今回のお話は怖いというより、不思議なお話をしたいと思います。
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「おい。お前そこで何をしている」
私は声がする方を向いた。どうやら私よりは若い感じの男の子だ。
「私はお参りに来ているだけですよ。ここは神社ですから」私はにこりと笑い、問いに答えた。男の子はふん、と一言。それっきり黙ってしまった。だが、近くにいるようだったので私は何か御用ですか?と問いかけた。
「用はない」と一言だけ返してきた。少しぶっきらぼうな話し方ではあるが、私は嫌いになれなかった。普通の人とは違う優しい感じがしたからだ。
「そうですか。では、私は帰ります。また会えるといいですね」そう言って私は神社を後にした。
これがあの子との出会いであった。
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私はいつも神社にお参りに来ている。私はあの神社に小さいころから行っている為、道もよく覚えている。何より雰囲気がとても落ち着くので私はとても好きなのだ。
木々が風にそよぐ音、虫の声、鳥の声、どれをとっても私にはとても最高の空間であった。
「また来たのか」後ろから砂利を踏む音と一緒に聞こえてきた声。
「はい。ここは私にとって落ち着く場所なので」声をかけてきたのは以前会った男の子だ。
私は軽く挨拶をし、そのまま静かに周りの音を聴き入っていた。
「…おい、あんたここが好きか」突然男の子は問いかけてきた。
「ええ、とても。大好きな所ですよ」そう答えると男の子はそうか、と一言いいそのまま黙ってしまった。
ここは他に誰も来ない。ずいぶん前から廃れてきたのだ。毎日来ていても誰とも会う事はなかった。だからかもしれない、私が此処を毎日訪れる理由。本当に異世界に居るかのような感覚だった。外界からは離れているような、そんな感覚になるのだ。
周りの人間の視線はとても痛いものだから、苦しくなる。それを癒してくれる世界だ。
男の子はその一部に溶け込むように同じく落ち着く存在だった。会ってまだ間もないというのにとても親近感が湧いた。
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「そろそろ帰りますね。貴方も帰った方がいいわよ」そう言って帰ろうとしたとき男の子が一言、送っていくと言った。
私は悪いのでいいですよ、と遠慮したが「五月蠅い。いいから送る」と言って私の手を取った。一瞬、驚いたがこの子であれば信用できると不思議に思ったので、そのまま一緒に帰った。
家に着いたので、少し玄関先で待ってもらいお礼にお菓子やいくつか果物を渡した。
要らないと断られたが今度は私が無理矢理持たせた。男の子は小さい声で「有難う」と一言言って去っていった。
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そうして私たちは時々あの神社で会って、他愛もない話をして、男の子と一緒に帰って、その度お土産を持たせていた。一度夕飯に誘ったが、それだけはどうしても駄目だと断られてしまった。
そんな生活を続けているうちに私はその子が好きになっていった。
誰かを好きになるというのが初めてなので所謂初恋というものだろうか。
その子に会えるのをとても楽しみにしていた。
だが、男の子は少しずつ此処に来る頻度が減ってきていた。やはり男の子なので、友達と一緒にどこか遊んだりしているのだろうと、少し寂しくはあったが次会えるのを心待ちにしていた。そんなある日、男の子が来た。一週間振りだったので私はとても嬉しくなって大きく手を振っていた。男の子はクスクスと笑いながら私に話しかけてきた。
「元気だなぁ。これからも元気で居てくれな」
私は少しその言葉に変な感じがした。だが、会えた嬉しさから元気よく返事をし、また他愛もない話をしていた。
だが、そんな日も長くは続かない。私はある日近所の人が話しているある事を聞いたからだ。
「ねぇ、あの神社、ついに取り壊されるって。やっぱりあれだけ人がこないとやっていけないからかしらね。すごく小さい神社だしねぇ。みんな近くにある大きい神社に行ってしまうものねぇ」
取り壊し?私は耳を疑った。私の唯一の空間がなくなる。あの子とは?どうしたらいいの?
そんな不安を持ちながら私はあの神社に向かった。
すると男の子は既に居た。
「どうしたんだ、そんな顔して」男の子は開口一番そう言った。私はそんなに顔に出ているのだろうか、と思ったが男の子の声を聞いたと同時に涙が出てきた。男の子は驚いてどうしようと慌てている。だが、私の背中を優しくさすりながら泣いている理由を尋ねてきた。
「ここ、なくなるって、それがとても悲しくて、貴方と会えなくなるんじゃ、ってそう思ったら悲しくて…」私は涙を拭きながら男の子に言った。
男の子はそっか、と言った。そうして私が泣き止む迄ただ優しく背中をさすってくれていた。
私はすっかり泣き止むと男の子は少し安心した様にポンと背中を軽く叩いた。
「取り壊し、知っているんだ。だからさ少しお願いしたい事があるんだ」そう言って男の子は私に初めてお願いをした。それは取り壊し作業が始まる前日の夜、ここに来てほしいと。
私は初めて男の子から頼まれた事が嬉しくて、お安い御用よ。と言った。
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「ねぇ、来たよ」
「待ってたよ。来てくれて有難う」私は勿論よ、と言った。
辺りはシンと静まり返って昼間聴いていた鳥の声等が無く全くの別世界だった。
「あのな、信じてもらえないかもしれないが話したい事があるんだ。聞いてくれ」
男の子は改まった感じでとても真剣な声でそう言った。私もその雰囲気に飲まれ、うん。と返事をした。
「実は、俺は生きてる人間じゃない。こんな話いきなり驚くだろうけど、あんたには知っててほしいと思ったんだ。あんたにだけは、どうしても本当の自分を知ってほしいと思ったんだ。今まで怖くて言えなかった。今こうして打ち明けたのは、今日でお別れだからだ。ごめんな」
男の子の話を聞いて私はなんとなくわかっていた。一番最初に手を取ってくれた時、とても氷のような冷たさだった。だけど、それでも良かった。私はこの子を好きになった。それがどんな存在であっても。
「俺も、ここが好きでよく来ていた。とても落ち着くから。あんたと一緒だ」
「うん、一緒」私はまた涙を流していた。お別れというのがあまりにも辛かった。これかもずっと一緒だとなぜか私はそう思っていた。
「ごめんな。あと、一つだけ、プレゼントを用意した。お別れのプレゼント。受け取ってくれな」そういて男の子は私に抱き着いた。その瞬間私は意識が飛んだがすぐに意識を取り戻すと、私は目を疑った。周りの木にライラックの花が咲いていた。とても美しく綺麗だった。夜なのに不思議と光っている様に見えたので花がとてもよく見えた。
「これが、プレゼント。あんたと会えて良かった。有難うな」どこからか男の子の声がした。
私は泣きながら有難うと好きだよと伝えた。私はそうしてずっとライラックの花を目に焼き付けながら涙を流していた。
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目を覚ますと私はいつもの寝室に居た。
夢?でも私はあの場所に行ったはず、と今の状況が飲めずにいると、頭から落ちてきたものがあった。ライラックの花びらだった。やっぱり、あそこには行ったんだと確信した。だが帰ってきた記憶がなかった。
それよりももうあの子と会えないという悲しみがまた襲ってきた事で嗚咽がこみあげてきた。
あの子がくれた最初で最後のプレゼント、私に見えるという事を教えてくれた。あの子が私の目になってくれたのだ。
作者アリー
盲目の少女のお話。フィクションです。
怖い要素なくてすみません・・・とある曲を聴いていてどうしても書きたくなったのです。
タイトルは珍味様とむぅ様とまー様、御三方のご提案を合体させました!
どれも選び難かったので…!
ざわわ様が行っていた題名を求めるのを真似させて頂きました・・・!すみません!!
因みにライラックの花言葉、出会いの喜びや愛の芽生えというのがあるんです。
ライラックって基本花びらが四つなんですが、たまに五つのがあるんですが、それは見つけたらいいことあるだったか、何とか。
誤字脱字あったら教えて頂けると助かります・・・!