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中編5
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君の肝臓をたべたい③

欽也にかけられた呪い。

それは己の手で人を殺し、その新鮮な肝を喰ってでしか生きながらえないという理不尽な呪い。

呪いをかけた少女によると、欽也に残された時間は一年もなく、今も近くで監視しているらしい。

彼女の言葉が嘘でない証拠に欽也の腹部には日々、なんとも言えない違和感が生じている。

それにこの饐えた匂いが動かぬ証拠でもある。欽也本人には分からないが、欽也に近づく人間は皆が皆、同じ顔をして離れていってしまうのである。

欽也は絶望的な気持ちで昼下がりの遊歩道をふらふらと歩いていた。

「こんにちはー」

ふいに背後から声をかけられた。聞き覚えのある声だ。

「じ、G先生!」

振り返った先には、カポエラの師範代、G先生がにこやかに立っていた。

「いやあ、久しぶりですね金森君。酷く窶れているようですが…」

「師範代、お話があるんですが聞いて貰えませんか?」

場所をカポエラ教室に移し、欽也は今までの経緯をG師範代に話した。

「そうですか、そんなことがありましたか」

G先生は、荒唐無稽な欽也の話を、決してバカにすることなく最後まで聞いてくれた。

「そういえば、先生はどうして僕のそばにいても平気なんですか?臭くないんですか?」

ふいに気が付いた疑問を口にすると、G先生は一瞬不思議そうな顔をしてからガハハハと豪快な笑い声を上げた。

「金森君、彼女を鍛え上げたのはこの私ですよ。私はずっと彼女のそばでこの臭いを嗅いできました。もうとっくに鼻は馬鹿になってるし、もうなんにも感じませんよ!ぶははは」

ずっとそばで?

そうだ、そうだよ!

G先生は彼女の事を知っている。彼女が何者なのか、なんのために僕に呪いをかけたのか。G先生に聞けば、全ての謎が解けるかもしれない!

「師範代!」

欽也ははじけるようにG師範代の顔を見た。

「僕に彼女の事を教えてください!僕は知りたいんです。本当にこの呪いを解くには、人の道を踏み外さなければならないのか、彼女の本当の目的はなんなのか、僕に、彼女の秘密を教えてください!」

「ふふ、残念ですが、それは出来ませんね」

僕の問いに静かに首を振ると、G先生はゆっくりと立ち上がった。

「いくら彼女が「故人」だとはいえ、むやみに「個人情報」を漏らすことはできません。言っておきますがこれはダジャレではありませんよ金森君。

それでも、どうしても知りたいと言うのなら…」

G先生は優雅に滑らかにまるでサンバでも舞うように、すっすっと腰でリズムを取り始めた。

「私を倒し、私の机の中にある生徒証書を見るがいい。そこに全てが書いてある」

『そ、そんな、僕はカポエラを一日しか習っていないのに勝てるわけねーじゃんか、このクソジジイ!!』欽也は心の中で毒突いた。

「ふっ、こないのならこちらから行きますよ金森君」

欽也が躊躇している間に師範代は一旦腰をかがめ、次の瞬間すさまじい回転力で海老のように飛び上がり、欽也に向かって真空上段後ろ回し蹴りを浴びせかけてきた。

「うわっ!!」

すんでのところで蹴りを交わすが、師範代には一瞬の隙も無く、次から次へと強烈な回転蹴りが繰り出された。

軽快な風を切る音に防御すら間に合わない欽也。ドン!ドン!という重い音と共に体に衝撃が走り、一瞬遅れて強烈な痛みが全身に襲ってきた。

苦しむ欽也はたたらを踏みながら前につんのめる。更にそこへひときわ強烈な師範代の前蹴りが叩きつけられた。

ドグフウ!!!

欽也の体はその威力に耐え切れず宙を舞い、まるで壊れたマリオネットのように床の上に転がった。

「ふっ、口ほどにもないですね」

G先生の声を遠くに聴きながら、欽也の意識は遠のいていった。

あれは?

意識の奥、漆黒の闇から、1人の少女が歩いてくる。

夢の中の彼女だ、ついに迎えに来たのだ。

「あたしね・・・」

なんだ、今日は関西弁じゃないのか。

まあ、いいよ、もう。どうせ僕に人は殺せない。

好きにしてくれ、もう・・・僕は疲れたんだよパトラッシュ。

「あたし、ずっと待ってるから。あんたが童貞捨てに来るのを。仮に、あんたが、仮性でも」

欽也ははっとした。

それは昔見た夢の中の少女だったからだ。

清楚で、美しい・・・・・・。

彼女は襟元を少し開き、その豊満な胸の谷間をチラリと覗かせた。

「ちょっとだけよ〜」

BGMにタブーがかかる。背景はピンク一色だ。

「あんたも好きね〜」

「か・・・か・・・・・・」

体に力がみなぎる。全身を光り輝くオーラが纏う。

どこからともなく現れたブラジリアンスタイルの踊り子達が、サンバのリズムに腰を振りながら欽也を取り囲んだ。

ズンドコドコドコ♪

ズンドコドコドコ♪

欽也は貰った力を拳に宿し、それを一点に集中させた。

「今だ!」

欽也は両手を天に向けて、青く光る元気玉を放出した。

「kato chan peeeeeeiiiーー!!!」

欽也の意思とは関係のない言葉(呪詛)が口をついた。

「な、なにいいいいいい!!!」

光の中からG先生の絶叫が響いた。

「ぐおおおお!油断したわ小僧!!」

気が付くと、粉々になった道場の壁の下に、G先生が倒れていた。

(・・・・・・勝った)

欽也はよろめきながら立ち上がった。

「・・・・・・100パーセント」

欽也が勝利を確信したとき、瓦礫の下から、G先生の声が聞こえた。

「私も本気を出さねばならないようだね」

莫迦な・・・あの攻撃を食らって、立てるはずがない。

「初めて敵に会えた」

欽也の予想をあざ笑うかのように立ち上がりながらG先生は衝撃ではじけ飛んだ己の道着を払い落とし、己の靴を、そして靴下を脱いだ。

するとその瞬間、強烈な紫色のオーラがG先生の両足から放出され、その余りにも禍々しい「光」に目すら開けることが困難になった。

「いい試合をしよう」

G先生は足を踏みしめながら、こちらに向かって歩みを進める。

これは・・・これは・・・・・・

違う、今までの先生とは次元そのものが違う!

よく見ると先生の目玉だけがギョロギョロと生きているかのように動き回っている。まるでG師範代の皮を被った別の生き物のようだと欽也は感じた。

G先生との距離が詰まる。

「くぅっさ!!」

欽也は思わず絶叫した。

目がしばしばする。

「ふふふ、驚きましたか金森君?しかし私はこれでもまだ完全体ではありません。あと二回も「変体」を残しているのです。今から圧倒的なパワーの違いを見せつけてあげましょう…」

「な、なんだと」

そう、G師範代は、殺人級の足クサ人間だったのだ。

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なんか、良くわからない世界に突入した…

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