真っ暗な先に小さな光が見えるや、その光は瞬く間に大きくなり、私を包み込みました。
気がつくと、全く知らない町に立っています。
「ここ、何処?」
辺りを見回す私の足下から声がします。
「何だ?いろいろデカくね?」
下を見ると、不思議そうにキョロキョロしている子供と目が合いました。
「何でアンタまでデカくなってんの?!」
「はとちゃん?!」
「アタシはA子だよ!」
は?どういうこと?そう言えば確かに、はとちゃんより少しだけ憎たらしい顔してる……。
想定外の状況に固まる私の後ろから声がします。。
「いやぁ……ビックリだねぇ」
振り返ると、見覚えのあるスラリとした女性が頭をポリポリしながらA子を見ていました。
「あなたは確か、沖縄で……」
「ソイツ、はとだよ」
「はとちゃん?!」
A子の一言に驚愕していると、女性はニッコリしながらピースして言います。
「はとでーす!」
ちょっと見ないうちに大きくなったねぇ……じゃないよ!どうなってんの?
「何だか分かんないけど、アタシとお姉ちゃんが入れ替わったみたい」
「何だ、入れ替わっただけか……」
だけって何よ?とんでもない事態じゃない!!
「どうやらここは、パラレルワールドみたいだよ?お姉ちゃん」
「パラレルワールド?」
「何ソレ?外国ってこと?」
外国ではないよ……A子はモノを知らなすぎだよ。
「パラレルワールドっていうのは、別の世界ってことだよ」
「二次元ってこと?」
今、次元の話はしてないでしょ……。
「つまりね、お姉ちゃんが二又の道で右に行くとするじゃない?これを今までの世界とすると、左に行った世界がパラレルワールドってことだよ」
「何だ、右か左の違いかぁ……大したことないじゃん」
うわぁ……説明するのめんどくさ……。
「そうだね。全然大したことじゃないね」
……はとちゃんも諦めたね。
見知らぬ道の真ん中で固まっていると、前方から見知った顔のJKが歩いて来ます。
「ちょ、アレ!ユッキーじゃない?」
子供姿のA子が指差したのは、確かに雪さんのようでした。
ただ、ちょっぴり雰囲気が違うというか、何だか怖そうに見えます。
「ユッキーって柄悪かったんだね……めちゃめちゃヤンキーじゃん」
そんなこと言っちゃダメだよ……人は見かけによらないっていうじゃない?
「何や?何、ウチにメンチ切っとんねん!」
うわっ!見かけによっちゃった!
「あらあら、この子ったら……スミマセン」
子供A子の視線に気づき、威嚇してくる雪さんの間に入ったはとちゃんこと、はとさんがA子をあやすように身を屈めて雪さんを見上げました。
「ほら、お姉ちゃんにごめんなさいは?」
はとさんに頭をガッチリとホールドされたA子は、ギリギリとぎこちない動きで頭を下げます。
これは無理矢理はとさんに頭を下げさせられてるね……。
「分かればえぇねん」
そう言い捨てて、雪さんが歩いて行きます。
その後ろ姿を見送った私達は、事態をある程度整理しました。
「雪さんがいるってことは、やっぱりパラレルワールドみたい」
「それも、『過去の』ね」
「ちょっと二人が何言ってんのか分かんない」
よし、A子は無視しよう。
「はとちゃん、いや、はとさん」
「いつも通りでいいよ」
「じゃあ、はとちゃん……今、私達がいるのは『雪さんに何かある前の世界』ってことでいいのかな?」
「流石はお姉ちゃん!その通り!!……でも、それだけじゃなく、もう一つ由々しきことがあるよ」
「えっ?何?」
屈託ない笑顔で言うはとさんが、私を指差して言いました。
「お姉ちゃんの身体がないんだ」
ファッ?!
「アンタ……気づいてなかったの?」
鼻をほじりながら私を見るA子。
「気づく訳ないじゃん!!」
すがるようにA子を掴もうとしましたが、両手がスルリとすり抜けてしまいます。
「どうしよう!!私。死んじゃったの?!」
『慌てる』なんて4文字じゃ表せないほど狼狽する私に、A子は鼻から摘出した何かをフッと吹き飛ばして言いました。
「アンタは元々、影薄いんだから別によくね?」
そっか!……ってなる訳ないでしょ!!
他人事のA子に、はとさんが言います。
「誰にも気づかれないって、結構ツラいんだよ?お姉ちゃん」
はとさん優しい!
エンジェルはとさんが私の頭に手を置くと、ジンワリと温かくなってきて、全身に温かさが行き伝わると、何とか体を取り戻すことができたようです。
「なんだよ……つまんないなぁ」
心から残念そうに言うA子に、思わずチョップしてしまいました。
「A子のバーカ!!ホント大っキライ!!」
「べ、別にいいもん!バーカバーカ!!」
何故か涙目のA子と一悶着していると、大人なはとさんが見かねて仲裁に入ってくれます。
「そんなことより、これからどうするか考えようよ……ねっ?」
確かにはとさんの言う通りなので、私達は一旦、矛先を納め、一時休戦としました。
「これから雪さんの身に何かが起こるんだから、それを阻止しなきゃだね」
「ユッキーに何が起こるの?」
「それは分からないけど……何かだよ」
またまた小競合う私達に、はとさんが言いました。
「まずは切っ掛けを知らないとね。何故、雪姉ちゃんが死んでしまうのか」
至極、もっともな意見に同意する私達に、はとさんが続けます。
「それを知るためには、雪姉ちゃんのことをもっと知っておかなくちゃならないね」
「よし!本人に訊こう!!」
待ちなさいよ!どうしてA子はそう短絡的なの?
「本人が答えてくれると思う?まずは周辺に聞き込みでしょ?」
「そうだね。取り敢えず、雪姉ちゃんの学校に行こう!」
はとさんがいてくれて本当に良かった……。
私はA子と二人じゃなかったことに、心の底から安堵しました。
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雪さんが来た道を逆に辿ると、いわゆる普通の高校がありました。
下校中の学生をやり過ごし、何人か校庭に見える学生の一人を捕まえて、話を訊くことにしました。
「雪?……あぁ、アネゴのことか」
雪さん……アネゴって呼ばれてたんだ。
「最近まではフツーにしとったんやけど、こないだツレが死んでもうてなぁ……それも自殺らしいで?それから様子がおかしなったんやわ」
「様子が変わったとは?」
「今までは世話焼きのオカンみたいやったんやけど、ここんトコは口数も減ったし、すぐにキレよるようになってん」
どうやら、友達の死が鍵みたいだ。
「まぁ、言うても俺が分かるのはそんくらいやな……後は、アイツに訊いたらえぇんちゃうか?」
「アイツ?」
話をしてくれたクラスメイトの男子が、校舎の二階から見下ろす女生徒を指差して言いました。
「アイツや、いっつもアネゴにくっついとる変わったヤツやねんけどな。確か……名前は双葉って言うたかなぁ……」
「双葉!?」
「そうそう!でもな、アイツ何もしゃべらへんねん……病気なんか人見知りなんかはよう知らんけどな。それよか、自分ら誰やねん!!」
えっ………と。
「アタシ達は雪の親戚なの。最近、雪の様子がおかしいのが心配でね。イジメにでもあってるんじゃないかと……」
「アネゴがイジメに?!ないない!そんなんしたら間違いなく殺されよんで?ソイツ」
思いの外、口の軽いクラスメイトのお陰で、雪さんのことが何となく分かってきました。
あとは、あの人を捕まえて話を訊けば謎は解けそうです。
私達は校舎の二階へ急ぎ、双葉さんがいた教室へ踏み込みました。
「アンタ、ユッキーに何したの?」
見た目がはとちゃんなA子が双葉さんに歩み寄ると、双葉さんはゆっくりと振り返って言います。
「私は雪を救ってあげたの……ただそれだけ」
「救ってあげた?」
すごく引っ掛かる言葉を放った双葉さんに、カチンときた私が問うと、双葉さんは嘲るように言いました。
「そう……雪を苦しみのスパイラルから解放させてあげたのよ……それを雪が望んだから」
「バカかアンタは!!」
人を食ったような双葉さんをA子が怒鳴りつけます。
「死んで救われる命なんかあるか!この大バカ野郎!!」
「私達は絶対に雪さんを死なせない!!」
噛みつかんばかりに詰め寄るA子と私を宥めるように、はとさんが間に立ちます。
「それが目的なの?死ねば全てから逃げられる……そう思ってるのね?」
「無になれば何もなくなる……苦しむことも悲しむことも」
はとさんの言葉に即答する双葉さんを、はとさんが憐れむように見つめました。
「そう……」
寂しそうにぽつりと呟いたはとさんは、私とA子を連れて、そのまま教室を後にしました。
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雪さんの高校を出た私達三人は、少し離れた空き地で今後の作戦を話し合います。
「アイツは死ぬことで何もかもリセットされると思ってる。それをどうにかしなきゃね」
「雪さんが命を絶とうとしないようにすれば、解決するんじゃないの?」
「それだけじゃダメだよ。考え方そのものを変えない限り、その時だけ助けても意味がないもの」
かなりの難題に、私は閉口してしまいました。
「まず手始めに……」
何か妙案を思いついたのか、A子がスックと立ち上がります。
「肉を食べてパワーつけよう!」
状況分かってるの?A子……。
「お姉ちゃん!いい加減にしなさいっ!」
A子の度重なる言動にたまりかねた はとさんが強めにたしなめました。
「いつもいつも肉、肉って……バカじゃないの?」
流石は常識人のはとさん!私もうんうん頷きます。
「せっかく大阪に来てるんだから、タコ焼き食べない手はないでしょ!?」
そっちかーい!!
こんなに緊張感のない状態で大丈夫なんだろうか……。
私はこの先への不安を禁じ得ませんでした。
「それよりさぁ……」
私はたくさんある不安の一つを口にします。
「どうやって元の世界に戻るの?」
私の疑問にA子が、さも当然のように答えました。
「んなもん、アイツを取っ捕まえりゃ大丈夫だよ」
「そうかも知れないけど、ちゃんと元の世界に戻してくれるのかなぁ……」
基本的に疑り深い私に、A子が薄ら笑いを浮かべて言います。
「アンタはホントに心配性だねぇ……顔がアンパンマンになるほどビンタすれば、大概のヤツは言うこと聞くんだよ?」
バイオレンスは絶対に止めなさいよ!
「お姉ちゃん、元の世界に戻るのは解決してから考えるとして、まずは拠点を作るのが先じゃない?」
「「拠点?」」
はとさんが人差し指を立てながら言います。
「今日、明日に何か起こるとは限らないでしょ?となれば、私達は数日はここにいなくちゃならないかも知れないじゃない?」
はとさんはこんな時でも冷静なんだね……見習わなきゃ……。
「そんなの野宿でいいじゃん」
「ヤだよ!野宿なんて!!」
「じゃあ、キャンプ」
「レジャーっぽく言い換えただけじゃん!!」
「これだから最近の若いもんは……」
私に呆れたような蔑んだ目を向けるA子でしたが、今はA子の方が圧倒的に若い姿だし、そもそも同い年です。
「雪姉ちゃんの家が近い所で張り込むのがいいだろうね。何か動きがあってもすぐに対応できるから」
ここは、一理も二理もあることをサラリと言うはとさんの意見に賛同するしかありません。
「そこでなんだけど」
はとさんは、何処からか大きめの紙を取り出して、地図を描き始めました。
初めての町にもかかわらず、とても詳細で、何よりも絵が上手いのにビックリします。
「はと、何でそんなに絵が上手いの?」
「え?暇な時に美大へ行ってるから……タダだし」
「美大に通ってたの?はとちゃん!?」
「うん。お姉ちゃんの家でお絵描きしてた時に、絵に目覚めたんだ」
衝撃の事実に言葉もありませんでした。
「それでね、ここが雪姉ちゃんの家で、ここが学校でしょ?そんで、今いる場所がここなのね」
はとさんが地図を指差しながら説明してくれますが、話があまり入ってきません。
「……で、ここに空き家があるんだけど、ここなんてどうかな?」
へ、へぇ~……。
「雨風がしのげりゃ何処でもいいよ」
「オバケは出ない?」
「アンタ、アタシらを目の前にして要らない心配するんじゃないよ!!」
そうだったね……オバケ以上の存在がいるのを忘れてたよ。
それでも心配な私は、一応その物件を見せてもらい、問題なさそうなので、少しの間だけ間借りすることに。
この日から、私達三人は雪さん救出のために他所様の家で張り込むことにしました。
それが、まさかあんな展開になるとは、この時は予想すらできなかったんですが、それはまた別の話です。
作者ろっこめ
小ネタを突っ込み過ぎて、思った以上に長くなりそうなので、ここでリリースさせていただきます。
グダグダ長いのは苦痛ですもんね。
次こそ後編として終わらせたいと思いますので、どうかご容赦ください。
三部作とか、何か響きがカッコいい……。
♪(/ω\*)
さて、どうまとめれば良いのやら……。