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長編8
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選手交替

鬼の圧倒的力により、戦意を失った二人の能力者。

そんな二人の窮地に、沈黙を守っていた青年が遂に動き出した。

青年は鬼と互角の速度で渡り合うが、そんな青年の力すら、鬼には及ばなかった。

敗北と同時に死を覚悟した青年。

そんな時、修羅場と化した山中に一人の女性が姿を現した。

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「遅いよ…。

姉さん…。」

「ね、姉さん?!」

青年の口から出た言葉に驚き、思わず声を上げる男。

しかし、そんな男には目もくれず、女性は話し続ける。

「大分やられちゃってんじゃない。

ん〜。

やっぱりあんたには才能ないんだねぇ…。」

女性は青年に対し、何やら失望している様だ。

青年は先程よりも更に大きな溜め息をつく。

「姉さん…。

それが今まで代役を努めていた弟に言う台詞??」

「だ、代役?!」

又も男が声を漏らした。

女性はその声に反応し、男に歩みよる。

「ちょっとあんた?

さっきからうるさいんだけど?

誰?」

女性は男の顔を睨みながら言う。

「ね…姉さん…。

その人は依頼主だよ…。」

青年の言葉を聞いた女性が目を真ん丸にしている。

「い、依頼主?!

あ…ごめんなさい!

私、知らなかったんで…ははっ…(笑)」

「いえいえ。

結構ですよ。

それより、先程の代役と言うのは?」

男が女性に問う。

「この依頼を受ける前に、他の依頼を受けてしまっていたので…。

私が戻るまで弟を代役に立てたんです…。

駄目でした…?」

女性は男の顔色を伺っている。

「いえ。

問題ありません。

こちらは本当に能力をお持ちの方であれば、どなたでも結構です。」

「ホントに?!

良かったぁ〜!

断られるかと思っちゃった!

じゃ、ここからは選手交替で!(笑)」

女性は男からのお咎めが無いことに安心し、笑顔ではしゃいでいる。

そんな女性を見て、男性が口を出す。

「ちょ、ちょっと待てよ姉ちゃん!

選手交替って、お前がアイツとやろうってのか?!

止めとけ!

俺達でさえもこの有り様だ!

お前の力がどんなもんか知らねぇが女にどうこう出来る相手じゃねぇよ!」

男性は思い止まらせようと必死に説得する。

そんな男性を睨み付ける様に見る女性。

「俺達でさえ??

………………………………。

あんたもしかして能力者なの?!

嘘でしょ?!

だって霊力の欠片も感じ無いじゃない?!

て…事は隣のおじいちゃんもそうなの?!」

これには二人も腹を立てた。

「なんじゃと?!

この小娘が生意気な事を!!」

「そうだ!テメエ、後から来て何偉そうな事言ってんだ!

あんまり調子に乗ってると…」

怒鳴り続ける男性に対し、女性は人差し指を突き出した。

そして、その指先を左から右へと移動させる。

途端に男性が口をパクパクさせながら、手で自分の口を確認する。

「姉さん…。

何も言葉を奪わなくても…。」

男性は尚も口を動かしているが、声は出ていない。

「ちょっとコイツうるさいから。

だって失礼じゃない?

こんな三流のニセ能力者とあたしを一緒にする?」

女性はそう言いながら、青年の方へと戻って行く。

「とにかく、ここじゃなんだからあっちで休んでなさい。」

そう言いながら、青年に肩を貸そうとする女性。

「う、後ろ!!!」

男の叫び声に、ゆっくりと立ち上がり振り向く女性。

先程まで様子を伺い、その歩みを止めていた鬼が、いつの間にかすぐそこまで迫っていた。

しかし、その状況に女性は全く動じる様子も無く、鬼を見据えて言う。

「あんた「待て」出来ないの?

まぁ、馬鹿には理解出来ないか…。」

そう言うと又、人差し指を前に突き出し、今度は宙空に何やら描く素振りを見せ、それを掌でそっと押す動きを見せた。

すると、掌から淡い光が広がり、その光が一点に凝縮されたと思ったら、人間の掌程の真っ白な蝶が姿を現した。

男達はその蝶の美しさに言葉を失っていた。

解き放たれた蝶は、鬼の周りをヒラヒラと舞い女性の元へ戻る。

「ちょっとの間、遊んであげて。」

女性はそう言うと鬼に背を向け、青年を離れた場所へ連れていく。

鬼は、目の前を舞う蝶に苛立ちを覚え、手で振り払おうとする。

その速度は凄まじく、振り払う手の残像すら確認する事が出来ない。

そして、蝶は鬼の一撃を浴びてしまう。

「ガァ"!」

鬼の一撃は確実に蝶を捉えた様に見えた。

だが…何故か悲鳴を上げたのは鬼の方。

鬼自身、何が起こったのか理解出来ていない様で、振り払った自分の手を眺めた。

蝶を振り払った鬼の手。

その五指は根元から切断され、傷口からは血が吹き出していた。

蝶は何事も無かった様にヒラヒラと舞っている。

だが、先程までの透き通る白色とは異なり、今はその体色を妖艶な赤へと変えていた。

「あれ?

もう吸っちゃったの?!

相変わらず早いんだから(笑)」

青年を避難させた女性が変色した蝶を見て言う。

そして、その視線を鬼へと移し、話し出した。

「あんた、本物の鬼なんだから人間の言葉が分かるでしょ?

なら教えてあげる。

この子はね、血が大好きなの。

あんたみたいな化け物のね(笑)

で、この子が血を吸うと…。」

女性がそこまで話した時、優雅に宙を舞っていた蝶が、一瞬その身を震わせたかと思うと、次の瞬間、まるで今まで重なりあっていたかの様にもう一匹の蝶が姿を現した。

「ね?(笑)

どんどん増えちゃうの。

次に吸われたら四匹だよ?

さぁどうする?鬼さん(笑)」

女性はまるで遊んでいるかの様に無邪気に笑う。

「お…おい…。

青年…。

お前の姉ちゃんって…。」

いつの間にか言葉を取り戻した男性が、青年に問う。

「えぇ…。

見たまんま…あの人は本物ですよ…。」

「自ら鬼に向かって行くんじゃから、お主より強いんじゃろうの?」

老僧も女性に聞かれないよう小声で問う。

「強い?

どうでしょうか…。

私には強いというよりも…怖い。の方がしっくり来ますね。」

青年の言葉を聞き、二人は黙り込んだ。

得体の知れない女性の出した、得体の知れない蝶が二匹になった事で、鬼は警戒し、蝶から間合いを取る。

そして土に埋まる岩を持ち上げ、優雅に舞う蝶目掛けて放り投げた。

無論、その速度は凄まじかった。

岩は、一瞬で蝶を叩き潰し、巨木へと激突した後、地面へと落ちた。

「正解!!

あんた意外と頭良かったの?(笑)」

女性が拍手をしながら鬼を誉める。

「あの子達は、それその物が私の術により出来ている。

そんな子を生身で触っちゃただで済む訳無いじゃない?

答えは簡単!

生身で触らなきゃいいのよ!」

女性は鬼に対し、得意気に説明する。

だが、人間の言葉を理解出来る鬼には、目の前の女性が自分を馬鹿にしている事は十分に理解出来た。

怒り狂った鬼は、地鳴りが如く咆哮を上げた後、一気に女性との間合いを詰め、鋭く尖った爪で女性を襲った。

?!

「あんた何か勘違いしてない?」

凄まじい鬼の一撃により爆風が吹き荒れ、その衝撃により、周りの木々が揺れている。

だが…女性は何事も無かったかの様にその腕を掴んでいた。

女性は掴んだ腕をギリギリと強く握りしめる。

「あんたまさか蝶を消した位で、あたしの術を破った積もりでいるんじゃないでしょうね?

そうだとしたら、勘違いにも程があるわよ?

あの子達は、あくまでもあたしの観賞用。

だって綺麗でしょ?

あの子達。」

女性はそう言うと、鬼の腕を振り払った。

鬼は、自分の一撃を意図も容易く受け止めたこの女性に少なからず困惑しているようだ。

詰めた間合いをまた広げ、様子を伺う。

「あんたってさぁ?

鬼の中じゃ上位に入るのよね?

だって黒鬼だもんね。

あたしも実際に見たのは今日が初めてよ。

でも…。

正直がっかりしたわ…。

上位の鬼がこの程度じゃねぇ…。」

女性は黒鬼を前に堂々と言い放つ。

「お、おい青年!

姉ちゃん、あんな事行って大丈夫なのか?」

「そうじゃ。

ただの強がりでは済まされんぞ?」

鬼の圧倒的強さを身を持って知る二人は、青年に問う。

「負けてしまった私が言うのも何ですが…。

この依頼の最終目的が、あの程度の相手なら姉さんはこの依頼を受けはしないでしょうね…。」

「あ、あの程度じゃと?!」

「青年!

自分の姉ちゃんだからって、幾ら何でも買い被り過ぎじゃねぇのか?!」

二人はあの黒鬼を、あの程度呼ばわりする青年に対し、猛反発する。

「姉さんが今回遅れて来た理由…聞いてましたよね?」

青年が二人に問う。

「別の依頼を受けてたってヤツだろ?

それがどうかしたのか??」

青年の問い掛けの真意が分からず、聞き返す男性。

「山神ってご存知ですよね?

姉さんが先に受けていた依頼は、廃れ、荒神と化したその山神を退治する事だったんですよ。」

「ちょ、ちょっと待て!

山神を退治?!

お前馬鹿か?

俺達、人間が幾ら霊力を持っていたとしても、神とやり合える訳ねぇだろ!」

「ふん!

絵空事にも程があるわ!

人間が神と闘うなぞと!

話しにならんわ!」

青年が話す、余りにも突拍子の無い内容に二人は半ば呆れ返っていた。

「まぁ…。

それが普通の反応ですね…。

でも…出来るんですよ。

あの人にはそれが…。」

青年はそう言うと、鬼と対峙する姉を見つめた。

二人もそんな青年につられ、女性を見つめる。

「ねぇ?

どうすんの?

あんたがこのまま大人しく引き下がるんなら、あたしは見逃してあげてもいいんだけど?

好きにしていいよ?

このまま逃げる?

それとも……。

今…ここで死ぬ?」

?!

女性が鬼に対し決断を迫った瞬間、地面が揺れ始めた。

その揺れは地鳴りを伴い益々強くなっていく。

鬼はその揺れに一瞬戸惑いを見せたが、すぐに体制を低くし、女性へ向かい駆け出した。

「あんた…。

やっぱり馬鹿だね…。」

女性は、凄まじい速さで向かい来る鬼に対し、何の動きも見せない。

そして、鬼がその腕を振り上げ、一撃を食わえようとした瞬間…。

ダン!

それまで動きを見せなかった女性が、足で地面を強く踏んだ。

?!

女性の闘いを周りで見ていた男達も、女性と対峙していた鬼すらも、動く事はおろか、声を発する事も出来無かった。

それは余りに一瞬の出来事で、呼吸すら忘れてしまう程。

女性が地面を踏み込んだ瞬間、そこから地割れが発生し、底の見えない深い闇に鬼が呑まれて行ったのだ。

そして鬼を呑み込んだまま、割れた地面は再び閉じて行った。

「う…嘘だろ…お…おい…青年…。」

「あの小娘…本当に人間…か?」

二人は驚愕の余り、上手く言葉にならない。

そんな二人を微笑みながら見つめ、青年は言う。

「分かって頂けました?(笑)

あの人には、僕達の理屈は通用しないんですよ。

それに…。

今のだって、ほんの少し力を使ったに過ぎませんから(笑)」

?!

「今のがまだ本気じゃねぇだと?!

じゃ…じゃあお前の姉ちゃんが本気になったら一体どうなっちまうんだ?!」

男性が興奮気味に問う。

「さぁ…。

私ですらあの人の本気は見た事がありませんから(笑)」

そう言い笑う青年。

「ちょっと!!

あんた達?

さっきからあたしに聞こえてないとでも思ってんの?」

?!

いつの間にかすぐ側に女性が立っていた。

「あんなので騒いでるからあんた達は三流なのよ。

いい?

あたしが狙うのは本丸…。

大将が誰の末裔だろうが何だろうがあたしには関係無い。

それ以上の力で潰すだけよ?

分かっ…」

パシ!

?!

女性が話の途中で突然、自らの後方に手をやり何かを掴んだ。

「不意討ち?(笑)

いい趣味してるじゃない?」

そう話す女性の手には一枚の札が握られていた。

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智花様。

姉さんの強さがこのまま続くといいのですが…。

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沙耶様。

楽しくなって来ましたか?
このまま楽しんで頂ける様に頑張ります!

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むぅ様。

れっきとした人間でございます!(笑)
勿論、ただの…という訳では無いでしょうけどね…。

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はと様。

ロングなコメントありがとうございます!(笑)
槍を持ったおじいさんσ(^_^;)?
全く記憶にございません(^^;
脳細胞が…(T-T)

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月舟様。

ついてきて下さい!(笑)

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珍味様。

まぁまだ姉さんも若いですからね(笑)
年齢を重ねる毎に落ち着きを見せると思いますよ?
多分…。

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