ある小学生の話。
彼女は5年生だ。
今日は写生会。
クラス全員で、学校から歩いて30分ほどの消防署に来ていた。
車庫にズラリと並ぶ、幾台ものポンプ車やハシゴ車。
彼女は、改めてみる威風堂々としたその姿に、一瞬で目を奪われた。
さっそく、パレットに何色もの絵の具をたらし、描き始める。
しばらくして絵は完成に近づくが、彼女はどうにも納得がいかない。
どんなに絵の具を調合しても、消防車独特の深みのある赤色が表現できないのだ。
彼女は小学生ながら、完璧主義者だった。
「どうしても、あの赤色を表現したい」
しばらく考え抜いた結果、妙案を思いついた。
ペンケースの中から、小さなカッターを取り出すと、パレットの上で、自分の指先をスパっと切りつけた。
そう、自らの血を絵の具に使おうと考えたのだ。
滴り落ちる鮮血をパレットで受け止め、絵筆にタップリと染み込ませ、試しに描いてみる。
するとどうだろう。
深みのある血の色は、まさしく消防車の赤色そのものだった。
彼女は嬉しくなり、なかなか完成しなかった作品を、一心不乱に仕上げていった。
周囲で見ていたクラスメイトたちは、その様子を気味悪がったが、彼女はイメージ通りの作品が描けたことに、とても満足していた。
その帰り道。
出血したことにより、意識が朦朧としていた彼女は、交通量の多い通りに差し掛かったとき、ほんの一瞬、目眩に襲われ、フラフラと車道の方へ…。
次の瞬間!
耳をつんざくブレーキ音とともに、ゴスンと鈍い音が!!
彼女はクラスメイトの目の前で、大型トラックに轢かれてしまったのだ。
タイヤや車体の底に巻き込まれ、すでに原型をとどめていない彼女。
現場は一瞬にして地獄絵図と化した。
彼女の遺体の傍らにヒラリと舞い落ちた先ほどの絵。
しかし、その様相はさっきまでとはまるで違っていた。
絵の具のかわりに使った血が時間とともに酸化し、ドス黒く変色していたのだ。
ドス黒く変色した消防車…。
それはまるで霊柩車のようだった。
作者とっつ
過去の作品を投下中。