「私は人を殺しました!逮捕してください!」
「えっ!?なんですか?もう一度お願いします!」
「ですから、私は殺人犯なんです!逮捕しないといけないんじゃないですか!?」
交番にスーツの男がやって来たので、落とし物か道案内だろうと思ったのだが、まさか殺人の自白をするとは。
いや、僕もこの交番には数年いるが、こんな大事件は始めてだ。
しかし、自白もなにもまだ被害者の遺体も見つかっていなければ、失踪者の話も出ていない。
ちゃんと話を聞いて、慎重に進めなければ。
「で、では、詳しい事を聞かせてください。まず……」
「そんなの後でいいので、とりあえず来てください!」
男は僕の腕を掴んで、強引に引っ張っていこうとする。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ。」
「待てません!こっちに私が殺した死体が隠してあるんですよ!」
「ええ!?ホントですか?なら付いていくので腕は離してくださいよ。」
驚いた。まさかいきなりこんな事になるなんて。
でも、この男、かなり言動がおかしいな。
ずっと興奮しっぱなしだし、いまだって目の焦点があっていない。
まあだからこそ、この自白に真実味があるってものだ。
だけど普通、自分で殺した上に遺体を隠しもした殺人犯が、その被害者も見つかっていないのに交番に出向くか?
そこは腑に落ちない。
そんな事を考えているうちに、僕たちは山奥……
ではなく、近所の小さな公園にたどり着いた。
「え、この公園の中にその被害者が?」
僕は思わず辺りを見渡す。
鉄棒、ブランコ、砂場、トイレ、ベンチ。それ以外なにも無い。
人を隠せるところも埋めれそうなところも無い。
「……それで、いったいどこに?」
誰かいるかも知れないので、一応濁す。
「私が殺した死体ですね!見てください!こっちです!ここに死体を埋めたんです!」
男は人目もはばからず大声で一点を指差す。
そこにあるのは……
「す、砂場ですか?」
とてもとても小さな砂場だ。こんな所、犬猫でも埋めれば見つかってしまうだろう。
もちろん人間の体なんて。
「見ててください!」
そう言うと男はポケットから、スコップを取り出した。
そして、
「ここに!ここに!埋まってるんです!見ててください!」
一心不乱に砂場を掘り返し始めた。
「ここに!この下に!私が!私が殺したんです!ここに!
あれ?……無い!なんで、なんで死体が無いんですか!?」
男は一通り掘り返したが、まだまだ掘るのをやめようとしない。
「こ、ここに!ここに埋めたんです!なんで?なんで!」
「ちょっと、大丈夫ですか!?」
男のあまりの奇行に驚いてしまったが、なんとか平静を装い男を止めようとする。
「止めるなー!このクソ警察めー!オレはクソマジメナお前と違って殺人鬼なんだ!嘗めてるンかー」
「何言ってるんですか!?ちょっと一端落ち着きましょうよ。とりあえず交番に戻りましょう。」
酒の臭いはしないが、どう見ても正気じゃない。
こいつは、何かクスリをやっているのか?
「ウルセー!この偽善者!オレは!殺人鬼だー!ココニ埋まってンだよー!」
もう、これは駄目だ。応援を呼んで確保しておこう。
そう思い、無線に手をやった途端、
「オレは人を殺したんだ、人生経験が豊富なんだ、人間として豊かなんだ……」
男がふいにクールダウンした。
人生経験か。僕は学生の頃はけっこうガリ勉だったかな。
それなりに趣味もやっていたけど、カッコつけた大人は僕を見て「もっと悪さして豊かな人になれ」とかほざいてたっけ。
「
なんであなたが僕を豊かでないと見下すんだ。
」
辺りからいきなり、嗅ぎ覚えのある、
厭な臭いが漂う。
この臭気、孤独死の現場でたまに嗅ぐ、
ヒトの腐った臭い。人体が溶けできた、人形のシミの臭い。
もしかして、本当に?
「私は皆の言うような人じゃないんだ……本当は恐ろしい殺人鬼なんだ……イイコでもキマジメでも無いんだ……」
ああ。僕も子供の頃はイイコと言われたもんだな。
父さんや叔父さんには、男はもっとヤンチャしないととか言われたな。
この仕事についてからも、やれ真面目すぎるだの、もっと人生楽しめだの。
「
僕が真面目に生きてきた人生はゴミだと言うのか?
」
ますます、臭いが酷くなる。でも遺体は無い。
では、何処から?
辺りを覆いだした怪しい雰囲気に気圧され、僕は何も言えなくなっていた。
あれ?体まで動かなくなっている。
するといきなり、男が嘔吐した。
いや、よくみると、嘔吐物と思った物は大量の蛆虫だ。
蛆虫達は、蛆虫と思えない程の速さで。離散していった。きっと彼等は人を殺しに行くのだろう。
いつの間にか、男はいなくなっていた。
しかし、声だけが頭に響いてくる。
「私はつまらない人間じゃないんだ……人を殺したんだ……人を殺すんだ……殺す……殺す……これからも、ずっと、ずっと、殺してやる。
殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる」
つまらない人間、そう言ってさんざんオレの事をバカにしてきた勘違いの野郎共。武勇伝という名の犯罪自慢の塵共。シミジミと昔を思い出すふりをする痴呆共。
「
何故お前達がオレを見下す。お前達が下だ。お前達は塵だ。こんな社会は屑箱だ。
」
そんな人間共も、社会も、世の中も、国も、
全て、全て全て、
全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て
殺してやる。
殺してやる。
ーーーー受け入れてくれるんだね。
不意に知らない声がした。
声の方には、小さな、子供ぐらいの大きさの
「ミイラ」が
あった。
ミイラは、地面と根のような物で繋がっていた。
それは、この地域の、国の、星の養分を全て吸い付くして、怨念を育て上げるためのものなのだと、何故か理解出来た。
ーーーーこれを食べて。
ミイラの指が一本取れた。食べろ、ということなのだろう。
しかし、オレには迷いはない。
オレは殺してやるのだ。このクソみたいな全てを。
例え人間の命を捨て、人を殺すだけの鬼になったとしても。
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・・・・・・
・・・
・
「ん?僕は何をしてたんだ?」
公園の中で立ち尽くしていた警官が呟いた。
そして目線の先を確認する。するとそこには、
「人の死体っ!?なんで、誰が?いや、僕だ。僕が殺したんだ!誰かに言わなければ!」
今、この町では未知の病が猛威を振るっている。
初期症状としては、過去の過ちへの過剰な反省。
突然、昔の犯罪などを自白しだしたらそれは感染のサインてある。
次の症状としては「何か」への怯え。その「何か」を恐れるあまり、夜も眠れることはない。
その後は人によって様々な状態になってしまう。
しかしどんな場合であっても、
発症した場合、致死率は完全に十割であった。
この病は寄生虫の仕業だと噂する人もいる。
眠っている人の口の中に、気味の悪い蟲が入っていくのを見た人がいるそうだ。
気づいたのなら追い払えたはずだとも思うが、なんでもその目撃者は金縛りにあったように動けなかったらしい。
その目撃者によると、
「あれはただの虫じゃない!私にむかって殺してやるってしゃべってきたの!」
だ、そうだ。
この病は徐々に感染拡大しているらしく、死亡者数は日に日に増えている。
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・・・・・・
・・・
・
「僕は人を殺しました!逮捕してください!」
「な、何を言ってるんだ!?ちょっと話を聞かせてくれ……」
ウワサの隣町から来たというこの男。まさかいきなり殺人事件を自白してくるとは。
まさかこの男も感染してるんじゃ無いだろうな……
たしか、空気感染はしないとされていたな。
……事件は事件だ。詳しい話を聞いてみるか。
作者和一
シャベルとスコップって関東と関西で逆なんですってね。
あ、本文にあるスコップっていうのはスコップの方ですよ。シャベルじゃない方です。
そうですその通り、穴を掘る道具の方のスコップです。