ある小学生の話。
とてもいたずら好きな彼は、学校のトイレ掃除のときに、新しいいたずらを思いついた。
それは、掃除用具の中に必ずある、ゴム手袋を使ったものだ。
単純である。
便器の穴に、ゴム手袋を立てるように置いておく。
ただそれだけだ。
しかし、効果は絶大だった。
トイレのドアを開けたとき、便器の穴から、脱力したような腕が飛び出していたら、誰だって驚く。
しかも、ゴム手袋は大抵2組くらいあるので、ほとんど全ての便器に仕掛けておくことができた。
ちょっとした隙に仕掛けておくだけで、時々トイレから、誰かの絶叫が響いてくるのがたまらなくなり、病みつきになった。
いたずらは学校だけにとどまらず、人の集まるデパートや飲食店でもやるようになった。
隙をみて、女子便所に仕掛けると、より一層効果があった。
男性と違って、100%大便器を使うし、リアクションがいい。
女性の甲高い悲鳴には、快感すら覚えた。
しかしある日、たまたま見たテレビのニュースで衝撃を受けた。
いつも行っているデパートの女子便所で、女性がショック死しているのが発見された、というものだ。
「悪質ないたずらによる可能性…」というキャスターのフレーズ…。
その瞬間、身も心も凍りついた。
さすがに罪悪感を覚え、それ以来、そのいたずらをすることはなかった。
しかし、いたずらの主が自分であるとは、怖くて誰にも言えなかった。
ある日の放課後、学校に忘れ物をしてしまったことに気づいた彼は、その日のうちに取りに行かなければならなくなった。
日はすでに暮れかけていて、気は進まなかったが、やむを得ない。
自転車にまたがると、急いで学校に向かった。
ようやく学校に到着した頃には、すっかり日も暮れ、辺りはすでに暗くなっていた。
自転車を降りた彼の目の前には、不気味にたたずむ夜の校舎が…。
残業している先生はいなく、正面玄関も職員玄関も施錠され、照明も全て消されていたが、幸運にも校舎裏の通用口だけは開いていた。
どうやら、教頭先生が見回り中らしい。
「ちょうどいい。今のうちに」と、忘れ物を取りに、大急ぎで教室へ向かった。
校舎に入ると、あちこちにある非常灯が、緑色の淡い光を放っていて、照明がなくても、廊下を進んでいくことはできた。
しかし、その仄かな明るさが、夜の校舎の不気味さを、より一層際立たせ、彼にとっては、決して頼もしい明かりではなかった。
なんとか教室に到着した彼は、無事に忘れ物を手にすることができた。
すると、少し緊張がほぐれたためか、急にトイレに行きたくなってしまった。
しかも、よりによって、大の方…。
当然、躊躇したが、家に帰るまで我慢できる自信もなく、仕方なくトイレに向かうことに。
トイレに入ると、冷えきったタイルが放つ、ヒンヤリとした独特の冷たい空気が、彼を包み込んだ。
寒々しさを感じたことによって、尿意も加わり、もともとあった便意も、ますます加速することとなった。
襲ってくる便意をこらえながら、片手でズボンを下ろす準備をして、もう一方の手をドアノブにかける。
そして、ドアを開けた、その瞬間…。
「!!!!!!」
心臓が止まる、とは、このことだ。
フタの開いた便器の穴から、人間の腕が飛び出しているのだ。
まるで、死人の手のように、生気を失い、不気味に脱力している人間の腕が…。
しかし、彼にとっては見慣れた光景だった。
なにせ、彼自身が考案し、一時は病みつきになっていた、あのいたずらだったからだ。
「一体誰だよぉ!しかもこんなときにぃ!」
間の悪いいたずらに怒りが込み上げてきたが、ここで腹を立てていても仕方がない。
いたずらにビックリしたせいで、便意が限界に達してしまったのだ。
急いでゴム手袋をどけようと手を伸ばす。
「!!!!!!」
再び衝撃が彼を襲った。
ただのゴム手袋だと思っていたその手…。
急に動いたかと思うと、次の瞬間、彼の腕を掴み返してきたのだ。
あまりの恐怖に、声すら出すことができない。
とにかく逃げようと、彼は必死にもがいた。
みじめにも、糞尿を漏らしながら…。
しかし、腕の力はあまりに強力で、まともに身動きすらできない。
なんとか引き剥がそうと、もう一方の手で抵抗をしたとき、彼は気づいた。
ゴム手袋だと思っていたそれは、よく見れば、人間の腕だった。
指先には、長く伸びた爪もあり、抵抗すればするほど、指先が深く皮膚に食い込んでいった。
彼の腕から滴り落ちる鮮血。
彼は完全にパニックに陥っていた。
そのとき、便器の穴の底深くから、女性のうめき声のようなものが…。
その声は、怨めしさを込めて、彼に向かい、絶叫した。
「お前かぁぁぁ!!!!!!」
作者とっつ
過去の作品を投下中。