「センパイ!千尋センパァイ!!」
「どうしたの?ミシェルさん。そんなアメリカ人みたいな顔をして」
「それは元からだべ……そんなことより、大変なんだ!!」
「何が?」
「オラのレポートができてねぇんだ!!一行も!!」
「一行も?!気は確かなの?」
「いや、オラはもうダメだ……田舎さ帰っておっ父の畑さ手伝うしかねぇべさ……」
「まぁ、そう自棄にならないで。手伝ってあげるから」
「さっすがセンパイ!頼りになるぅ♪」
「で、テーマは何?」
「童謡なんす」
「なかなかいいテーマね」
「だべ?童謡には、いろんな曰くさあるっけね」
「例えば?」
「有名なのは、『かごめかごめ』は流産した女の唄だとか、徳川埋蔵金の在り処を示してるだとか」
「埋蔵金?ないない!」
「千尋センパイ、今、全国のハローバイバイの関さんを敵に回したべ……」
「それ、一人しかいなくない?」
「でも、徳川埋蔵金の在り処については頷ける所がいっぱいあるべ?」
「じゃあ、ミシェルさん。埋蔵金って何のために隠したの?」
「そりゃあ、誰かに盗られないようにするためと、いざって時に使えるようにするためだべね」
「幕府は何度か飢饉が起きたりとか、財政が割りと涸渇したことが度々あったけど、何で埋蔵金を掘り起こさなかったの?」
「東照宮は壊せねぇべよ?」
「そうよね。とすると、いざって時に使えないわね」
「あっ……」
「確かに、埋蔵金の噂はあった。でも、それはいざって時に使えるようにするためじゃないと思うの……何かあった時、幕府には莫大な資金があると世間に思わせるためだったんじゃないかな?」
「金持ちのプライドみたいなモンだべか」
「そういう見方もあるけど、幕府に反旗を翻そうとする輩への牽制の意味合いが強かったのかもね」
「なるほど!じゃあ、流産した女の唄って言うのは?」
「それについては、歌詞を繙いていきましょうか」
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かごめかごめの歌詞
かごめかごめ
籠の中の鳥は
いついつ出やる
夜明けの晩に
鶴と亀が滑った
後ろの正面 誰
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「だったわよね?」
「んだ!」
「まず、『かごめ』の部分からいきましょうか」
「おねげぇすます」
「かごめは籠女、という説が有力よね。籠女は遊女だとか妊娠している女性を意味するとか」
「都市伝説では定番ですっけね」
「でも、唄は子供の遊びで歌われてるわよね?」
「んだ!オラも子供の頃、やったことあります」
「どんな風に遊んだ?」
「目隠しした子を中心に、何人かの子が歌いながら周りを回って、後ろにきた子さ当てる遊びです」
「そうね。一人の子を複数の子達が囲んでる……それが『かごめ』の正体よ」
「は?」
「つまり、『囲め囲め』が転じたのが『かごめかごめ』なんじゃないかと私は思うの」
「そうすると、次の『籠の中の鳥は』は?」
「囲まれた子を意味してる……囲まれた子を『いついつ出やる』ってね」
「その意味は確か、『いつになったら出られるのか』でしたっけね」
「いつ出してあげようかな……の方が意味としては通じるかも。そこから続くのが、『夜明けの晩に』ね」
「夜明けの晩って言い方も、朝なんだか、夜なんだか、さっぱりわがらねな」
「夜明けの晩……言い換えてみると、『夜明け』の『番』に……なんじゃないかな?」
「夜明けの番?それも意味がわがらねぇ」
「夜明けっていうのは、朝。要は『朝まで寝ないで』ということで、捕らえた子を見張っているのが、『番』なんだと思う。遊びとしては、目隠しが取れるまで見張っていることとかって意味に取れないかな?」
「ほほぅ!目隠ししてだら暗いから、それは夜だってことか!」
「そして、『鶴と亀が滑った』に続く」
「鶴と亀が滑るって縁起悪ぃべね」
「鶴と亀は縁起に関係するけれど、ツルッと瓶が滑るのなら縁起は関係ないわよね」
「でも、それだと意味が繋がらねくねすか?」
「そうでもないわよ?番(見張り)をしてたら、誰かが瓶を落としてしまった……」
「そういう見方は想像してねがったっすわ」
「そして、最後に『後ろの正面 誰』で結ぶ」
「それが最大の謎なんだべ……後ろに正面なんてねぇもん」
「正面だと辻褄は合わないけど。『背負う面』ならどう?」
「背負う面?」
「そう。落としてしまった瓶を後ろに隠しているのは、誰だ?って訊かれてるとしたら?」
「おぉう!!それなら遊びと繋がるべ!」
「まぁ、一つの仮説だけどね」
「いや、割りと面白い解釈だど思います」
「割りと……ね」
「あ……いや、そういう意味ではねくて」
「いいのよ別に。考え方は人それぞれなんだから」
「独自の見解ってヤツすね」
「私は子供が遊ぶのに曰くありげな唄を歌わせたくないもの……子供が可哀想でしょ?そんな気味の悪い唄を歌いながら遊ぶなんて」
「千尋センパイは優しいっすなぁ」
「そんなことないよ……それより、レポートの〆切に間に合うように祈ってるわね」
「……レポートの〆切、昨日までだった……」
「ミシェルさん……野菜採れたら送ってね」
「そんなぁ!見捨てねぇでぐだせぇよセンパイ!!後生すから!!」
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迎里さんの仮説
かごめ かごめ
(囲め 囲め)
籠の中の鳥は
(捕まえた子は)
いついつ出やる
(いつ出してやろうかな)
夜明けの晩に
(寝ずの番をしてたら)
鶴と亀が滑った
(ツルッと瓶を落とした)
後ろの正面 誰
(瓶を後ろに隠しているのは、誰だ)
作者ろっこめ
大きな一仕事終えて、リハビリがてら会話メインの話を実験的に書いてみました。
登場人物は、分かる方には分かると思いますが、A子シリーズの中から二人、出ていただいております。
怖い話を怖くなくする話ですので、ご不快に感じられた方には、この場をお借りしてお詫び申し上げます。