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中編6
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自白

「私は人を殺しました!逮捕してください!」

「えっ!?なんですか?もう一度お願いします!」

「ですから、私は殺人犯なんです!逮捕しないといけないんじゃないですか!?」

交番にスーツの男がやって来たので、落とし物か道案内だろうと思ったのだが、まさか殺人の自白をするとは。

いや、僕もこの交番には数年いるが、こんな大事件は始めてだ。

しかし、自白もなにもまだ被害者の遺体も見つかっていなければ、失踪者の話も出ていない。

ちゃんと話を聞いて、慎重に進めなければ。

「で、では、詳しい事を聞かせてください。まず……」

「そんなの後でいいので、とりあえず来てください!」

男は僕の腕を掴んで、強引に引っ張っていこうとする。

「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ。」

「待てません!こっちに私が殺した死体が隠してあるんですよ!」

「ええ!?ホントですか?なら付いていくので腕は離してくださいよ。」

驚いた。まさかいきなりこんな事になるなんて。

でも、この男、かなり言動がおかしいな。

ずっと興奮しっぱなしだし、いまだって目の焦点があっていない。

まあだからこそ、この自白に真実味があるってものだ。

だけど普通、自分で殺した上に遺体を隠しもした殺人犯が、その被害者も見つかっていないのに交番に出向くか?

そこは腑に落ちない。

そんな事を考えているうちに、僕たちは山奥……

ではなく、近所の小さな公園にたどり着いた。

「え、この公園の中にその被害者が?」

僕は思わず辺りを見渡す。

鉄棒、ブランコ、砂場、トイレ、ベンチ。それ以外なにも無い。

人を隠せるところも埋めれそうなところも無い。

「……それで、いったいどこに?」

誰かいるかも知れないので、一応濁す。

「私が殺した死体ですね!見てください!こっちです!ここに死体を埋めたんです!」

男は人目もはばからず大声で一点を指差す。

そこにあるのは……

「す、砂場ですか?」

とてもとても小さな砂場だ。こんな所、犬猫でも埋めれば見つかってしまうだろう。

もちろん人間の体なんて。

「見ててください!」

そう言うと男はポケットから、スコップを取り出した。

そして、

「ここに!ここに!埋まってるんです!見ててください!」

一心不乱に砂場を掘り返し始めた。

「ここに!この下に!私が!私が殺したんです!ここに!

あれ?……無い!なんで、なんで死体が無いんですか!?」

男は一通り掘り返したが、まだまだ掘るのをやめようとしない。

「こ、ここに!ここに埋めたんです!なんで?なんで!」

「ちょっと、大丈夫ですか!?」

男のあまりの奇行に驚いてしまったが、なんとか平静を装い男を止めようとする。

「止めるなー!このクソ警察めー!オレはクソマジメナお前と違って殺人鬼なんだ!嘗めてるンかー」

「何言ってるんですか!?ちょっと一端落ち着きましょうよ。とりあえず交番に戻りましょう。」

酒の臭いはしないが、どう見ても正気じゃない。

こいつは、何かクスリをやっているのか?

「ウルセー!この偽善者!オレは!殺人鬼だー!ココニ埋まってンだよー!」

もう、これは駄目だ。応援を呼んで確保しておこう。

そう思い、無線に手をやった途端、

「オレは人を殺したんだ、人生経験が豊富なんだ、人間として豊かなんだ……」

男がふいにクールダウンした。

人生経験か。僕は学生の頃はけっこうガリ勉だったかな。

それなりに趣味もやっていたけど、カッコつけた大人は僕を見て「もっと悪さして豊かな人になれ」とかほざいてたっけ。

なんであなたが僕を豊かでないと見下すんだ。

辺りからいきなり、嗅ぎ覚えのある、

厭な臭いが漂う。

この臭気、孤独死の現場でたまに嗅ぐ、

ヒトの腐った臭い。人体が溶けできた、人形のシミの臭い。

もしかして、本当に?

「私は皆の言うような人じゃないんだ……本当は恐ろしい殺人鬼なんだ……イイコでもキマジメでも無いんだ……」

ああ。僕も子供の頃はイイコと言われたもんだな。

父さんや叔父さんには、男はもっとヤンチャしないととか言われたな。

この仕事についてからも、やれ真面目すぎるだの、もっと人生楽しめだの。

僕が真面目に生きてきた人生はゴミだと言うのか?

ますます、臭いが酷くなる。でも遺体は無い。

では、何処から?

辺りを覆いだした怪しい雰囲気に気圧され、僕は何も言えなくなっていた。

あれ?体まで動かなくなっている。

するといきなり、男が嘔吐した。

いや、よくみると、嘔吐物と思った物は大量の蛆虫だ。

蛆虫達は、蛆虫と思えない程の速さで。離散していった。きっと彼等は人を殺しに行くのだろう。

いつの間にか、男はいなくなっていた。

しかし、声だけが頭に響いてくる。

「私はつまらない人間じゃないんだ……人を殺したんだ……人を殺すんだ……殺す……殺す……これからも、ずっと、ずっと、殺してやる。

殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる」

つまらない人間、そう言ってさんざんオレの事をバカにしてきた勘違いの野郎共。武勇伝という名の犯罪自慢の塵共。シミジミと昔を思い出すふりをする痴呆共。

何故お前達がオレを見下す。お前達が下だ。お前達は塵だ。こんな社会は屑箱だ。

そんな人間共も、社会も、世の中も、国も、

全て、全て全て、

全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て

殺してやる。

殺してやる。

ーーーー受け入れてくれるんだね。

不意に知らない声がした。

声の方には、小さな、子供ぐらいの大きさの

「ミイラ」が

あった。

ミイラは、地面と根のような物で繋がっていた。

それは、この地域の、国の、星の養分を全て吸い付くして、怨念を育て上げるためのものなのだと、何故か理解出来た。

ーーーーこれを食べて。

ミイラの指が一本取れた。食べろ、ということなのだろう。

しかし、オレには迷いはない。

オレは殺してやるのだ。このクソみたいな全てを。

例え人間の命を捨て、人を殺すだけの鬼になったとしても。

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・・・・・・

・・・

「ん?僕は何をしてたんだ?」

公園の中で立ち尽くしていた警官が呟いた。

そして目線の先を確認する。するとそこには、

「人の死体っ!?なんで、誰が?いや、僕だ。僕が殺したんだ!誰かに言わなければ!」

今、この町では未知の病が猛威を振るっている。

初期症状としては、過去の過ちへの過剰な反省。

突然、昔の犯罪などを自白しだしたらそれは感染のサインてある。

次の症状としては「何か」への怯え。その「何か」を恐れるあまり、夜も眠れることはない。

その後は人によって様々な状態になってしまう。

しかしどんな場合であっても、

発症した場合、致死率は完全に十割であった。

この病は寄生虫の仕業だと噂する人もいる。

眠っている人の口の中に、気味の悪い蟲が入っていくのを見た人がいるそうだ。

気づいたのなら追い払えたはずだとも思うが、なんでもその目撃者は金縛りにあったように動けなかったらしい。

その目撃者によると、

「あれはただの虫じゃない!私にむかって殺してやるってしゃべってきたの!」

だ、そうだ。

この病は徐々に感染拡大しているらしく、死亡者数は日に日に増えている。

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・・・・・・

・・・

「僕は人を殺しました!逮捕してください!」

「な、何を言ってるんだ!?ちょっと話を聞かせてくれ……」

ウワサの隣町から来たというこの男。まさかいきなり殺人事件を自白してくるとは。

まさかこの男も感染してるんじゃ無いだろうな……

たしか、空気感染はしないとされていたな。

……事件は事件だ。詳しい話を聞いてみるか。

Concrete
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梨ジュースさん、ありがとうございます。
でも、続きは今のところ予定してないです…
続き物っていうのが苦手な人間ですので…
だけど関係のある話は書くかも知れないです。

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面白くてすぐに読み終わっちゃいました。
続き物でしょうか?楽しみにしております。

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