現在、私の元母校は悉くが廃校になっていた。保育所、幼稚園、小学校、中学校に至るまで、子供の数が足りないためだ。
建物自体が撮り潰しされていないのは、市の予算がないからだろうと勝手ながら思っていたりするが、どうなのだろう。
田舎へ帰省すると、見知らぬ爺様や婆様が畑仕事やら、散歩などをしているのが目に付く。子供が遊んでいるような光景はない。寂しいものだ。
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ある夏、盆の時期、成人してから実家に帰省した際、あまりにもやることがなかったため、思い出の場所を巡ろうという企画を打ち立てた。
「〇〇くんあーそーぼー」
などと、片手で数えられる程度の友人へと声をかけたが、私の誘いに乗ることはなかった。
解せぬ、と思いながらも、基本ぼっちをこじらせている私である。
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祖母の愛用していた原付バイクにまたがり、思い出の場所を巡る暇つぶしに、一人で出かけた。
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基本、私の田舎は、やけにだだっ広い駐車場があったりはするが、如何せん人口が少ないため、誰も車を止めていない。
それなのに、海岸線にはどこからか来られたであろうサーファーの車が路駐してあるのは、もはや夏の風物詩であろう。
そんな風景を見ながら、道幅が1メートルもない程度に狭く、入り組んでいる道をたどり、やってきたのは、物寂しい海岸である。
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たぶん、通常のルートでは行くことが難しい。地元民でもきっと、あまり足を運ばないような場所だった。
干潮の際には、岩場ができて磯の生物を鑑賞したりできる他、周囲は高い崖となっており、外から見えない。少し歩くと、空洞のような洞窟があるが、今にも崩れそうなため、入ることは躊躇われる。
どこからか、漂流してきたであろう、流木やゴミが散乱して、とても美しいとは言い難いが、どこかミステリアスな魅力を感じるではないか。
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いや、そうでもないか。
とりあえず、懐かしいという気持ちを感じながら、色々と見て回る。
やけにゴミが多いなあ、地球に優しくないなあ。
そんな風に考えながら、岩場を上り、カニやらフナムシやらフジツボなどを鑑賞した。
小さい磯の中に、ナマコを発見。ちょっかいをかけると、紫色の汁がぶしゃあと出る。
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海岸に打ちあがったクラゲを海の彼方へ投擲して、暇を潰していると、
何か違和感を感じた。
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懐かしい風景である。以前に比べて、何が違うといえば、薄汚れている感じがする
といった程度。どこからか漂流してきた流木やら海藻やらクラゲやらが上がってきているのも、割といつもの光景だ。
ただ、やけにゴミが多い。
ペットボトルやカップラーメンなど、主に食料品のゴミが目に付く。
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やけに、生活感があった。
この海岸をベースに誰かがたむろしている可能性がある。
そのように感じた。
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私の実家は、人口が少ないため、周りの人はみんな知り合いというようなまさに田舎であった。そのためか、別段ホームレスのような人が居るという噂はない。
無論、ヤンチャを講じたようなお兄さん方は居るには居るが、大体良く知っている先輩だというのは、地元パワーのなせる業である。
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地元民のヤンチャさんは、既にいい大人であるし、こんな人目の付かずアクセスの悪い場所で集まることは考えにくい。
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今の時分、お盆の真っ最中。お盆には海に入るなという迷信があるが、実際は、クラゲやらイラが大量に発生するため、泳ぎたくないという事実があり、海で泳ごうとする地元民は少ない時期だ。
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そもそも、泳ぎに来る人間はこんなところに来ない。
そもそも、地元の人間でさえここはあまり知られていない。
子供なら、まあ、好奇心があるから秘密基地にはするだろうが、子供の数は少ないから、どうだろう。
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誰かがここをベースにしているとして、それは一体、どんな奴だろう。
こんな物寂しい海岸をベースに行動するなんて、ろくなやつじゃないだろうな。
と、私は自身の思い出を全否定し、さっさと逃亡することにした。
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私の座右の銘は、好奇心は猫を殺すである。
まだ見ぬ誰かに遭遇して、何かのトラブルに巻き込まれるなど、溜まったものではない。
私はその海岸から、誰に見つかることもなく、無事に逃げ出すことができた。
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その後の思い出を巡るツアーは、残念ながら、私が夏の暑さに負けた為、流れとなった。
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正月前に、実家の友人とスカイプで通話をしていると、最近、地元で放火があったという話題になった。
「え、放火ってそんな物騒なことが、田舎怖いわー」
「うっせーよ。都会の方が怖いわ」
などと、会話しつつ、詳しい話を聞いていく。
「最近、物がなくなったりする家が多くて、警官結構動いててさぁ」
「物がなくなるとか、戸締りしないと」
「お前の実家、鍵ないよな」
「はい、ありません」
田舎に鍵はない。実話である。
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「犯人は、捕まったん?」
「ああ、どこの人か知らんけど、一連の泥棒とかもその人が犯人とかいうね」
「へえー、まあ捕まって良かったねぇ」
「他人事かっ」
と、笑い話に花を咲かせて、友人は話を続ける。
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「お前知ってると思うけど、その犯人は結構長いこと入江の洞窟に居たらしいよ」
「入江の洞窟?」
私が友人に聞き返すと、ほら、あそこだって、と言って、詳しい場所を述べる。
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それは、思い出の場所だった。
あの時点で、犯人がいたのか、
それはもう分からないが、私は、あそこへは二度と近づかないことだろう。
作者m/s