僕の学校の近くには小さな公園がある。
高層ビルが建ち並ぶオフィス街の一角。背の高い木々が無造作に生い茂った雑木林のようなその場所は大学生達の間ではちょっとした有名スポットだった。
公園と言っても遊具や売店なんてものは無く、生い茂った木々の中心部に広場がありぽつぽつとベンチがあるだけの場所。
すぐ隣のショッピングモールは溢れる程の人で賑わっているのにこの場所だけはいつ見ても静かだった。
「よりによってここか…。」
「いいじゃん。どうせ暇だし!」
もう帰りたい。そんな僕とは対象的に隣を歩く彼女は楽しそうだ。
「何か見えるの?」
「ううん。何にも。」
何にも見えないのなら見えない内に帰りたい。
そんな事を考える僕の横で彼女は首を傾げて何かを一生懸命に探している。
「どうせ嘘だよ!ただの噂だろ?」
「でも来た人皆ここはやばいって言ってるし、根拠だってある!」
そう、この公園にはある噂がある。
昔この場所には拘留施設と処刑場がった。隣のショッピングモールが拘留施設、公園が処刑場。沢山の人の命が失われ沢山の血が流れ恨み辛みが染み込んだこの公園では夜な夜な幽霊が徘徊しているという噂。
公園の奥にはちゃんと慰霊碑も建てられている。そんな噂があるおかげでこの公園は大学生の間では有名な心霊スポット、度胸だめしの場でもあった。
そんな話を聞いていたからか、僕はこの場所が好きにはなれなかった。ふと見上げた隣のショッピングモールが何だか大きな墓石のように見えて、不気味で仕方が無かった。
「もしほんとにいるんならちゃんと見てみたくない?」
始まりは彼女のそんな一言。
こんな話するんじゃなかった…。と後悔しながら僕は広場の真ん中にある木にもたれかかって彼女が満足するのを待っていた。
「なんか首痛くなってきた〜。」
「猪上くんは勉強し過ぎなんだよ。」
「詩音がしなさ過ぎなだけだろ。」
呆れながら彼女の方を振り向いた瞬間、首に電気を流されたような激痛が走った。
「いっ!やばい。くびが…。」
そんな僕を見て彼女がやれやれと首を振りながら近づいてくる。
「どうしたの?」
「筋を痛めたっぽい。」
「はぁ…。ほんとに君は…。」
「いや、まじでやばい…。」
首が痛過ぎで気持ち悪くなってきた…。
そう言ってしゃがみ込みそうになる僕を見てしょうがないと言うように彼女は大きな溜息をついて上を見上げた。
「あ…。」
そう言って暫く上を見上げた後、彼女は僕の方に向き直って手を差し伸べてきた。
「早く帰ろう。」
今まで散々人を付き合わせておいてこの言い様だ。しかし正直もう立っているのも辛い。僕は情けなくも彼女の肩を借りる形で大学まで戻ってくる羽目になった。
「何か、ごめん…。」
「私の方こそごめん。首…」
「いや、ただの筋違いだよ。明日になれば…」
「ううん。」
「ん?」
「上にいたの、みんな。ぶら下がって見てた。」
「誰を?」
「猪上くん」
その目はふざけてはいなかった。
だけどこんな状態でその話は流石に笑えない。
「吊るされてたみんな。下向いてて、目を見開いてみてた。」
「そういうのやめろよ!」
僕は思わず大きな声を出した。
「真面目に話してるよ。でも多分塩振って二、三日日当たりの良い所にいれば大丈夫じゃない?」
適当すぎるだろ。
怖すぎて怒る気にもなれない。そもそもこの話をしだしたのは僕だ。そう思いながら僕は彼女ともう二度とこういった類の話はしないと誓った。
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結局次の日僕は学校を休んだ。
首の痛みが悪化し、ネックカラーを巻くはめになった。
とはいえ、そんなに長引きはしなかった。
彼女が友達に貰ったという大量の塩を頭から被った僕は次の日には全く持って何事も無かったかの様にピンピンしていたから。
「もうあそこには行かない方がいいね。」
「いや、こんな思いしてまた行きたいと思うわけ無いでしょ。」
「確かに…。」
「もうああいう所には行かない。絶対に!」
「猪上くんはその方がいいね。」
じゃぁ帰るね…。ドアを閉めようとした時、彼女が何か思い出した様な顔をした。
『つぎはにがさない』
だってさ…。
作者鯨
何が見えるかは人によって違うようだけど、有名なスポットでの出来事。