【重要なお知らせ】「怖話」サービス終了のご案内

中編4
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オンガエシ

突然の知らせに、僕は耳を疑った。

 妹が死んだ……正確には、殺されたという。

 しかも、妹を殺したのは従妹らしい。

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 従妹の家は複雑な事情で、幼い頃の数年を僕の家で過ごしていたこともあった。

 今、思い返せば……従妹を家で保護していたのだろう。

 両親の不仲、経済的な問題などの諸事情で、従妹は暗く心を閉ざしていた。

 そんな従妹を、妹は本当の妹のように可愛がっていた。

 端から見たら、本当の姉妹のように見えただろう。

 もちろん、僕も従妹を妹のように可愛がった。

 その数年間を、僕らは三人兄妹のように過ごしていた。

 仲睦まじく共に過ごした幸せな時間は、従妹の両親が離婚したことで、唐突に終わりを迎えた。

 母親に連れられていく従妹の淋しげな小さな背中を、妹と見送ったことは未だに忘れられない。

 あの日から十数年ぶりの再会が、こんな最悪な形になるなんて誰が予想しただろう。

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 被疑者として勾留されている従妹は、負のオーラをまとっていた。

 まるで、世界中の不幸を一人で背負っているかのような、重苦しい空気が面会室を支配していた。

 あの幼かった頃の面影は、微塵も残っていない従妹。

 では、最愛の妹を殺した従妹の前に、何故、僕がいるのか。

 別に従妹を責めるためにいる訳ではない。

 僕は弁護士。

 そして、従妹は依頼人なのだ。

 従妹は殺意を否認した。

 あんなに仲が良かった、姉のように慕っていた妹を殺すはずがない。

 僕もそう思った。

 駅のホームで偶然見かけた妹に声を掛けようと肩を叩こうとしたら、バランスを崩して背中を押す形になり、妹はホーム下へ落ちた……そこへタイミング悪く電車が滑り込んできた……。

 僕は公判で、従妹の潔白を訴えた……あれは不幸な事故だったのだと、従妹の生い立ちから、その後、母親が死に、現在は孤独であることも含め、裁判員達に必死に訴えかけた。

 そして、見事に無罪を勝ち取ったのだ。

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 僕は釈放された従妹を迎えに行った。

 元々、口数の少なかった従妹は僕に深々と頭を下げた。

 僕は無言で頷き、従妹を車で家へ送った。

 安普請のアパートの二階の一室が従妹の家だった。

 従妹は僕に上がるように勧め、僕もそれに従った。

 しばらく留守にしていたからか、室内は埃っぽく、何処か息苦しく感じた。

 従妹は窓辺に立ち、僕を振り返って口を開いた。

 「私が殺したの」

 そう自責する従妹に、僕は笑って言った。

 「違う……事故だったんだよ……もう誰も、僕も君を責めたりしない」

 僕の言葉を、従妹はクスクス笑い、首を横に振った。

 「殺したのよ……私の意思で……殺したかったから殺したの」

 凍てつく微笑をたたえながら、従妹が僕を見つめていた。

あんなに仲の良かった妹を殺したと言うのか!!

従妹の嘲笑にも似た笑みに、僕の怒りは爆発した。

 「何故だ!!あんなに慕っていたじゃないか!!」

 僕が投げつけた質問に、従妹はニヤリと口角を歪めた。

 「ずっと…ずっと前から、殺したかったの……だって、幸せそうなんだもの」

 従妹の回答の意味が僕には分からなかった。

 「あの後、私がどれほど苦しんだか、貴方に分かる?」

 従妹は濁った瞳で、僕を睨みつけていた。

 「地獄から勝手に天国に連れて行った癖に、また地獄に突き落とされた……幸せを、温もりを知ってからの地獄に、私は耐え難い苦しみを味わわされたのよ!!」

 絶句している僕を、従妹は夜叉のような眼で射貫き、叫んだ。

 「あの女は幸せを見せびらかして、私を哀れみ、見下してた……だから、殺したの」

 「哀れんでなんかいなかったよ!!妹はお前を……本当の妹のよ」

 「私は妹なんかじゃない!!私はあの女の人形だったのよ……面倒見がいい自分に酔って、それを周りに見せつけて、私に幸せを押し付けてただけなのよ」

 あの可愛かった従妹はもう、そこにはいなかった。

 今、目の前にいるのは幸せを妬み、歪んだ思い込みで人を殺したケダモノだ。

 「お前……」

 僕が怒りで固く拳を握りしめていると、従妹は嘲笑するように口元を釣り上げた。

 「でも、貴方のお陰で私の罪は無くなった……だから、誰も私を裁けない……でも、貴方には罪が課せられた……人殺しを野に放ったんだもの……自分の妹を殺した罪人を、貴方の手でね……」

 「フフフ」と吐息混じりの笑い声を発しながら、従妹は窓を大きく開け放つと、強い一陣の風が、部屋の中へ入り込んできた。

 「貴方は罪を犯したの……決して償えない罪を」

 従妹の背を向けたままの呟きを聞いて、僕は頭が真っ白になった。

 気が付くと、僕は花瓶の取っ手を持っていた。

 ドライフラワーのようになってしまった褪せた黄色のバラと、陶器の破片が辺りに散らばり、割れた花瓶の底にはベットリと赤い鮮血がこびり付いていた。

 「うぅ……」

 僕の足下に転がっている従妹が、小さく呻いた。

 「……これで、私のオンガエシが…完せ」

 おぞましい笑みを浮かべて何かを言いかけていた従妹は、そのまま事切れた。

 もう動かなくなった従妹を見下ろし、僕は手に持っていた花瓶を、色の抜けた畳の上にゴトリと落とした。

 僕が従妹の目的に気づいたのは、この時だった。

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 その後、遠くから近づくパトカーのサイレンを聴きながら、僕はただ立ち尽くしていた。

Concrete
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