これは、私がパン屋の配達員をしていた時の話です。
パン屋の仕事は、とにかく朝が早い、まだ暗い早朝3時には起床し、眠い目をこすりながら配達用のトラックにパンを積み込み、
決められたルートを、各店がオープンするまでに届けるのが、私の業務内容でした。
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私が担当する配達ルートは、駅周辺をまわり、その後、山に続く田舎の一本道を配達するルートでした。
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凍てつく寒い12月の初旬でした。
私は、配送トラックを走らせ、山道沿いにある小さなお店に到着しました。
私はいつも停車する道路の路肩にトラックを寄せ、トラックの後ろにまわり、ハッチバック開けパンを運ぶ。
いつものように淡々と配達を行っていました。
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それは突然でした、店に配達を終えて戻ろうとした時に、駐車してある配送トラックから何やらゴソゴソと音が聞こえる。
「ん?、サルか?」
初めはそう思った。
真冬の3時すぎ、しかも人の気配など少しも無い山道なのだ、腹を空かせたサルが山から降りて来てトラックを漁っても不思議では無い、そう思った。
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サルなら脅かして追い払おうと、こっそりとトラックの荷台に近づいた。
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しかし、そこには想像とは全く違うものが居た。
そこにはピンクの透けた、ネグリジェを着た、ガリガリの老婆?らしき人がいたのだ!
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ま、マジか!、な、何なんだ?
気持ち悪っ
明らかに異様な老婆に、追い払うどころか、一瞬ギョッとなって固まってしまった。
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その老婆はこちらに背を向けて、一心不乱に何かをしている。
こちらには気づいていない。
息をひそめ、しばらく観察してみる。
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その老婆は、長く濡れた黒髪で、足元は素足だった、真冬の夜中には似つかわしくない、あり得ない服装だ。
その格好で、何やらぶつぶつと呟きながら、配送トラックの荷台に目がけ、どこからか持って来たであろう、段ボールの切れ端や、ゴミ袋を、放り込んでいるではないか!
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何なんだ、コイツ!
そう思った時だった。
目の前の老婆が、ピタリと動きを止め、ゆっくりとこちらに振り向いた。
shake
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やばい!
そう思うと同時に運転席に向かって走り出していた。
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トラックに飛び乗り、ドアを閉めると、ドアミラーに老婆が映る。
お、追ってきた!
急いでトラックを走らせるが、出だしが遅い!
ダメだ、追いつかれる!
老婆はミラー越しにドンドン迫ってくる。
もうダメだ!
慌てて、ドアロックを閉めようと、一瞬目を離し、ミラーをふたたび見る。
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すると、そこに老婆の姿は無く、消えていた。
心臓はまだドクドクしている。
少し車を走らせた所で、気持ちが落ちついてくる。
少し冷静になると、ハッチバックが開けっぱなしな事を思いだした。
積荷の商品が落ちて居ないか気になってくる。
しばらく走り、もう大丈夫と言う所で、車を降りて、ハッチバックを確認してみる。
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❔❔❔
一瞬理解出来なかったが、トラックのハッチバックはなぜか閉まっていました。
なぜ?、間違いなく、開けっ放しだったはずだった。
もう訳がわからなくなった。
それにもしも、荷台の中にあの老婆が居たらと思うと怖くて。
そのまま配達は取りやめて、センターに戻る事にした。
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センターに戻り、主任に事情を説明すると。
主任は表情をこわばらせ
「あー、やっぱりか」
そう言ってうつむいて考えている。
え?
な、何か知ってるの?
私は、この微妙な空気に、どうも腑に落ちない気持ちになったが
とにかく、ハッチバックを開けてみる事になった。
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おそるおそる、ゆっくりと開ける。
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、、、そこには老婆はいなかった。
代わりに、大量のダンボールや、ゴミ袋が散らばっていただけであった。
それにしても、あの主任の態度
おそらくあの老婆が見られるのは、これが初めてでは無かったのであろう。
あっさりこちらの意見も通り、ルート変更してもらった。
しばらくして結局その店の配達は、お昼からの2便のみとなり、それからはあの老婆を目撃する事はなくなったらしい。
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あの老婆はいったい何だったのだろうか。
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END
作者家川徳康