小学生のトモキは、トランスフォーマーのオモチャが大好きだった。
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しかし、高価なために、めったに買ってもらえるような代物でもなく、オモチャ屋でもらったカタログを、毎日穴が開くほど見つめては、いつしか手にできる日を夢見ていた。
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その中でも、電車からロボットに変形し、さらに5体が集まって巨大メカになるロボットが大のお気に入りだった。
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ある日、友達に誘われて、同級生のマコトの家に遊びに行った。
そこでトモキは、みんなと遊びを始めるなり、目を丸くした。
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あれほどまでに憧れ、恋い焦がれていた5体合体の巨大メカが、目の前にあるのだから…。
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「これ、どうしたの?」
「このあいだの誕生日に買ってもらったんだ」
「ちょっと持ってもいい?」
「いいよ」
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巨大メカを手にしたトモキは、心の底から感動した。
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両手に余るほどの巨大感…。
振り回すことも困難な程の重量感…。
精密なディテール…。
緻密な変形・合体機構…。
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そのどれをとっても、自分の想像をはるかに越える、圧倒的な存在感を放っていた。
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トモキは夢中になって遊んだ。
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トモキもトランスフォーマーのオモチャをいくつか持っていたが、今、手にしている巨大メカの魅力には、到底かなわなかった。
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しばらくすると、みんな家の中の遊びに飽き、ひとりまたひとりと、ベランダから外へ出て、庭先の砂場で遊び始めた。
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気づくと、家の中には、トモキひとり…。
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その時、トモキの心に、ある「出来心」がよぎった。
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「盗んでしまおうかな…」
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トモキに沸き上がった欲望はあまりにも強く、良心は一瞬で吹き飛んでしまっていた。
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しかし、巨大メカというだけあって、盗んで持ち帰るには、無理がある。
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トモキは、5体の中でも、SLに変形するロボットが特に大好きで、巨大メカの右足になっているそのロボットの合体を解くと、ポケットの中に忍び込ませた。
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そして、砂場で遊んでいる友達のみんなに「お腹が痛くなったから帰る」と言い残し、その場から逃げ去るように、帰ったのだった。
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しかし、家に帰ったトモキを、猛烈な罪悪感が襲った。
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「バレたらどうしよう…」
「明日、学校で会うの嫌だな…」
・
・
・
「でも、もし何か言われても、間違って持って帰ってきちゃったことにしようかな…」
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次の日、学校に行ったトモキは、マコトに何か言われるのではと、少々ビクついていたが、意外にもマコトの方から普通に接してきたので、「もしかしたらバレてない?アイツ、オモチャいっぱい持ってるしな…」と、安堵した。
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そのまま平穏な日々が続く中、トモキは意識的に平静に振る舞おうとする一方、無意識的にマコトを避けるようになっていった。
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ただ、オモチャ箱を開けるたびに、あのロボットが目に入り、罪悪感が沸き上がってくるのには耐えきれず、ある日、そのロボットを家の裏に持っていき、踏みつけて粉々に壊してしまった。
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月日は流れ、トモキたちはひと学年進級。
クラス替えもあって、トモキもマコトも、それぞれのクラスで新しい友人関係を築いていった。
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ある日、トモキは新しい友達に誘われ、放課後、その友達の家に遊びに行く約束をした。
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その家は、マコトの家の、すぐそばにあった。
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マコトの家には、あの日以来行っていない。
家に近づくにつれて、忘れてかけていたあの罪悪感が、心の中でムクムクと蘇って来る…。
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「な~に。もう1年も過ぎたし、マコトも忘れているに違いない。そもそも時効、時効」
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まとわりついてくる嫌な思い出を振り切り、友達の家に向かうため、道路を横断しようとした、その瞬間…。
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大きな影が猛スピードで迫っていることに気がついたときには、すでに手遅れだった。
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キキキ~!ガッシャ~ン!!
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トモキはトラックに轢かれてしまったのだ!
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トモキに意識はあった。
しかし、下半身を車体に巻き込まれたらしく、強烈な激痛がトモキを襲っていた。
体を起こそうとした時、妙な感覚にとらわれた。
その違和感を感じた方向に目をやったとき、気づいてしまった。
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右足の膝から下が無くなっているのだ!
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トラックに巻き込まれたときに、どこかへ千切れ飛んでしまったらしい。
傷口から鮮血がほとばしり、アスファルトを見る間に真っ赤に染め上げていた。
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そこに駆けつけたトラックの運転手は、顔面蒼白になりながら、あたふたとあわてふためくばかり。
どこからともなく集まってきた野次馬からは「救急車!救急車!」と、わめく声も聞こえてきた。
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「僕の足!僕の足!誰か…探して…」
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その声に、野次馬たちが一斉に、トモキの千切れ飛んだ右足を探し始めた。
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野次馬の人垣が崩れたとき、トモキの目に一瞬、見覚えのある姿が飛び込んできた。
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・・・
・・
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マコトだった。
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道路から見える位置にある、自分の家の庭先に立っている。
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その手には、見覚えのあるスニーカー・・・
いや、
右足がぶら下がっていた。
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野次馬はまだ、マコトの存在に気づいていない。
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次の瞬間、マコトが口を開いた。
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15メートルほども離れているはずなのに、マコトが発した言葉を、トモキはハッキリと聞き取ることができた。
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・・・
・・
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「やっと返してくれたんだね」
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マコトはニヤニヤと不気味に笑ったかと思うと、持っていた右足を地面に落とした。
そして、鬼のような形相を浮かべ、何度も何度も踏みつけたのだった。
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踏みつけられるたびに土煙が巻き上がり、泥と砂にまみれていくトモキの右足…。
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オモチャを盗んだ罪悪感を抱いていたトモキは、意識を失うまでの数十秒間、その光景を、ただ黙って見ていることしかできなかった。
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作者とっつ
5月以来です。
ご無沙汰でした。
仕事と家族サービスが忙しくて…。
相変わらず過去作品ですが、よろしければお読みください(/--)/