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これだから、来たくなかったのに…。
私は、大きくため息を吐いた。
友人に誘われ、近くの山にハイキングに来たものの、私は絶賛迷子中だ。
トイレに行きたいと1人はぐれたのが間違いなのだが、誰かが側に居ると安心して用を足せない主義なのだ。
無事に古いボットン便所を見つけ、用は足せたが、どんどん大きな道から逸れている気がするし、ましてやどこから自分が来たのかも分からない。
歩いてまだ半時間ほどしか経っていない気もするが、友人と離れた時に時間を確認していないから、正確な時間は分からない。
私はぶらぶらと、傾斜を下るほか術がなかった。
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どのくらい歩いたんだろう?
傾斜は大分緩やかになったものの、辺りは暗くなり、山道も見当たらない。
友人達は今頃私を探してくれているのか不安になる。
ふと、前を見ると灯りの付いた倉庫の様な建物があり、私は無意識のうちに走っていた。
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木で作られた倉庫の扉をノックし、応答を待つ。
中で人が動く気配がして、私は少し安堵した。
「はい?」
扉を開けたのは、そんなに年老いてなさそうなのに、顔を髭だらけにした男の人だった。
扉の内側から、少し鼻に付く臭いがしたが、この際、ワガママは言ってられない。
「すいません、道に迷ってしまって…。」
私がそう言うと、彼は一度目を丸くしたものの、にこやかな笑顔で部屋に入れてくれた。
どうして道に迷ったのか、私は聞かれてもいないのに、彼に詳細に話していた。
彼もまた、静かに私の話に耳を傾けてくれた。
「それは、さぞかし大変だったでしょうね。」
「いや、勝手に行動した私が悪いんですけどね。」
私が笑った時、腹の虫がぐぅと鳴いた。
私は申し訳なく、慌てて腹を抑えた。
「山菜は食べられますか?」
彼はそう言って、冷蔵庫の方に向かい、お椀を持って来た。
「わぁ!」
「温められませんが、山菜粥です。少しは腹の虫もおさまるでしょう。」
「ありがとうございます!いただきます!」
私は、素直に彼の好意に甘える事にした。
彼が作った山菜粥は、とても優しい出汁の味がして、私は全て食べ切ってしまった。
「凄く美味しかったです!何で味付けしたのか気になるぐらい!」
私がそう言うと、今度は彼が笑った。
「ここの地主さんに教えてもらって作ったんです。そうか、僕のでも美味しかったんですね。」
「えぇ、とっても!」
彼は、倉庫の窓から、遠くを見つめながら、思い出すように話始めた。
「僕は、訳あって人目を避けるように生きようと思いました。理由は、この顔の所為なんですが、地主さんは理由も聞かず、この山の倉庫に置いてくれました。山菜や動物の狩り方、毒草と薬草の使い分けなどなどこの山で生きる方法は全て教えて貰いました。ところが、彼の奥さんはそうではなく、キーキーとやかましいぐらいの人で彼女の作った物は食べられた代物ではなかった。勿体無いですが、全て捨てさせて貰うぐらいでした。つまり、何が言いたかったかって、優しい人が作ったものは何でも美味しいってことが言いたくて…彼が作った山菜、甘かったでしょ?」
彼は、恥ずかしそうに頭を掻きながら、笑った。
「とても優しい地主さんだったんですね。私も地主さんに会ってみたいです!」
私がそう言うと、彼は驚いた顔をしていた。
彼は、窓辺から猟銃が置いてある壁の方に歩いて行く。
そういえば、扉の横には何かの骨が沢山積み上げられている。
アレが臭いの原因かもしれない。
彼の方を見ると彼は1人でに首を振り、また私の方に戻って来た。
「今日はもう遅いので、行くなら明日にしましょう。」
「そうですか。」
「それより、今日は此処に泊まってはいかがですか?」
「うーん、じゃあ、お言葉に甘えて!救助隊の人が来るかもしれませんしね。」
私がそう言うと、彼は何か忘れていたのか、困ったように頭を抱えた。
「どうかされたんですか?」
「彼女が口に合うといいなぁ。」
「え?」
「いえ、こちらの話です。」
彼は困ったように微笑んだ。
そしてまた、猟銃がある壁の方に歩いて行った。
作者適当人間―駄文作家
オチはお好きなように考えてください。
個人的には2パターンぐらい考えてます笑