――…それでは続いてのニュースです。」
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「○○市内の国道△△号線で大学生がはねられ、重体となっております。
警視庁によりますと、昨夜未明、国道△△号線で大学生の――さんが道路を渡ろうとしたところ、市内に住む男性(45)が運転する乗用車にはねられました。
――さんは首の骨等数か所を骨折し重傷ですが、命に別状はありません。
警視庁は事故の原因を調べています。」
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空から降る雨粒がアスファルトを打ち付ける道路を、色とりどりの傘の花が鮮やかに彩っていた。
大通りの横を走る車道では、様々な車が交差する。
そんな景色を室内の窓から眺めながら、欠伸をする猫がいた。
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「くぁ~。暇だなあ…」
そんな独り言は室内に流れるクラッシックのBGMにかき消され、猫は窓から床へと飛び降りる。
整然と並ぶ棚を縫い歩き、奥にあるカウンターへと進む。
BGMにまざって聞こえてくる話声の主は、電話で誰かと話しているようだ。
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「はい、ええ、かしこまりました。…では後程、失礼致します。」
そう言い終わると受話器を置いた。
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「…客かい?」
「いいえ、お客様だった人のお母様です。貸与した品を返品したいと。」
そう言いながらカウンターの奥へと歩いて行く女性はこの店の店主だ。
タイトなロングワンピースを着こなし、長く柔らかな長髪は一つにまとめ、青い薔薇と蓮の花、そして向日葵の散りばめられた髪留めをつけていた。
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「ということは、スマホの客?」
「はい。彼のお母様がスマホをうちから貸してもらったと聞いていたらしく、お返ししたいと。
ご本人は今入院中で、伺えないとのことです。」
淡々と説明をしながら、カウンターに置かれたティーカップやポットを洗い、片付けていく。
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「今から、ここにくるのか?」
「いえいえ、お母様はこの店の場所を知りません。なので私が取りに伺うとお約束致しました。」
笑顔で答える店主の姿に猫は訝しむ。
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「…取りに行くだけか?」
「もちろん、とりに行きますよ。両方とも。」
「…なんだかんだ言いながらも、最後はやってやるんだな。」
「ふふふ、この店の店主ですから。」
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やれやれと言わんばかりに肩を落とし、その場に伏せる猫は手の上に顎を置き、息を吐き出した。
「結局、あのスマホはなんだったんだ?」
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洗い物を終えた店主は、カウンターを隅から拭いていく。
「あの端末は、通信料の発生する操作を行うと、しりょうの添付されたメールが届くそうです。」
「どんな資料だよ。」
「ふふふ、資料ではありませんよ。
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…死霊です。」
「…なんでそんな物騒な物を貸し出したんだ?」
店主は手を止め、窓の外を見る。
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「私は約束しましたから。約束をしたら、守ってくれると信じるのが私のやり方です。」
「みえみえの嘘だってわかってたくせに。」
「ふふふ。さあ、どうでしょうね?
…彼は、ここで貸し出したその日にすぐ、スマホを使用したのでしょう。
次の日には既にひとつ、憑いておりました。」
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「2週間ぶりに会う彼は、メールの数だけソレが増えていましたね。
律儀にメールを全て開いたのでしょう。」
「アレには自分も驚いたぜ…。視えないとはいえ、さすがにあそこまで来ると影響が出るぞ。」
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「そうですね。お見舞いに伺うとお母様にお伝えしたのですが、何かに酷く怯えているので難しいとのことでした。
入院した理由も、家から逃げるように飛び出したところを車にはねられたそうですよ。
うわ言で、[窓の外が]と、おっしゃっているようです。
お母様が何があったのかスマホ等を調べたけれど、メールは一つもなかったそうです。」
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「ふーん…。なんでメールがないんだ?」
「きっと何らかの理由で削除したのでしょう。…何らかに気づいて、と言う方が正しいのかもしれません。
そして私の予想だと外ではなく、[内]ですね。」
店主はカウンターを拭き終わり、グラスやカウンターに並べられたビン等にほこりよけの布を被せていく。
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「自分は難しい話は嫌いだ。」
「そんなんだからいつまでも居候なんですよ。」
「ちがう!間借りだ!」
「ふふふ」
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店主は衣服掛けにかけてあるストールを羽織ると、傘を手に入口へと歩いていく。
「では答え合わせの続きは、端末を回収してからにしましょう。
お留守番お願いしますね、マガさん。」
「ほいほい、いってらっしゃい番ちゃん。」
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―…ここはいわくのついた物の集まるお店。
―…物の使い方は人それぞれ、千差万別。
―…人と出会う数だけ、物も人と出会う。
―…そんな出会いは偶然か、はたまた運命か。
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これより紡がれる物語は、そんな出会いの数々。
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その店の名は
【青薔薇古物店】
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序章・スマートフォン 終
作者TYA
⑧のつづきです。
アレ…⑩で終わらせるはずが⑨で終わった…。
押してるのに焦ってどこかで配分ミスしたかもしれません(笑)
ソフトホラーなのでガチ物がいいという方には物足りないかもしれません。
というか今後もそうです!ご理解ください!
このスマホと前所有者の詳細はとりあえず、ここで一時迷宮入りにして、今後出す予定です。
これにてプロローグ終わりです(長えよ)
お付き合いくださった皆様ありがとうございました。
これから本編が始まります。
…誰かに表紙作ってもらおうかな。