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中編4
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嫌な記憶

 

 皆さんは、一番最初の記憶というのを思い返したことはあるだろうか。

 私が、私だと気づいたのはいつの頃だったかというと、田舎の保育所の隣で、母親に手を引かれているという記憶だった。

 その前の記憶はない。あるのだろうが、覚えていないというのが正しい。

赤ん坊の頃に、しょっちゅう夜泣きをしたり、雨の後の泥に顔をうずめて、「ぺんぎん~」と宣っていたとかいう記憶には覚えはない。

 

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 ただ、ふとした拍子に昔のことを思い出すと、鮮明とは言い難いが、色々と思い返すことができてしまう。その事を母親や父親に伝えると、驚かれることがあった。

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 幼いころ、父親が交通事故にあい、病院へと搬送された。母が病院へと飛んでいき、兄と姉とお祖母ちゃんと一緒に留守番をしていた。

 どうやら、1歳くらいの事らしい。何で覚えているのだといわれたが、覚えているのだから仕方がない。

 不安そうに泣いている兄を姉が宥めている光景を見ていた。

 

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私自身が泣いたかどうかまでは、覚えがなかった。そのような昔のことをうろ覚えながらも覚えている。

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 無論、子供の頃の記憶というのは至極、曖昧なもの。正しいか、異なるかなどの判断は、年を重ねていくとぼやけてしまう。

 ただ、鮮明に思い出せる記憶はあった。

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それは、嫌な事。

友人Aに突き飛ばされて泣かされた。

ピーマンを生で食って、泣いた。

運動会の競争でカーブでこけて、どべで泣いた。

予防注射が嫌で、仕方がなくて、廊下を走って逃げた。掴まって泣いた。

全て、保育所での出来事である。

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 嫌な出来事は再現なく、鮮明に思い出せた。

 人と相対して、嫌なことを言われた時のセリフや表情、喧嘩したときの罪悪感や嘘をついたときの事。

 人間はそういう風にできているのだろうと思う。

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 そうやって、嫌な出来事を記憶の底からさらってみると、恐怖を感じた出来事というのも、意外に鮮明な記憶として残っている。

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 小学校2年の頃、季節は冬。夜中の2時頃。

 寝室である和室は、六畳一間程度。

 布団は三組。

 左端に私。真ん中に母。右端に父。

 兄が、洋室の一室にて、姉とお祖母ちゃんは二階で寝ていた。

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 兄の叫び声と扉を開ける音の所為で、父、母、私は目が覚めた。

 

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 兄が慌てた様子で、和室へと入って来るや、

 「窓の外で女の人が睨んでた!」

 と話す。窓というよりは、ガラス戸だ。

その上部は透明になっていて、その隙間から顔が見えたと説明した。

 

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 兄の言葉は無理があった。

 ガラス戸の上部から女の人が睨んでいたら、180センチくらいはある。

 ただ、兄がどうしようもなく焦っていた。

 母親は兄を宥め、父親が不機嫌な様子であったが、様子を見に外に出た。

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「二階で寝る!」

 と、兄は、母と私に言い残し、姉の部屋に逃げていく。

母は、私に向かって、寝るように伝えると、布団に入った。薄気味悪く感じつつも、母の言葉を受けて、私も布団に入る。

 

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 しかし、私は、兄の言葉の所為で、寝られなくなった。

 母親はすでに寝息を立てており、父親も外から戻ってきて、自分の布団に入ってしまい、寝てしまった。

父と母の寝ている姿を見て、気を紛らわせながら、早く朝にならないか、

眠たくならないかと考えていると、ふいに、父が寝ている足側の障子戸に視線を移す。

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 その時、ほんの一瞬、人の顔が見えたような気がした。

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 気がするだけの話だったが、気味が悪いと感じてしまった。

だから、身体の向きを左側に変える。その時、兄の言葉を忘れていのだろうと思う。

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 兄は、窓の外で女の顔が見えたといった。

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 私の布団からすぐ隣は、ガラス窓となっていた。

上部部分だけは、透明になっていて外の様子が見える作りとなっているのは、兄の部屋と同様だった。

白のレースのカーテンは閉まっていて、外は暗くて人の顔なんて見えるはずがない。

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 私は、ふと、左の天井付近にある黒い時計を見た。

 

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 時計の右横に、首だけの、髪が長い女の顔がはっきり浮かぶ。

 ものすごい形相で、私を睨んでいた。

 

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 兄のように悲鳴をあげることはなかった。

 ただ、布団をかぶって祈るように朝を待ち、結局、その時は一睡も寝れなかった。

 

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 次の日、兄と話をして、私も見たということを話す。

 兄と私は、当面、寝る場所を変えた。

 本当に嫌な記憶である。

 

 

 

 

 

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梨ジュース様、感想ありがとうございます。
子供の頃は怖い物事を怖いと感じてしまい、眠れませんでした。
現在は、怖い物事に面白さを覚えているので、逆に妄想して眠れません。
あれ、どっちに転んでも、不眠ですね。

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