「来夢くぅ〜ん!!」
あの事件の翌日。
教室へと足を踏み入れた途端、女子達に囲まれる来夢。
「もぉ〜!来夢君!!
私らホンマに心配やったしぃ!」
「もう大丈夫なん?
体調悪かったら言うてね?
私、医務室まで連れて行くから!」
「ちょっと!
なんであんたが連れていくんよ?!
私が連れて行くし!
ねぇ〜来夢君(笑)」
女子達の激しい争いに巻き込まれ、困った表情を見せる来夢。
既に席へと着いていた僕をチラチラと見ている。
助け船を出して欲しいのだろう。
だが!!
僕はそんなに甘い男では無い!
これでもか!というほどの満面の笑みで来夢を見た僕は、ビシっと親指を立てて見せた。
来夢…ファイト。
?!
そんな僕を見た来夢は一瞬曇った表情を見せたかと思うと、ゆっくりと左手を上げ眼帯に手を掛けた。
「はいは〜い!
君達そこまで〜!
悪いけどここから先はマネージャーである僕を通してくれないかなぁ?
ねぇ?レディ達?」
来夢に消される危険を感じた僕は、猛ダッシュで女子達の元へ駆け寄り来夢の間に割って入った。
「は?
キッも!」
「レディやてレディ(笑)」
「どの顔で英語つことんねん!
ホンマにキモいねん!カイ!」
鋭く尖った暴言という名の矢が次々と僕の心臓に突き刺さる。
だが!!
鉄のハ―トを持つ僕には掠り傷一つ付かない。
「ん〜?
ご機嫌ナナメなのかい?レディ達?」
僕は女子達を来夢から引き離す為、尚もグイグイと攻めていく。
「そやしキモい言うてんねん!
大体なんやねんお前!」
「ホンマやし!
キモ過ぎんねん!」
「何キャラやねん!それ。
お前がどっか行けや!このハゲが!!」
?!
い…今なんと?
僕の頭の中で二文字の言葉が響き渡る。
ハゲ〜…ハゲ〜…ハゲ〜…
膝から崩れ落ちる僕。
鉄のハ―トも粉々に砕かれ、その原型を留めてはいない。
「こらぁ!チャイム聞こえんのかい!
席座らんかい!」
………………………。
「おい?お前に言うとるんやぞ?
えぇ?カイ!」
?!
教室に入って来た担任の言葉にハッと我に返り、周りを見回すと女子達は既に席に着いていた。
あ…あいつら…。
?!
担任に促され、ゆっくりと立ち上がった僕は更なる衝撃の光景を目の当たりにした。
先程まで女子達に囲まれ、僕に助けを求めていた来夢までもが僕を残し着席している。
う…裏切りや…。
まさかの来夢の裏切りに失意のもと席に戻った僕は、すぐに来夢に対し抗議をする。
「あの〜なんだ?
なぁ?来夢君。
君の取った行動は人としてど…」
「静かにしてくれ。」
?!Σ(゜Д゜)
「ツンデレなの?
ねぇツンデレなの?!」
………………。
その後、来夢が口を開く事は無かった。
そして休み時間。
「カイ?
まだ怒ってるのか?(笑)」
………………。
来夢が僕に話し掛けて来たが僕は窓の外を眺めたまま返事をしない。
「う〜ん…。
間違ったのかなぁ…。」
来夢は僕の背中越しにブツブツと独り言を繰り返している。
暫く続いたその独り言に、僕はイライラを覚え来夢の方を振り返った。
「何をブツブツブツブツ言うとんねん!
趣味か?ブツブツが趣味か?
しばくぞ!」
そう捲し立てる僕に来夢は溜め息をついてみせる。
「いや、さっきのあれ…。
カイを裏切った訳じゃないんだよ。
……………。
関西人ってあぁいうノリが好きなんじゃないのか??」
は???
「もしかして…ノリと突っ込みとかそういう事言うてる??」
「やっぱり違うのか?」
「全然違うわいボケ!
お前のはただの裏切り行為じゃ!
ワシ、お前助ける為にハゲ言われたやんけ!」
バンっ!!
?!
突然、僕の机が強く叩かれ、その音にドキっとした僕は前を向いた。
「誰がボケやって?」
?!
か…完全に目すわってはる…。
そこには僕を取り囲む様に女子…いや、アマゾネス軍団が立っていた。
「何や!
いつでもやったんぞ!」
アマゾネス軍団に囲まれ、心臓バクバクの僕は小学生の様な威嚇をする。
「来夢くぅん。
ちょっとだけカイの事借りてもいい?」
あかん…あかんよ来夢君?!
分かってるよね?
何て言うか分かってるよね?!
「別にいいけど?」
来夢のアホぉ!!
アマゾネス軍団に連れられ教室を後にする僕。
まぁ…その後何があったのかは、今は伏せておこう。
そうして何事も無く平和な一日が終わり、家へと帰宅した僕。
自室へと入り、制服を脱ぎ散らかしベッドへとダイブ。
ん?目が痒い…。
両目に痒みを感じ、指でこする。
あかんめっちゃ痒い。
少し擦った程度ではマシにならず、ベッドに座り激しく目を擦る僕。
涙で霞んだ視界…。
?!
ベッドに座る僕の真正面にあるクロ―ゼット。
その扉が少しだけ開いており、そこからこちらを覗く目…。
ヒッと小さな悲鳴を上げて体を仰け反らせる。
バンっ!
?!
僕の背後にある窓が音を立てる…。
窓の方を向きたい気持ちと、クロ―ゼットから視線を反らしたいけど、それも怖いから反らしたくないという複雑な気持ちが僕の中で葛藤している。
そして…。
僕は意を決して窓の方を振り返った。
?!
見なければ良かった…。
振り返った窓の外…。
そこには、両手を窓に張り付けニタニタと笑みを浮かべながら僕をみる老婆が…。
ワァ―!!
これには流石に耐えられず、僕は大声を張り上げた。
だが、老婆はそんな僕を嘲笑う様に、ニタァっと大きく口を開けて笑って見せる。
そして…その口から流れ落ちる赤黒い血…。
そこで僕の意識は途絶えた。
どれ位、時間が経ったのだろう。
階下から僕を呼ぶ母の声で目を覚ました僕。
時計を見ると19時。
何だか頭がボ―っとする…。
?!
そこで僕は気を失う前に起こった出来事を思い出す。
クロ―ゼット!窓!
首を素早く動かし、二つの場所を確認する僕。
クロ―ゼットの扉はちゃんと閉まっている…。
窓にも異常は無い…。
あれは何やったんやろ…?
僕は、まだはっきりとしない頭でそんな事を考えながら階下で待つ母の元へと向かう。
一階に降り、リビングの扉を開けるといい匂いが鼻に入り込んで来る。
よし!
カレーやで!
僕は大好物のカレーにテンションを上げ、自分の席へと腰をおろした。
台所でカレーを盛り付ける母の後ろ姿。
その母が、僕の元へカレーを運ぶ為、振り向いた。
ワァ―!!
僕は驚きの余り、椅子から転げ落ちた。
確かに母の後ろ姿だった…。
だが、こちらを振り返った母は僕の知っている母では無かった…。
それは窓の外にいたあの老婆…。
「ドウシタノ?
カレーハアナタノダイコウブツデショオオオオ〜!」
老婆はそう言いながらゆっくりと僕に迫ってくる。
なんで?
なんで?!
僕は恐怖で腰が抜けたのか上手く立つことが出来ない。
立とうとすれば転び、また立とうとすれば転び、中々この場から逃げ出せない…。
その間も老婆は少しずつ僕との距離を詰めてくる。
僕は必死に這うようにリビングから廊下に出ると、後ろを見ず、そのまま玄関へ向かう。
そして必死に手を伸ばしドアノブに手を掛けた時…。
「ドコイグノオオオオオオ!!」
僕の耳のすぐ横であの老婆の声が聞こえた。
ワァ―!!!
僕は恐怖に震えながらもそのまま転がる様に家を飛び出した。
家を出ると、不思議と老婆は追って来なかった。
何や…何がどうなってるんや?!
オカンは?ホンマのオカンはどこや?!
僕は立て続けに起こった不可解な現象にパニックを起こし、道端で一人大声で叫んでいた。
そうや…来夢…。
暫くパニックに陥っていた僕が少し落ち着きを取り戻した時、頭の中に来夢の顔が浮かんだ。
来夢やったら助けてくれるかも知れん…。
そう考えた僕の足は知らぬ間に来夢の元へと駆け出していた。
来夢!来夢!
心の中で何度も来夢の名前を叫ぶ僕。
少しでも早く来夢の元へ行きたい。
来夢に会えればきっと何とかしてくれる。
早く!早く!
だが、来夢の家まではまだ距離がある。
でも今はそんな事を言っている暇は無い。
必死に来夢の元へ向かう僕。
そんな僕の目の前に…。
作者かい
ハゲ〜ハゲ〜