●最初に
章タイトルでは---となっているがそこにはブランクの数通り三桁の数字が入る。
実際の数字を書かないのは場所を特定させたくないのではなく別の理由のためである。
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山間の道路を車で走っていると深い緑の中にポツンと一軒、民家が現れることがよくある。
周囲数㎞に住宅も商店も公的施設もなくただ一軒孤立した屋敷。
こういうところに住んでいる人はどのような生活をしているのかとたまに思う。
仕事は、買い物は、こどもがいるなら学校は、医者は、想像にはきりがない。
だが実際こういう民家は別に孤立しているわけではなく近くに集落があってそれにこちらが気付いていないだけということがほとんどだ。
所詮通りすぎるだけのよそ者、周辺の地理には疎い。
以前(五、六年前だと記憶している)、家族と実家から一番近い(それでも車で二時間はかかる)新幹線の駅に移動するため国道---号線を西に向かっていた。
曲がりくねった一車線の道で車酔いしやすい僕は気分が悪くなり窓の外を眺めていた。
家族は何か話していたがその内容は忘れてしまった。
一軒の大きな屋敷が緑の切れ間に見えてきた。
石垣の上にある大きな農家、瓦にはつやがなくまるで軽石のように見える。
平屋建てで木造。
柱も白く粉を吹いているようで大分古いことは間違いない。
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あ、葬式。
庭に面した縁側にくじら幕が端から端までかけられていた。
やっぱりこういう田舎は葬式とかも規模が大きいんだろうなあと思って見ていると何か嫌なものが視界に入った。
時間にして五秒にも満たないが今でも覚えている。
小さな椅子に並んで座った白無垢を着た女と袴を着た何かがいた。
多分あれは祝言だろう。
女は歯を剥いて目を閉じて前後に揺れていた。
袴を着た何かは首の部分に首がなく、まるで肩のようになっていた。
家族はくじら幕の奥や玄関の中を見たらしいが詳しくは教えてくれない。
聞き出したらまた書きます。
作者退会会員