短編2
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顔時計

都内にある某テレビ局のミキシングルームには一風変わった時計がある。

部屋の西側には壁一面に数十台の小型モニターが据え付けられているのだが、壁の右端は50㎝程の柱が飛び出していて、そこにシンプルな丸い時計が一つ、天井近くに掛けられている。

誰もがというわけではないが、その部屋で作業した者、大体三人に一人くらいの割合で時計の異変に気が付くという。

黒い二本の針に1から12までの黒い数字、そして白い文字盤。

年代物ではあるのだが特に珍しいところはない。

ただの壁掛け時計だ。

目撃情報が集中するのは日没から日が変わる深夜にかけて。

朝や昼間にその異変を目にしたという話は数としては極端に少なくなる。

作業中にふと時計に目をやると何か違和感がある。よく見ると文字盤の数字が消えてその代わりに人の顔が現れている。

大きさとしてはパスポート用証明写真サイズ。顔は遺影のようにモノクロ。

12個の数字の代わりに12人の顔。しばらくするとまた数字に戻っている。

目撃者から詳しく話を聞くと、

1・その顔は見覚えのない人間がほとんどで年齢や性別もバラバラ。

2・ただし赤ん坊や子供の顔は目撃情報なし。

3・おそらく全て故人の顔だと思われる。何故かと言うと、稀に芸能人の顔が現れるのだがその全てが故人のものだったから。

4・八時ちょうどや九時ちょうどといった区切りの時間に目撃されることが多いらしい。

実害は無いが、一度それを見た人間は二度とその部屋には入りたがらない。

5・ちなみに、時計に表示された芸能人は全て、死因が自殺である。

Concrete
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