某月、某日。
ある山奥の廃村にて、人知れず異変が起こる。
周りには民家等が一切無かった為、発見は大幅に遅れる事になったが、その規模は凄まじく、後に国の調査機関が入る事となる。
その異変とは…。
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「私はこの仕事を何十年と続けて来ましたが、この様な事例に出会った事はありません。」
国から依頼を受けた地盤調査員が語る。
「いや、確かに今回と同じ様な事例は今までにもありました。
ですが…これ程の規模に出くわした事は…。」
彼は一点を見つめながらそう語った。
少し肌寒い季節だと言うのに、その額からは大量の汗が流れ落ちている。
今、彼が立っている場所。
そこはかつて二百人程の村人が生活をしていた場所。
二十年程前に廃村となり、今では誰も棲んでいない。
今回、彼はその廃村へ調査に訪れていたのだが…。
彼の目の前には、ただ大きな穴がぽっかりと口を開けているだけであった。
地盤沈下。
恐らく専門家なら口を揃えてそう言うだろう。
現に彼もそうとしか考えられなかった。
ただ…。
余りにも規模が大きすぎる。
それに、かつて村であった部分以外には、何の異変も起こってはいない。
そして最も不可解なのが、その深さであった。
数メ―トル程の沈下なら、幾らでも起こり得る理由は考えられる。
だが、目の前の穴の深さは、五十メ―トルは越えているだろう。
これをただの地盤沈下として片付けるには、彼には十分な説明が思い浮かばなかった。
「私もどちらかと言えば科学者の端くれ。
根拠の無い事には理解は示せません。
ですが…これは我々、人間の力及ばぬ部分での出来事の様な気がします…。
も、勿論それすら根拠の無い話し。
ですが…この一件はとても私の手に負える物ではありません…。」
調査員はそう言うと、逃げる様に廃村を後にした。
最初の調査員が調査を放棄した後、次々に新しい調査員が派遣されたが、皆同じ様に調査を放棄し、逃げる様に去って行く。
業を煮やした国は、それならば。と、方々手を尽くし名のある霊能力者を雇い現地へ向かわせた。
その数、五名。
どれも名だたる者ばかり。
現職の住職から果ては拝み屋まで、その世界で名を馳せている強者達が集められた。
彼らは廃村へ辿り着くと、思い思いのやり方で穴を調べ始めた。
「大きな蛇が見えます。
この土地の神様で非常に怒っています。」
「私には龍神様が見えます。
警告だと言っています。」
その後も、狐や天狗とそれぞれに原因を語る霊能力者達。
だが、どれも信憑性に欠ける物ばかりであった。
そんな中、五名の中で唯一の女性霊能力者だけは少し他とは違っていた。
「不謹慎かも知れませんが、私は今、安堵の気持ちでいっぱいです。」
彼女はそう切り出した。
「今回の件は地盤沈下などではありませんよ。
これは間違いなく、今から起こる事の序章。
はっきりとは分かりませんが、何かが目を覚まそうとしています。
しかし、それは今すぐの事ではありません。
そう遠くはありませんが、まだ先の話し。
少なくとも私達が生きている間は、次の動きはありません。
私が生きている間に、この何者かと対峙する事は無い…。
だから私は安堵しているのです。」
女性のこの言葉に周りの霊能力者達が食って掛かる。
「何を偉そうに!
何かが目を覚ます?
馬鹿も休み休み言え!
これは御狐様の祟りだ!」
「そうだ!
何が目を覚ますって言うんだ?
言ってみろ!」
口々に彼女を野次る霊能力者達。
「分かりません…。
ですが…その何者かが目を覚ました時、恐らくこの辺り一帯が…いえ、この国その物が無事で居られるとは到底思えません。」
「ふん!
そんな悪霊がここにいると言うのか?
私はそんなモノ少しも感じはせんぞ?
いい加減な事を言うな!」
「私も何も感じない!
本当にそんなモノが居るのならば私が今すぐに封印してくれるわ!」
「悪霊…ですか…。
悪霊であれば、私達にも十分に対応出来たでしょうね…。」
「なんだ?!
悪霊では無いと言うのか?!
貴様!いい加減にしろ!
先程も行った通り、私達は何も感じはせん!
戯れ言も程々にしろ!!」
尚も女性を野次る霊能力者達。
「そうですか…。
あなた達は何も感じませんか…。
私はあなた達が羨ましい。
この場に居て平気で居られるあなた達が。
それに…封印するですって?
私には冗談でも口には出来ません。
本当にあなた達が羨ましい。」
彼女はそう言うと、私の役目は終わりました。とその場を去って行った。
残された霊能力者達も結局結論を出せず、遂に国はただの地盤沈下として、この件を片付けてしまう。
だが、女性霊能力者の言った通り、その後その土地や周辺に目立った異変は見られなかった。
しかし…ソレは確実に動き出していた…。
そして、そこから更に百五十年の時が流れた頃。
遂に惨劇の幕が切って落とされた…。
作者かい
あ、あかん!
既に話のスケールが半端ない…(^^;