その日の夜。
僕は動画を夢中になって観ていた。
テレビもない僕の部屋で、スマホは連絡手段であると同時に最大の娯楽品だった。
(明日の朝はゆっくりできるし、もう少し観てから寝ようかな…)
時間は刻々と過ぎて行った。
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ひとつの動画を観終わり、次に何を観ようか関連動画を吟味していた僕は
いつのまにかメール着信のアイコンが上部の帯についていることに気が付いた。
「またメールか。」
そのアイコンをタップして、メール画面へとぶ。
内容は、昨日とまったく同じものだった。
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「…また『資料を添付しました』か。」
添付されたフォルダを開くとやはり真っ黒な画像が1枚。
(迷惑メールや詐欺メールにしてはサイトのURLがないしなぁ…。)
送信元のアドレスを見てみるも電話帳に登録のないアドレスで、心当たりもまったくない。
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だからといって『送り先、間違えてませんか?』なんて返事を送るのも危ない。
返信を待って、使われているアドレスだとわかったとたんに大量の迷惑メールを送りつけてくるというやり方があると聞いたことがある。
僕は放置することに決めた。
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メールは毎晩届いた。
メールでやりとりする友人がいない僕の受信フォルダには、全く同じ文で、全く同じ画像の添付されたメールが5件、10件と溜まって行った。
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スマホを替えてから2週間がたった。
僕は食堂のいつもの定位置で、動画を観ながら昼食をとっていた。
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「やっほ~。」
僕の肩に手を乗せて、話しかけてくる友人。
「…サークルなら行かないよ。」
「相変わらずつれないねえ。L●NEの中のお前の方が愛想いいんじゃない?」
「お前にふりまく愛想は持ち合わせてません。」
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ここで優しくするとしつこさに拍車がかかるので、このくらいでいいのだ。
昼食の片づけをしようと、動画を止める。
何の動画を見ていたか覗き込んできた友人が、あるものを見て驚いた。
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「えっ、お前メール10件以上放置してんじゃん!依存症かつマメなくせに珍しい。」
「ほっとけ!迷惑メールみたいで毎日同じものが届くんだよ。」
「え、見して見して。」
「…見てもつまらないぞ?」
そう言ってスマホを友人に渡し、友人は新しい日付から順にメールを見ていった。
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「なんだこれ?資料ってこの真っ黒な画像だけじゃん。」
「だろ?だからほっとくことにしてるんだ。」
「ふーん…。」
友人がまじまじと画像を拡大したり、向きを変えたりして見つめる。
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「おい、この画像L●NEで送っておいてよ。」
「え、なんで…。」
「もしかしたら何かの暗号かも?俺の探究心に火が付いたぜ!」
「まあこんなんで良ければ送るよ。」
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画像のおかげでサークルの飲み会の誘いから話からそれた事
僕はそこに安堵し、その場で画像を友人へ送信した。
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店主さんのあの澄んだ目から逃げるように帰ったあの日以降、古物店の前を通って帰ってない。
(久しぶりにあの道で帰ろうかな…。)
僕は、2週間ぶりにお店の前を通る道で帰宅しようと歩いた。
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人と車の行き交う夕方の大通りから、店の方へと進行方向を変え歩く。
お店の青い薔薇が見えてきた。
(ん?店の前にまた人影が…。)
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店主さんだった。
店主さんはまっすぐとこちらに顔を向けていた。
遠くで、細かな表情は見えなかったが、
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こっちを真っ直ぐ見ていた。
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(…僕に気づいてる?)
頭を軽く下げてみると、綺麗な会釈が返ってきた。
僕はスマホをポケットにしまい、駆け足で店主さんの元へと行く。
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「こ、こんにちは。」
店主さんの足元には白い猫が1匹いた。
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店主さんはじっと僕をみつめ、そして微笑んだ。
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「…15。」
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⑥へつづく。
作者TYA
④のつづきです。
動画ばっかり見て、通信制限大丈夫か少年。
ソフトホラーなのでガチ物がいいという方には物足りないかもしれません。何度でも言います。
(メンタルティッシュ並です。アンチ嫌いなので防衛線をめちゃくちゃはる人間です。)