中編6
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心霊写真

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「悪くはないと思うんだけどさあ、イマイチインパクトが弱いんだよね」

TV局の一室。

中年の男性ディレクターと新人の女性ADが何かのデータを見ながら話している。

見ているのは写真だが、普通の写真ではない。

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写真全体に白いモヤがかかっているもの。

不自然な顔や手が移りこんでいるもの。

人体の一部が消えているもの。

いわゆる「心霊写真」と呼ばれるものだ。

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「何がいけないのでしょうか?」

「いや、一昔前ならこれでよかったんだよ。

 だけどさ、今どきネットも普及して、

 簡単に写真加工できるようになったから、この程度のやつは視聴者は見慣れちゃってるわけ。」

「そういえばそうですね・・・」「でしょ?」

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「とりあえずこん中からピックアップしてはみるけどさ、

 視聴者シラけると思うんだよねー。これだけじゃ。

「戦慄!本当に怖い心霊写真」は番組のトリだからねー、絶対失敗できないんだよ。

 あと1週間あるからさ、もっとインパクトのあるやつ、探してきてよ。

 何をしてもいいからさ。」

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「無茶言わないでよ…。マジで。」

送られてくる写真に片っ端から目を通すが、目ぼしいものはない。

『俺にとっては毎年の企画だけどさ、君にとっては初めてのデカい仕事だろ?

期待してるからさ、頼むよ。」

プロデューサーの一言が彼女の脳裏をよぎる。

ようやく掴んだチャンス。

みすみす逃したくない。

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だが、どうすればいいのか。

気晴らしにSNSを開く。

中むつまじい男女の写真が目に留まる。

先日テーマパークに行ったらしい。

そんな中、彼女の脳裏に浮かんだ一つのキーワード。

「何をしてもいいから」

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一つのアイデアが浮かぶ。

しかしそれは、TV局の人間として最低の行為だ。

だが、チャンスを掴むにはもうこれしかないと感じていた。

その写真をコピーし、画像処理を始める。

「ごめんなさい」

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「いやー!こういう写真を待ってたんだよ!インパクト抜群!これなら絶対数字取れる!間違いないよ!」

プロデューサーは彼女が用意してきた写真データを大絶賛している。

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写真のは、カップルの間に恐ろしい形相の半透明の女性が映り込んでいるものだった。

しかし、その写真は偽りのものだ。

フォトショでカップルの画像に、CGで作成した女性の霊を合成していたものである。

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決してバレることは無いはずだ…

背景にはボカシを入れ、2人の顔も加工してわかりにくくした。

この写真がフェイクだとバレることがないよう、彼女は最新の注意を払っていた。

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「なんでこんなことしちゃったの?」

番組は高視聴率を記録したが、放送から1週間後、局内の部屋でADはプロデューサーに詰問されていた。

「本当にごめんなさい…」

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決してバレないよう、細工をしたつもりだった。

しかし、甘かった。

このフェイク心霊写真は大反響ののち、SNSでも拡散されたが、今は素人でも解析をできる技術が発達しており、どこで撮影されたものか突き止められてしまったのだ。

それが撮影した当人たちにも知られてしまい、クレームが来てしまったのだ。

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「インパクトがある写真がどうしても見つからなくて…つい魔が刺して…クビですよね、私」

女性AD…山内はうつむきながら言った。

「普通ならそうだけどね。でも、この仕事は成り手が少なくて困ってるんだよ。今まで君が優秀な仕事をしてきたことだって知ってる。だから…」

「はい」

「被害者に一緒に謝罪しにいかないか?君がもうやめたいというなら、それでもいい。でも、それは逃げなんじゃないかな」

「行きます」

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数日後。

被害者の家に、プロデューサーと山内は車で向かっていた。

「ずいぶんと辺鄙なところにお住まいなんですね。若くて可愛いカップルさんだったし、もう少し都会に住んでるとばかり」

「家賃が高いからね、都会は。仕事が軌道に乗ったら引っ越すことも考えていたらしいよ」

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人里離れた郊外のアパートに着いた。

「ここですね。賀喜…?ガキかな?」

「カキと読むらしいぞ。彼氏さんには「かっきー」.と呼ばれてるらしい。同棲していたらしいんだが、彼氏さんは最近体調を崩して入院してしまったらしいんだ」

今回の件が原因なのか…ますます山内は申し訳なくなった。

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ピンポーン

インターホンを鳴らすが、返事はない。

「すみませーん、〇〇テレビのものなんですが」

「どう…ぞ…」

呼びかけるとようやく、掠れた女性の声で返事が来た。

ドアは開いていた。ドアを開け中へ入っていく。

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部屋は昼間とは言え、薄暗く電気もつけていなかった。

ほとんど生活感がなく、空気が淀んでいた。

二人はゆっくりと進んでいき、部屋に入っていった。

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「嘉喜…はるかさんですか?」

「はい…」

部屋の真ん中に部屋着のまま座っていた女性に声をかけると、返事が来た。

とても写真の可愛らしい女性と同一人物とは思えないほど、髪はぼさぼさで、顔も青白かった。

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山内は、はるかを見るなり駆け寄って、謝罪した。

「この度は本当に申し訳ございませんでした。私にとって初めての仕事で失敗できなくて、ついプレッシャーからあんなことを…」

「あなたなの?」

はるかの声が徐々に怒気をはらんでいく。

「あなたが…やったの?」

「はい、そうです…」

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shake

「うわああああああああ!!!!」

はるかは豹変し、山内にとびかかった。

「何でこんなことしたのよ!私たちがあなたに何をしたっていうのよ!許さない!殺してやる!しねええええ!!!!!」

はるかは山内の首を締めあげていく。

「嘉喜さん、落ち着いて!!!何があったか聞かせてください!!!」

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プロデューサーがはるかを慌てて引き剥がした。

「あの写真がテレビに出てから…彼氏と撮る写真全部にあの女が映るようになって…」

はるかはスマホで画像を見せた。

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「嘘…こんなことが…どうして…」

間違いなく、自分が合成で作りだした女性の顔が、あらゆる画像に映りこんでいた。

一体どういうことなのか。視聴率欲しさに自分が作ってしまった画像が、存在しなかったはずの霊を作り出してしまったのか。

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「待っていたよ、あなたが来るのを」

どこからか、見知らぬ女性の声がした。

視線を声がした方に移すと、黒い不自然な影が部屋の片隅から広がり、悲鳴をあげる間もなくはるかの身体を覆いつくした。

「山内くん、やばい!逃げるぞ!」

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プロデューサーは山内の手を掴んで、部屋から逃げ出した。

車に飛び乗り、エンジンをかける。

だが数分走ったあたり…

車の中から黒い影が染み出て手に代わり、プロヂューサーの首を絞めた。

shake

「ぐあああああ!!!!」

運転を誤った車はガードレールに正面衝突してしまった。

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しばらくして、山内は目を覚ますとまだ車の中にいた。

奇跡的に助かっていたが、車はグシャグシャに潰れて見る影もない。

「プロデューサー!プロデューサー!」

隣に座っていたプロデューサーに声をかけたが、返答はない。

血まみれで、おそらく即死だ。

「嘘…」

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「山内さん」

車の外からした声に思わず振り向いた山内は、目を疑った。

そこにいたのは、間違いなく合成で自分が作りだした、存在するはずがない女だった。

「なんで!?なんであなたが実在するの!?」

「違うよ、あなたが私を作りだしたから、私はここにいる。

 でも、もうあの世界にいるの飽きちゃった。

 だから、これからは私があなたとして生きていくね」

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「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…助けて…」

「もう遅いよ」

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1年後

「ご苦労さん!いやあ今回の特集も高視聴率!スポンサーも大喜び!すべて君のおかげだよ。このネット全盛期にテレビでこれだけの数字出せるのは素晴らしい!」

「いやいや…何おっしゃいますか。プロデューサーさんが優秀だからです」

「またまたお世辞言うんじゃないよ!この後打ち上げだからね!頼むよ!」

「これ終わったら、すぐ行きますね」

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女性ADは、加工中の写真を見てつぶやいた。

「誰かが出してくれるといいね」

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