あんな事件があった登山合宿から、もう五日が経っていた。
あれから急速にその距離を縮めた僕と来夢。
互いの秘密を共有した二人…。
まぁ当然の事なのかもしれない。
そして、そんな僕達は今日も穏やかな高校生活を送っていた。
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「カイ?
お前あれからどうだ?」
自分の後頭部をペシペシと叩きながら僕に聞く来夢。
心配してくれているのか小馬鹿にしているのかは知らないが…。
「五日やそこらで、俺の失われた千五百円が戻ると思うんかい!!」
僕は来夢に食って掛かる。
そんな僕に対して来夢は楽しそうな笑顔を見せてくれる。
本当に楽しそうに。
僕も負けじと満面の笑みを浮かべ笑って見せる。
そして、二人して腹を抱えて笑う。
いつの間にか僕達は互いに心を開き、本当の友達になっていた。
だが…。
そんな僕達を良く思わない輩達がいる…。
休み時間。
「カイ〜?」
いつもの様に窓の外を眺める僕に声を掛ける人物。
来夢は購買に買い物に出掛け、今はいない。
僕は窓から視線を外し、声のする方を振り向いた。
そこにはいつの間にか僕を取り囲む様にクラスの女子達が立っていた。
「カイ〜?
あんた最近、来夢君と仲ええよな〜?
あれ迷惑やし止めてくれへん?」
女子達の中の一人が言う。
「は?
言うてる意味が分からんし…。
大体、お前らにそんなん言われる筋合いな…」
ザクッ!!
?!Σ(゜Д゜)
僕の机に深々と突き刺ささった彫刻刀。
「カイ〜?
もうちょっと来夢君と距離取って欲しいねんかぁ。
でないとウチらが近寄れへんねん。」
突き刺さる彫刻刀を指でグリグリと動かしながら、尚も話し続ける女子。
突然の事に一瞬は怯んだ僕だったが、こんな事位で退く訳にはいかない!
僕も男だ!!
「いや、そやし言うてるやん!
お前らにいちいち…」
ザクッ!!
?!Σ(゜Д゜)
本日、二本目の彫刻刀…。
おまけに僕を取り囲むアマゾネス軍団の目は完全にすわっている…。
「お…仰せのままに…」
応戦虚しく、白旗を振る僕…。
「カイ〜?
買って来たよ〜!」
そんな時、購買での買い物を済ませ、教室へ戻って来た来夢。
途端に顔を赤らめソワソワしだすアマゾネス軍団。
そんなアマゾネス軍団を見て、少し不愉快そうな表情を見せたが、来夢はそのまま席へとついた。
「あっ!
カイ!お前何やってんだよ?!
そんな事したら危ないだろ?!」
来夢は机に突き刺さる彫刻刀を見つけ、僕がやったと思い込み僕を咎めた。
「いや、これ俺がやったんと…」
「そうやろ〜?
だから危ないって言うたやん!
大丈夫?カイ?
怪我とかしてへん??」
?!Σ(゜Д゜)
来夢の登場で急に態度を変えるアマゾネス軍団。
こ…こいつら…。
登山合宿で見た女性の幽霊より怖いかも…。
僕がそんな風に考えている間に、アマゾネス軍団はキャッキャと騒ぎながらその場を去って行った。
「カイ?
お前何かあったのか?
それにその彫刻刀…。」
来夢は僕の様子をおかしく感じたのか、表情を伺いながら聞いて来た。
「ちがうねん…。
この彫刻刀…俺がやったんと…」
?!
途中まで話した時、不意に強烈な視線を感じ、僕は教室内を見回した。
?!
そこには、扉の影から僕を睨み付ける無数の目が…。
それ以上、本当の事を言うと…。
僕を睨み付ける殺意の籠ったその目は、そう僕に訴え掛けている。
「い…いや…。
何もない!(笑)」
身の危険を感じた僕は、咄嗟に話をはぐらかした。
そんな僕に、来夢は納得のいかない表情を見せていたが、何とかその場を乗り切る事が出来た。
そして放課後。
一日の授業を終え、帰り支度をしている僕に来夢が話し掛けて来た。
が…何やら様子がおかしい。
「カイ…。
ごめん…。」
突然僕に謝罪してくる来夢。
「ま…まさかお前…。
お前…ワテの…ワテの千五百円の事、言うたんかぁ!(泣)」
少し様子のおかしい来夢に対し、僕は大袈裟に反応してみせた。
「そんな事する訳ないだろ!
そうじゃないけど…。」
何だか煮え切らない来夢。
「何よ?!
はっきりしない男は嫌いよ?!」
僕は尚もおどけて見せる。
来夢はそんな僕を申し訳なさそうな目で見つめながら話してくれた。
「今日、クラスの女子達に遊びに行かないか?と誘われたんだ…。
今までも色々な誘いを受けていたんだけど、勿論その度に僕は断っていた。
今回も僕は断ったんだよ?
でも…彼女達も今回は中々引いてくれなかったんだよ…。
それで…つい…。」
そこまで話して、また申し訳なさそうに僕を見る来夢。
「つい?
ついなんやねん?」
僕は続きが気になり、来夢に話すよう促した。
「つい…。
カイも一緒なら…って言ってしまった…。」
?!Σ(゜Д゜)
「お、俺も一緒?!」
僕の脳裏に先程のアマゾネス軍団のあの殺意の籠った恐ろしい目が浮かぶ。
「ごめん!」
来夢は唖然とする僕に対して、本当に申し訳なさそうに頭を下げた。
「ま、まぁ…言うてしもたもんはしゃあないな…。
で?何処に行くて言うとった?」
僕は来夢の表情にそれ以上強く言う事は出来ず、行き先を尋ねた。
「◯◯病院?
確か、そんな事を言ってたと思う…。
よりにもよって、肝試しだって…。」
?!
僕は来夢の口から出た◯◯病院と言う名に思わず声を荒げた。
「いやいや!あかんて!あかんて!
◯◯病院やろ?あかんあかん!」
突然、声を荒げた僕に来夢はキョトンとした表情を見せた。
「◯◯病院ってそんなにヤバいとこなのか?」
「いや…ヤバいて言うか…。
これからヤバくなると言うか…。」
煮え切らない僕の態度に来夢がきちんとした説明を求めたので、僕は自分の知ってる限りの情報を来夢に伝えた。
◯◯病院…。
そこは、つい三年前まで連日、患者で賑わいを見せる、ごく普通の病院だった。
だが、そんな病院である日事件が起こる。
その日、一人の患者の執刀に当たっていた医師が、医療ミスにより患者を死なせてしまったのだ。
あってはならない事だが、医療ミス自体は良く耳にする話。
だが、本当の問題はここからだった。
この件に関して弁解の余地は無く、後は執刀した医師への処分待ちといった状況になっていた。
遺族からもマスコミからも、同じ病院で働く同僚達からも白い目で見られ、執刀した医師は心身ともに追い込まれていった。
そして…。
精神的に追い詰められた医師は、事もあろうか病院に火を放ったのだ。
数多くの薬品が保管されている院内。
瞬く間に炎は燃え広がり、病院を包んでいった。
悲鳴を上げ、逃げ惑う従業員や入院患者。
だが、予想以上に火の回りが早く、結果四十名余りの尊い命が失われる事になる。
病院に火を放った医師本人も後に、医療ミスを起こした手術室にて自らの首をメスで切り裂いた状態で絶命しているのを発見される。
そして、その痛ましい事件の捜査の為、つい最近までその病院の周りは警察により立ち入り禁止とされていたが、最近になり捜査が打ち切られ、警察の介入が終わった所だ。
心霊スポットと言う物は、半分伝説的な部分があると思う。
例えば、何十年前にどこどこの廃墟で人が殺されたらしい。どこどこの家で一家心中があったらしい。
と言った様に、誰からともなくその噂が広がってはいるが、その真相は誰も知らない。
必ずと言っていいほど「らしい」と言う言葉が付いてくる。
だが、この◯◯病院は違う…。
不謹慎かも知れないが、ここは正に心霊スポットとして期待のホ―プであり、その信憑性も確かな物なのだ。
言うなれば、実績バリバリの即戦力みたいなものだ。
クラスの女子達は、来夢を誘って事もあろうかこの病院へ肝試しに行くといいやがる。
本当に有り得ない…。
そんな病院についての説明を聞いた来夢の表情が明らかに陰りを見せている。
「そっか…。
そこはちょっと僕やカイには危険過ぎるよな…。」
僕の話を聞き、来夢もその危険性について理解してくれた様だ。
「来夢くぅ〜ん!(笑)」
どんよりと沈む僕達に甘ったるい声が掛けられた。
「今日の肝試しなんやけどぉ〜。
二十時に◯◯公園に集合で決まったし、絶対来てなぁ?
私ら待ってるから(笑)」
僕達の気も知らずにキャピつくアマゾネス。
「それなんやけどな?
◯◯病院は止めた方がええやろ?
いや、霊的な事だけとちごて設備的にも危ないと思うんや。」
僕は耐えられずにアマゾネスに意見する。
?!
先程までハ―トの形をしていたアマゾネスの目が、獲物を狩るハンターの目に変わる。
「カイ〜?
あんたも来るんやろ?
時間…遅れんときや?
…なぁ?」
目で殺す…。
こういう事か…。
アマゾネスは僕の意見に耳を貸さずさっさとその場を立ち去った。
「カイ…。
仕方ないな…。
でも、大丈夫。
もし何かあったら僕が必ずカイを守るから。」
僕は来夢の言葉にハッとした。
そうやん!来夢にはあの目があるやん!
僕は来夢の特別な力を思いだし、先程までの憂鬱な気持ちを吹き飛ばした。
そして約束の集合時間。
僕と来夢が揃って公園へ到着すると、予想通りに僕は蚊帳の外。
ええよ別に!ええよ…別に…(泣)
来夢を中心に群がる女子達の後ろをとぼとぼと付いて行く僕。
そして程なくして、目的地へと到着する。
?!
到着してすぐに◯◯病院の外観を見た僕は、女子達から来夢を急いで引き剥がし、小声で話し掛けた。
「来夢?!
あれあかんやつやろ?!
絶対あかんやつやろ?!」
僕はかなり取り乱していたと思う。
だが、それも無理はない。
外から見た◯◯病院の窓という窓、その全てに人らしきモノが立っているのが見える。
ガラス貼りの正面玄関からも、はっきりと院内を歩き回る人らしきモノの姿が見てとれる…。
だが、それらは全て人では無く幽霊…。
とてもじゃないがこんな所に踏みいる勇気は僕にはない。
「カイ?
大丈夫。
あれは大丈夫。」
来夢が小声で僕に返してくる。
大丈夫?あれの何処が大丈夫なん?!
僕は来夢の言葉が全く信用出来ない。
「落ち着いて聞いて。
確かにあれは生きている人間じゃない。
でも、彼らはまだ自分が死んでいる事に気付いていないんだ。
だから、生前そうしていた様にあの病院の中を動きまわっているだけ。
僕達が必要以上に騒がなければ彼らが襲ってくる事は有り得ない。
だから、大丈夫。」
来夢の真剣な表情を見れば嘘を言っていないのは分かる…。
でも…。
「来夢君?!
ここ!ほらぁ?ここから入れるよ!」
何も見えない女子達が、病院への入り口を探し当て、嬉しそうに来夢に報告する。
「カイ?行くよ?
その辺りを適当に見て回れば彼女達も納得するよ。
さっさと終わらせて引き上げよう。」
来夢はそう言うと女子達の元へ向かって行った。
僕はその場に暫く立ち尽くしていたが、渋々来夢の後を追って行った。
真っ暗な院内。
その中を一塊になって進む僕達。
当たり前の様に僕達の横を通り過ぎて行く、事故の被害者達。
僕は彼らとすれ違う度に目を閉じ、その場をやり過ごした。
そして、院内へ入って十五分が経過した頃、先程まであれほど怯えていた僕も、不思議な物でこの状況に慣れ始めた。
彼らが横を通ってもなに食わぬ顔でやり過ごせるまでになっていた。
そうして一階を大方見て回った僕達は、次に二階を見て回る事にし、階段を上がっていく。
暗い階段を昇り、二階に辿り着いた僕達の目の前には、長く続く廊下が。
?!
廊下の先に人影がある。
その人影は僕達の方へと歩いてくる。
まぁ、また適当にやり過ごしたら問題無いやろ。
この状況に大分慣れてきていた僕は、軽い気持ちでそんな風に考えていた。
ゆっくりとこっちへ向かって来る人影…。
その影が段々と近くなっていき、それが老婆だと分かった時、来夢が僕に小声で話し掛けて来た。
「カイ…?
アレは…ヤバい…。」
?!!
作者かい
アマゾネス!