「この前さ、ひどい目に遭ったよ」
大学のサークルOBの飲み会で、葬儀屋に努めるAが愚痴をこぼしつつビールを煽る。
「何があったん?」
ここに集まって一時間ばかり、すでに酔いも回っている。
「この前、女子大生が亡くなったのよ」
「それで?」
「肺炎だったらしいんだが、友達が少なかったみたいで発見が遅れたんだな。腐りかけた遺体に防腐処置して棺に入れてさ、お通夜でしょ、葬儀でしょ」
「うん」
「んでお坊さんがやってきて、読経が始まるわけよ」
ここまでは普通だ。
「それで?」
興味を引かれた皆が顔を寄せる。
「みんな神妙な顔してお経を聞いていたらさ、突然ドコッ!! って、何かを叩く音がするわけ」
空になったグラスにビールを注ぎ、Aは続ける。
「当然、みんな何だ? って顔するじゃん?」
「うんうん」
「するとさ、またドコッドコッ!! って大きな音が響いてくるのよ。坊さんも読経を中断しちゃってさ。普通ないよ、こんなこと。で、次に何が起こったと思う?」
「……」
「突然棺の蓋が弾け飛んで、死んだはずのその子が起き上がってね……こう言ったんだ」
皆息を飲んでAを見つめる。
「『BL最高~~っ!!』」
「はあああ!?」
「うっそだ~~!!」
「はいはいネタ乙」
一斉に顔をゆがめ、笑いながら応じる仲間にAは必死に言い張る。
「本当だって!! あの後死体は逃げ出すし、みんな唖然としてたわ。今ご遺族はその子を探し回ってるよ」
「えええええ!?」
「まじかよww それ完全に悪戯だろ」
「かなあ? まあ誤診だったんじゃないかって、ご遺族と医者が揉めてるらしいよ」
「それもう遺族じゃないだろ」
流石に酔ってはいても、Aの話を真に受けるほどみんなウブではなかった。そりゃ、そうだよね。こんな話誰も信じない。
その時不意に、盛大に窓ガラスがぶち割れる音と共に、何かが俺らのいる座敷に飛び込んで来た。
振り乱した髪、腐乱して崩れかけた青白い顔。ぎょろりんと回転する白濁した両目。顔を引き攣らせるAの胸倉を掴んだそれが、地獄の底から響くような大音声で叫んだ。
「BL読ませろおおおおおお!!!!」
そのぽっかり開いた口から、物凄い臭気と共に大量の蛆がぼろぼろと零れ落ちた。
──これが、本当の腐女子……
余りの恐怖とショックに薄れゆく意識の片隅で、俺はそんなしょうもないことを考えていた。
作者ゴルゴム13
ロビン先生風に、よもつ先生のパロディ怪談を。