中編5
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『ワルイコハ…』

皆さん、イベントへ出かけるのは大好きですか?

夏休みも近いこの時期、あちこちでいろんなイベントが開かれますよね。

先日、私も友人と音楽イベントに参加しました。

「ヴァイオリニストが足りない」とのことで、フルート演奏者の友人から声がかかり、参加した次第なのですが、そこで怖い体験をしましたので、お話ししたいと思います。

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ヴァイオリニストという職業柄、いろんなホールやイベント会場、音楽スタジオ等に行きますが、たまーに「ステージだけでなく壁などにも装飾が施された素敵なホールなのに、なぜか陰鬱としている場所」というのがあります。

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こういう場所というのは、霊感がなくても何となく感じてしまう「エアコンとはちょっと違う、なんかヒンヤリする」とか「ライトは明るいけど雰囲気が何故か暗い感じ」というような、何気ない感覚を刺激されてしまうものです。

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そういうものを感じてしまった時は、そこに「何かある」と思って間違いないと思います。

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演奏家は時に、他の演奏家がライバルになったりすることもあります。

コンクールが、その代表例でしょうかね。

表彰される者、全てを賭けて散っていった者、そこには希望や喜び以上に、妬み、嫉み、憎しみ、絶望…、そんな負の感情が大きく渦を巻くからです。

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音楽家といえど、同じ人間です。

いろんな感情を持ち合わせていて当たり前ですが、負の感情というのは何故か「その場所」に溜まりやすいのです。

たぶん、ほとんどの人が「それは、いろんな人がその場所で負の感情を吐き出すせい」と考えるのではないでしょうか。

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太陽の光が降り注ぐ広い外では、愚痴を吐こうが恨み節を言おうが昇華してしまうものなのですが、人の集まる室内の空間というのは黒いものが集まって溜まってしまうというのが難点。

そうして自然に「陰鬱な場所」が出来上がってしまうわけです。

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なので青春ドラマにある、主人公が夕方の海で夕陽に向かって「太陽のバカヤロー!」と叫ぶのは、理にかなっていると言えますね。

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…それはさておき。

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私も会場に入った瞬間、「なんか嫌だな」と感じてしまったのですが、それが何なのか、その時点では分かりませんでした。

イベント当日は、急病で休む演奏者の代わりの人も何人か来ていましたが、幸い欠席者はいなかったので代役の人達は裏方の手伝いに回ることになりました。

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ちなみに私は「ヴァイオリンは代わりいないから這ってでも来い!」と友人に釘を刺されていた次第です…。(笑)

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イベントは、ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ・フルート・クラリネット・ピアノというこじんまりした編成でしたが、クラシックを中心に盛り上がりました。

全10曲の演奏で、5曲終わったところでトイレ休憩が入ります。

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その休憩で、ちょっとした事件がありました。

ヴィオラ奏者とヴィオラの代役だった人が、裏で少しモメたんです。

その場に居合わせた人によれば「単なる痴話喧嘩」だそうですが、ちょっと揉み合いになるような喧嘩だったらしく、ヴィオラ奏者が割れたガラスで手を切ったとのことで、しばし騒然としていました。

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よくよく話を聞くと、代役の方が恨み言をぶつけて喧嘩になったそうで、壁に吊るすように飾られていた花瓶を手に取ると奏者へ殴り掛かり、それをかわしたら花瓶が反対側の壁にぶつかって割れ、なおも殴り掛かろうとする代役を止めようとした時に代役が握ってた割れた花瓶で手を切ったようでした。

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かなり興奮状態だったので、チェリストのお兄さん達が3人がかりくらいで取り押さえていましたが、幸い、ヴィオラ奏者の怪我はたいしたことなくて後半の演奏にも出ることができました。

全てのプログラムを終えてアンコールに応え、幕が無事に降りた時は私も含め、みんながどっと疲れていました。

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その後、みんなで控え室へと引き上げ、打ち上げはどうするか、なんて話をしました。

結局、怪我もたいしたことなかったこともあり、代役による傷害事件は不問に。

「当事者がそう言うなら…」ということで、事件はそれで終わるはずでした。

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控え室で楽器を各々ケースにしまい、着替えがある人は着替えてホール裏口に集合となったのですが、私は友人と一緒に裏口へ続く廊下を歩いていて、私たちの前をヴィオラ奏者が歩いていたのですが、急に転んだので驚きました。

私も友人も、単にコケただけ、と思っていたので「大丈夫ですか!?」と駆け寄ってさらにビックリ。

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コケたまま反応がない。

友人が顔に耳を寄せて一言、「…息してない」。

すぐ救急車を呼びました。

救急車を呼んですぐ、私はヴィオラ奏者のすぐそばにしゃがむ黒い影を見ました。

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瞬間、背中がゾワッ!と総毛立ち、「あ、ヤバいかも…」と直感した時、その黒い影の顔だと思われる場所に、まるで空間が歪むように真っ赤な口と思しきものが「にやぁ」と笑うような形をしたかと思うと「ワルイコハネ…ツレテイクンダヨ…」と、こう、表現し難いような、嗄れた感じの声で呟くのが聞こえたんです。

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そして次の瞬間には黒い影が消えていて、表から救急車のサイレンの音が聞こえてきました。

ヴィオラ奏者を救急車に乗せ、今日の演奏を取り仕切ったリーダーが付き添って病院へ行き、私と友人は帰路に着きました。

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ヴィオラ奏者は、急性心筋梗塞だったそうですが対応が早かったこともあって、一命を取り留めました。

そして、こんな話を後から聞いたんです。

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「実はあのイベントね、元々は代役の子が演奏するはずで、あの奏者の方が代役の予定だったんだけどね、何のコネ使ったんだか知らないけど、嫌がらせした挙句に自分が当日の奏者になって、あの子を代役へ引きずり下ろしたそうだよ」

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それを聞いて私はゾッとしました。

皆さん、思い出して下さい。

あの黒い影が言ったことを…。

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「ワルイコハネ…ツレテイクンダヨ…」

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あれって、やっぱり…。

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『悪い子はね…連れていくんだよ…』

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…って、ことですよね。

皆さんは、あの黒い影の正体…何だと思います…?

[おわり]

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