離れて!
ソレはもう私達の知る叔父さんではありません。
残念ですが…本当に化け物に…。」
叔父「だから言っただろう?
僕は化け物だって(笑)」
今の叔父さんは確かに僕達の知る叔父さんじゃない…。
でも、僕達の知る叔父さんだった頃の記憶がある…。
?!
それじゃまだ完全に自我は消えてない?!
僕「紫水さん!
叔父さんはまだ完全に自我が消えた訳じゃありませんよ!
自我が消えていれば、僕達の事も分からない筈!」
葵「確かに…。
ですが…それが分かった所で一体どうすれば…。」
蛍「違うの!!
あなた達がどうこう出来る相手じゃないの!
本当にそんな次元じゃないの!
分かって!!」
蛍さんは僕達を逃がそうと必死だ。
そんな蛍さんを嘲笑うかの様に叔父さんが口を開いた。
叔父「僕はね?
別に君達がどうなろうが構わないんだよ。
でも、君達が僕の邪魔をするのなら、すぐに消してあげるよ?
少しだけ待ってあげるから、早く決めてくれないかなぁ?」
そういうと叔父さんはその場に座り込んだ。
蛍「こっちへ来て!」
蛍さんが僕達を叔父さんから少し離れた場所に呼ぶ。
蛍「いい?
良く聞いて。
私が最初にあの人に恐れを抱いたのは、存在している筈のあの人から何も感じられなかったからなの。」
僕「何も感じないって、叔父さんは無の存在なんだから当たり前じゃないんですか?」
蛍「えぇ…その通り。
でもね?
あなた達、人間と私達は違う…。
私は霊体として、此処に間違い無く存在している。
霊体の存在はあなた達三人にも感じとれるでしょ?」
僕以外の三人が頷く。
蛍「でもそれ以外に、私達にしか感じられない特別な波動?っていうのかな?
そういう物があるの。
それは、どんな形であれ、この世に存在する以上、全ての者が持っている物なの。」
匠「へぇ〜。
そんなもんがあんのかよ…。」
蛍「そう…。
でも…初めてあの人を見た時、それが全く感じられなかった…。
ううん…凄く不安定だったけど、ほんの少しは感じられたかも知れない…。
私はそれが凄く不安で怖かったの。
でもね?
今は本当に全く感じられない…。
絶対にそんな事有り得ないのよ!!
あれは…あの人には絶対に関わっちゃダメ…。
多分、あの人がその気になったら、私なんて一瞬で…ううん、神話に出てくる様な本当の神様だって何も出来ずに消されてしまう…。」
そ、そこまでの力なのか…?
紫水「そうですか…。
やはり叔父さんはもう叔父さんでは無いのですね…。」
紫水さんが悲しそうな表情で言う。
紫水「だとするなら…。
自分を消して欲しい。と言うのは、叔父さんが叔父さんでいられた間の最後の願い…。
それならば…。」
葵「えぇ…。
叔父さんの最後の願いを叶え無い訳には行きませんよ。」
匠「俺はあんまり良くは知らねぇけど、お前ら二人がそこまで慕う人だ…。
それに、俺の命を救ってくれた恩人だ。
ならこの命、賭けねぇ訳にはいかねぇよな?(笑)」
やっぱりこの人達は最高だ…。
何があっても、叔父さんの最後の願いを叶える積もりだ。
僕は心からこの三人を頼もしく感じた。
でも…それは同時に叔父さんを消し去る事になる…。
僕は複雑な心境のまま三人を見つめていた。
蛍「分かった…。
もう止めない…。」
匠「蛍…すまねぇな。」
蛍「匠が戦うなら、私は匠を守る為に戦う!」
蛍さん…。
「もうそろそろいいかな?」
?!
叔父さんが立ち上がり僕達に声をかけた。
紫水「えぇ…。
もう結構ですよ。
やはり貴方には消えて頂きます。」
叔父「そっか(笑)」
キ―ン!!!
叔父さんが微笑んだ途端に場の空気が張り詰めた。
蛍「普通の術じゃ絶対、あの人は倒せない。
私が気を反らすから、あなた達の全力をあの人にぶつけて!」
そう叫ぶと蛍さんは青い光となり、一気に叔父さんとの間合いを詰めていく。
ゴゴゴゴ!!!
再び地鳴りの様な音が響き出した。
三人はそれぞれに印を結びながら叔父さんの元へ駆け出している。
「キャ―!!!」
蛍さんの悲鳴が響き渡る。
?!
叔父「どうしたんだい?(笑)」
先に叔父さんに詰め寄った蛍さんの半身が黒く変色していく。
蛍「う"…うぅ…」
蛍さんが危ない…。
蛍さんが自らを犠牲にしている間に、三人は叔父さんの背後に詰め寄っている。
叔父さんまで、もう後少しの所で叔父さんが三人に気付き振り向いた。
?!
僕「行くな―!!!!!!!!!!!!!!」
僕は大声を張り上げた。
声を出し過ぎて、喉が焼かれた様に熱い。
だが、僕は必死に叫ぶ。
僕「止まれ―!!!!!!!!!!!」
今が絶好の機会なのかも知れない…。
蛍さんが身を犠牲にしてまで作ってくれた好機。
今を逃すともうチャンスは無いかも知れない…。
でも…僕には三人を止めるしか無かった…。
僕は見てしまったから…。
三人に気付きこちらを振り向いた叔父さんの…。
その失われた筈の目が怪しく光るのを…。
紫水「?!
戻りますよ!」
僕の呼び掛けにか、何かを感じとったのか紫水さんが二人を制止し、戻る様、告げた。
蛍「あ"ぁぁぁ!!!」
匠「蛍!
蛍!!!!」
叔父「簡単に消すのは面白くないかな?(笑)」
そういって叔父さんは蛍さんを無造作に放り投げた。
蛍「あ…ぁ…」
蛍さんの全身は黒く変色している…。
匠「おい!
蛍?
蛍!!」
蛍「ごめんね?匠。
全然時間稼ぎ出来なかった…。」
?!
蛍さんの体が消えていく…。
匠「おい…嘘だろ?
おい!
おい!待てよ!
蛍?
蛍!!」
必死に呼び掛ける匠さんの腕の中で、蛍さんの体は完全に消えていった。
叔父「そんなに慌て無くても大丈夫だよ?(笑)
彼女はまだ消えていないから。
形を留めきれずに君の中に戻っただけだよ(笑)」
叔父さんは薄ら笑いを浮かべそう言った。
匠「て…てめぇ…。
ゆ…許さねぇ…。
許さねぇ!!」
匠さんが叔父さんに向かって走り出した。
匠「なっ?!」
僕は匠さんの前に立ちはだかる。
匠「カイ!
てめぇなんのつもりだ?!
どけよ!!」
僕は匠さんを無視し、叔父さんをじっと見つめる。
叔父「おや?
カイ君。
君も消して欲しいのかい?(笑)」
紫水「カイさん!
何をしているのです!
早く離れなさい!」
葵「あなた死ぬつもりですか?!」
僕は紫水さんや葵さんの呼び掛けにも応じず、じっと叔父さんを見つめる。
僕「叔父さん。
本当にこれでいいんですか?
僕は…僕はあなたを化け物だなんて思いたくありません!
紫水さんや他の皆だってそうです!
本当にあなたを消したいだなんて思っている筈がありません!
あなたは無なんかじゃない!
ちゃんと此処に存在しています!
どうか…どうかあの優しかった叔父さんに戻って下さい!
お願いします!
叔父さん!!!!!!」
僕は必死に呼び掛けた。
それが今の叔父さんに届くかどうかなんて関係ない。
ただ、自分の想いを…紫水さん達の想いを伝えたかった。
葵「危ない!」
突然、葵さんが僕を押し退けた。
葵「くっ…………………。」
葵さんの胸に深々と突き刺さる腕…。
叔父「邪魔をするから外しちゃったじゃないか(笑)」
力無く、その場に崩れ落ちる葵さん…。
匠「クソが!!!」
ドンっ!
?!
叔父さんに詰め寄った瞬間、匠さんの胸にも叔父さんの腕が突き刺さる…。
僕「あ…あぁ…葵さん…?
た、匠さ…ん?」
二人とも地面に倒れ込み、ピクリとも動かない。
紫水「…めろ…やめ…ろ…
やめろ―!!!!!!!」
紫水さんの叫びに共鳴するかの様に突風が吹き荒れる。
叔父「何をそんなに怒っているんだい?(笑)」
叔父さんはこの状況に眉一つ動かさない。
そして次の瞬間。
ドンっ!
?!
気が付くと、僕の胸は叔父さんによって貫かれていた…。
僕「お…おじ…さ…ん…」
叔父「…だ………ね…………」
?!
僕はゆっくりとその場に崩れ落ちていく。
体はピクリとも動かない。
だが、意識ははっきりしており、対峙する紫水さんと叔父さんの姿をはっきりと捉える事が出来た。
紫水「か…カイさん…。
あ…ア"ァァ―!!!!!」
紫水さんの周りを包み込む突風が更に凄みを増して来た。
それは周りの木々を薙ぎ倒す程の暴風。
それがピタッと止んだとき、紫水さんの体に変化が起こっていた。
透き通る雪の様に白かった頭髪が、闇の様な黒に変わり、優しく澄んだその目は、血のように赤く染まっていた。
叔父「へぇ…。
さすがだね…。」
紫水「殺してやる…。
今すぐに!!!!」
そう叫び、叔父さんへと駆け出す紫水さん。
とても人間の速度とは思えない早さで叔父さんとの間合いを詰めていく。
紫水さん…。
駄目だ…。
叔父さんは…叔父さんは………。
僕は今にも叔父さんへと襲い掛かろうとする紫水さんに伝えたかったが、声が出ない。
紫水さん…止めて…。
叔父さんは…叔父さんは!!
ドンっ!
?!
あ…あぁ…。
紫水さんの両腕は、叔父さんの胸を貫き背中へと突き出していた。
叔父「ガっ!……」
時間をかける事なく、一瞬で黒い霧となり消え去った叔父さんの体…。
紫水さんは暫く呆然としていたが、ゆっくり膝から崩れ落ち肩を震わせている。
葵「し…紫水さん…。」
?!
紫水「あ、葵さん!
無事なのですか?!」
いつの間にか元の容姿に戻っていた紫水さんが葵さんの呼び掛けに驚いている。
少し離れた所で匠さんも立ち上がろうとしていた。
僕も何とか立ち上がる事が出来たので、ゆっくりと紫水さんの元へ向かう。
紫水「カイさん!
あなたも無事だったので………」
僕「すいません!!!!」
僕は地面に頭を叩きつけ紫水さんに土下座をした。
紫水「?!
か、カイさん?!
一体何を?!」
紫水さんは突然の僕の行動に驚いている。
僕はそんな紫水さんに対し、何度も何度も地面に頭を叩きつけ謝った。
僕「すいません!
すいません!!
僕が悪いんです!!
すいません!!
僕が…僕が…」
紫水「ちゃんと話して下さい。」
紫水さんが僕を止め、言った。
僕は溢れる涙を堪えきれず、途切れ途切れに話し出した。
あの時…。
叔父さんが僕の胸を貫いたあの時…。
叔父さんは正気に戻っていた…。
胸を貫かれ、呆然とする僕に、叔父さんはこう言った。
叔父「大丈夫…。
皆無事だからね?
カイ君の叫びが最後に僕を正気に戻してくれた。
迷惑をかけて本当にすまない…。
僕はこのまま悪として本当の無に帰るよ…。
どうか紫水君を頼むよ…カイ君。」
僕「叔父さんは…。
叔父さんは…正気に戻っているのを隠して…。
わざと紫水さんに消される事を望んだんです…。」
「嘘だ―!!!!」
僕の話を聞いた紫水さんは涙を流し、そう叫んだ。
その後、紫水さんと僕は涙が枯れるまで泣き続けた。
紫水「最後まで本当に格好いい叔父さんでした…。
私もいつまでもくよくよしていては叔父さんに笑われてしまいますね…。」
紫水さんが涙を拭いなからそう言った。
紫水「さぁ!!
行きましょう!」
葵「そうですね…。
私達はしっかり前へ進みましょう。」
僕「そ、そうですね…。」
グゥ〜。
?!
僕「すっ、すいません!
こんな時に不謹慎な!」
匠「ほんとだぜ(笑)
でっけぇ腹の音だなぁ。」
紫水「無理もありませんよ(笑)
ずっと何も口にしていませんでしたからね。
何処かで食事にしましょう。」
葵「カイさん?
何の力も持たないあなたがここまで…。
疲れたでしょう?
何か食べたい物はありますか?」
僕「僕が決めるんですか?
ん〜。
じゃあハンバーグで!(笑)」
「さんせ〜い!!!!」
?!
匠「蛍!!」
いつの間にか匠さんの後ろに蛍さんが立っていた。
匠「お前!心配したんだぞ!!」
蛍「そんな事より早く行こうよ〜ハンバーグ!(笑)」
匠「ったく…」
匠さんの目から涙がこぼれ落ちた。
そうして僕達は叔父さんの小屋に背を向け、山を降りていく。
先を歩いていた僕が後ろを振り返ると、紫水さんは一人立ち止まり、小屋を見つめていた。
僕「本当に格好いい叔父さんでしたね…。」
紫水さんの横に並び話しかける僕。
紫水「えぇ(笑)
最高の叔父さんです。」
そう言って紫水さんは笑う。
紫水「さぁ。
行きましょう。」
紫水さんは小屋に背を向け、先を行く葵さん達を追いかけた。
僕は紫水さんが行った後、小屋に向かって頭を下げた。
僕「ありがとうございました。」
そう言って皆を追いかけようとした僕。
その時、開け放たれた小屋の奥で何かが怪しく光った気がした。
作者かい
ちょっと寂しいのは気のせいですか?!