中編4
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Best Friend

「おはよう...」僕は、クラスメイトに控え目に挨拶をする。

 「.........」、

別の子にも声を掛ける。

「.........」。

 

 クラスが僕を無視するようになってから、どのくらい経ったのだろう。

いわゆる、いじめられっ子という存在だ。

 僕は、叩かれても、蹴られても、貸したマンガを返してくれなくてもかまわない。

 ただ! 無視はダメだ! 無視は、自分という人間が本当に存在しているのか分からなくなる。

 僕は、もしかしたら空気かなにかで、本当は人間ではないのでは? と、とても、不安になる。

 でも、僕にも希望はある。

 隣の席の高杉くんだ。席は窓側の一番後ろ、その隣に僕。

 自分の席につき、隣の高杉君に「おはよう」と、挨拶する。

 高杉君は周りを気にしつつ小声で「...おはよう」と返してくれた。

 たったこれだけの事で、僕は自分の存在を肯定できた。

 感謝の気持ちを伝えたく、話し掛ける。

「高杉くん、あの...」

 「日野くん、あのさ」僕の言葉を制し、高杉くんが、周りを気にしつつ小声で続ける。

 「君と話してるのを人に見られるとまずいんだよね」

 僕を視界に入れないよう、真っ直ぐに前を見つめながら話す。

 「なるべく、話かけないでほしい」

 何処か、怯えたような表情で言った。

 その時、「おーい、高杉ぃ」

 教壇の方から声がする。声の主、光田だ。

 僕をいじめ始めた。張本人。

 「何を一人で喋ってんだよ」

 僕は、俯き、肩を強ばらせる。

 「こっち来いよ、高杉」

 高杉くんは、そのまま、真っ直ぐとみんなの輪の中に入っていった。

 

 ひとりになった僕は、考える。

 何故? 僕はいじめられるのか、なんとなくだが、考えた。

 光田は、勉強はできないが、スポーツは抜群にできる。

 空手の実力は小学生県大会のベスト4に入る。

 運動会で、リレーのアンカーを努めれば、3位からのごぼう抜きで、余裕の1着。

 腕っぷしも強くて、納得いかなければ、年上だろうとぶっ飛ばす。まさに、男の中の男といった感じだ。

 光田の腰巾着、堀川は、家が金持ちで、新発売のゲームは勿論、誰よりも早く手に入れる。

 僕たちが一生かかって行けるかどうかの場所への海外旅行など、日常茶飯事だ。

 性格はまめで、仲間の誕生日には、プレゼントを欠かさない、世渡り上手。

 そして、高杉くん、彼は勉強をやらせれば、学年一位、スポーツもできる。駄目な所を探すほうが難しい。

 霊感なんて特殊能力まであり、クラスメイトにせがまれ、霊体験を話す時などは、クラス中が集まる人気者だ。

 他にも、サッカーが上手いやつ、ゲームが得意なやつ、鉄道に詳しいやつ、踊れるやつ、そんな中、僕には何もない、勉強もできない、運動音痴、得意なことも一つもない。

何かひとつでも皆が認めてくれる何かがあれば、この状況から抜け出せるかもしれないかもなと思う。

 そんな事を考えていると、授業開始のチャイムが鳴った。

 

 授業中、僕はふと思った。高杉くんに話し掛けるのは控えよう、それは分かる。

彼にも立場があるし、僕と話す事で高杉くんまで標的にされるかもしれない。

 だが、朝の挨拶、「おはよう」の一言はいいのだろうか?

 今の僕にとって、朝の挨拶、僕が言い、彼が返してくれる、これは、儀式の様なもので、唯一僕が此処にいると確認できる救いだ。

 それすら無くなったら、僕は...

 

 考え始めると気になって仕方がない、僕は駄目だと分かっていても、どうしてもその事を確認したかった。

 「...ねぇ...高杉くん...」

 「.........」

 「ひとつだけ、いいかい?...」

 「.........」

 「ねぇったら、高杉くん」

 その時、両手で机をバンっと叩き、高杉くんは立ち上がると、叫ぶように言った。

 「いい加減にしてくれよ! 日野くん!」

 クラスがざわめく、どうした、どうした、と、ひそひそと騒ぎ始める。

 高杉くんは、微かに震え、目に涙を溜めて続ける。

 「なんで?! なんで僕なんだよ! 君を苛めてたのは、光田たちだろ! 僕じゃないだろ?! 確かに僕も君を無視した。でも仕方ないじゃないか」

 クラスがいっそうざわめき、誰彼問わず喋りだす。

 「えっ? 日野?!」「なんで?!」 

 「高杉くん、なに言ってるの?」

 「悪い冗談はやめろよ!」

 高杉くんは今日初めて僕を向いて言った。

 「君はもう死んでいるんだっ! 化けて出るなら他の子にしてくれよ!」

 

 「.........そうか、...そうだった...」

 僕はクラスメイトに無視され、自分が人間なのか、それとも空気か何かか分からなくなり、確かめたくて...、そこの窓から...飛んだんだ。

 そうか...僕は死んでいたのか...

 ...でも、まあいいや...僕には高杉くんがいるから!

 

 

 

 

 

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