「え?今何て?」
僕は店主さんの口が動くのは確認できたが、何をしゃべったのかは聞き取れなかった。
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「いえ、ふふふ…こんにちは。お久しぶりですね。」
年齢不詳の店主さんの笑顔は、何度見ても見慣れない。
顔が熱くなるのを感じ、愛想笑いをしながらうつむいた。
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「う、家への道でこっちより早く帰れる道がありまして…。」
「あら、では今日はこちらの方に何かご用事でも?」
「あ…そんなとこです、はは。」
小さな嘘に、嘘を重ね、膨らんでいく。
僕は情けない人間だ…
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うつむいて下を見た先に、先ほどから店主さんの足元にいる猫と目があった。
猫はじっと僕を見ている。
「その猫…店主さんの飼い猫ですか?」
「ええ、野良猫だったところを私が家に招き入れました。」
全身ツヤの良い白毛に覆われ、耳だけは茶色い猫は大事に飼われている様だった。
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「あ、じゃあそろそろ僕…。」
「はい、ではまた。」
店主さんに挨拶をし、足早にその場を去る。
今まで恋愛どころか、女友達すらちゃんと作らなかった人間なんてこんなものだ…。
魅かれるからこそ、自分を恥ずかしく思って離れようとする。
会えない間は店主さんの顔を見たいと思う浅ましい自分。
会えば店主さんに嘘をついて逃げる汚い自分。
どちらも、これまでの生き方で形作られてしまった僕自身だった。
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「…やっと行ったか。」
猫が伸びをしながら店主に話しかける。
「あら、たった数分お話ししただけではありませんか。」
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「5分だろうが5秒だろうが、自分はあんなのと会話するのはごめんだね。」
「…男嫌いなんですか?」
店の方へ戻り、室内へ入ると、店主はお湯を沸かす為に火を付け棚から茶葉を取り出す。
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「ちがうよ!…よく話せるよな。
それよりも、自分は飼われてないからな!」
「あら、野良猫のような生活をしていた貴方を見つけ、この店に迎えたではありませんか。」
「あれは自分の意志で決めたんだ。これは飼われてるんじゃなくて間借りしてるだけだ。」
「ふふふ、はいはい。」
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店主は慣れた手つきで紅茶を淹れ、ティーカップを傾ける。
「…。なあ、あいつ。どうするんだ?」
「先ほどのお客様ですか?…さあ、どうなるのでしょう?」
スマホが置いてあった、現在は空になっている棚のスペースを見つめ、店主は微笑んだ。
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「グラス自身は水が溢れるまで気づかない。溢れた時にはもう止まらない。
…溢れていることに気づいたときには、もう終わりまで誰も止められないのです。」
「…なるほどね。」
欠伸をしながら、2階への階段の途中でくつろぐ猫は理解したようだ。
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「もう手遅れってことか。」
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「おーい!」
僕のゆったりとした昼食時は、昨日と同じ声によって中断された。
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「いつも元気だねえ。」
「まーな!俺の取り柄だから?」
褒めてないし…。
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「ところでよー
昨日の画像なんだけど、暗号でも何でもなかったわ。」
「そりゃそうだろうな。ただの黒い画像だもん。」
友人はスマホを取り出し、操作しながら話を続ける。
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「いや、それがな?何か写ってないのかって画像を編集して、いろいろ試してみたんだよ。
そしたら、ほら。なんてことない普通の写真だったんだ。」
そう言って僕のL●NEに加工済みであろう画像を送信してくれた。
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「ふーん…。」
スマホのロックを解除し、送られてきたソレを見る。
そこには明るさをあげて灰色になった画像があった。
一昔前のモノクロ写真のようなその画像に、僕は違和感を覚えた。
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「俺の燃え滾った探究心が一瞬で萎えちゃったぜ。あ、それより次の飲み会なんだけど――…」
隣りで騒ぐ声は僕に届いていなかった。
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小さな違和感は、確信に変わり
心臓の鼓動は徐々に早くなってく。
暑くもない快適な食堂で、冷たい汗が流れた。
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「お…、おい。」
僕の声は震えていたと思う。
「ん?どうしたんだ?」
その画像は荒く、灰色だったがひとつの室内を写していた。
テレビの無い和室一間の部屋に、敷きっぱなしの布団
そして、部屋の隅に移る干したままの洗濯物…
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「これ………。」
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…
……僕の部屋だ…
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⑦へつづく。
作者TYA
⑤のつづきです。
室内に干しっぱなしは良くない、少年。
たまには外に干しましょう。
作者は去年洗って干してた新しめの靴を盗まれました。
前回憧れの方からコメントを頂いて有頂天になり、そのコメントに書いてある猫の容姿に内容を変えてしまいました(笑)
ソフトホラーなのでガチ物がいいという方には物足りないかもしれません。そろそろシツコイ。
(メンタル綿飴並です。アンチ嫌いなので防衛線をめちゃくちゃはる人間です。)