「う"わ"あぁぁぁ〜!!!」
頭の中にあの不気味な女の顔が浮かんだ僕は、叫び声を上げ飛び起きた。
そしてすぐにあの女を探し、辺りを見回す僕。
だが、あの女の姿は何処にもない…。
代わりに僕を心配そうな表情で見つめる来夢が横にいた。
あの公園で気を失った筈の僕は、いつの間にか来夢の家へと運ばれ、寝かされていたのだった。
「来夢?!
あの女は?!
ゆ…夢か?!俺…また夢みたんかな?!」
自分の身に起こった事が夢か現実か理解出来ず、取り乱す僕。
?!
「うわぁ!
左目…左目が見えへん!
来夢!来夢!」
僕は自分の左目が暗闇に包まれ、何も見えない事に気付き一層取り乱した。
「カイ!
落ち着け!!
お前の左目は大丈夫だ。
だから少し落ち着け!」
騒ぎ立てる僕を、来夢が力強い口調で宥める。
そんな来夢の声に、ハァハァと呼吸を荒げながらも何とか落ち着きを取り戻していく僕。
そんな僕を見て、来夢はゆっくりと話し出した。
「カイ…。
お前が見たモノは…残念ながら夢じゃない…。
僕も夢であって欲しいけど、あれは現実だ…。
効果があるかどうかは分からないけど、お前の左目には札を貼り付けて僕と同じ様に眼帯で隠してある…。」
そう言って来夢は悲しそうな表情を見せた。
「そ…そか…。
やっぱりな…。
そうか…現実か…。」
分かっていた…。
僕にはあれが夢じゃない事は分かっていた…。
でも…何処かで夢であって欲しいという期待があっただけ…。
「で?
あの女…は?」
僕の質問に来夢はゆっくりと自分の左目を指差した。
そっか…。
来夢が助けてくれたんやな…。
まさかここまで自分が巻き込まれるとは思っていなかった僕は、今すぐに逃げ出したい気持ちでいっぱいだったが、来夢と共に闘うと誓った事、そして僕自身もこの現実からは逃げられないと覚悟を決め、あの公園で感じた自分の思いを打ち明けた。
「来夢?
ちょっと変な事言うけど笑うなよ?
俺の左目ってな…人の憎しみとか恨む気持ちを餌みたいにして、あの女みたいな化け物を生み出すんちゃうかな?って思うねん。
あの時、あのサラリーマンの上司を恨む気持ちが強まった瞬間にこの左目が反応した様に思うねん…。
いや…やっぱりそんなんないか?
考えすぎやな。」
僕は自分で発言した突拍子もない話をすぐに否定した。
だが、来夢はそんな僕の話を聞き、顔を青くした。
「カイ…。
お前もそう感じたのか…。」
?!
お前も?お前もって事は来夢もおんなじ事思ってたんか?!
僕は思いもしなかった来夢の返答に目を丸くした。
「お前の左目から出て来たアレな?
もの凄く怨みが強かったんだ…。
あれはただの幽霊なんかじゃない…。
人の怨みその物が形を持ち、具現化されたモノ…。
お前が言った通り、お前の左目の力は恐らく邪念を形にする力…。」
じゃ…邪念?!
具現化?!
俺の考えがあってる?!
でも…それがホンマやとしたら…。
「ら…来夢…。
もし…もし俺らの考えが正しかったら…。
俺…一歩も外なんか出れへんよな…?」
人という生き物程、邪念に満ちた生物は存在しない。
それを同じ人として、良く理解していた僕は自分の行く末が全く見えなくなってしまった。
だが、落胆する僕に対して来夢は更に驚きの真実を語り始めた。
「カイ?
僕達は、もう逃げられない…。
何が起こっても前へ進むしかない。
だから言うよ?
しっかり聞いてくれ。」
来夢は拒む事を許さぬといった真剣な眼差しで僕をみた。
「い…今更ビビるかい!
ドンと来いや!」
僕は真剣な表情の来夢に対して、こう息巻いて見せたが、勿論、嘘である。
「僕はずっと疑問に感じていた事があるんだ…。
それは僕のこの両目。
この世の者では無いモノを見る目とソレラを吸い込んでしまう目。
どちらも間違い無く、お護りさんの力によってもたらされた物。
でも何かおかしいとは思わないか?」
来夢は僕に問いかけたが、僕には何がおかしいのか全く検討がつかない。
「この両目は、謂わばお護りさんから受けた呪いによる物だろ?
だとするなら、どう考えてもおかしいんだよ。
確かにこの両目のせいで僕は、人と関わりを持たない様に、隠れる様に過ごさなければならなくなった。
でも…それだけなんだよ。
この両目を持った事によって普段の生活の中で他に支障はないし、僕の命を脅かす訳でもない。
分かるか?
呪いと呼ぶには余りに軽いとは感じないか?」
確かに…。
勿論、この両目のせいで来夢は肩身の狭い思いをして来たかも知れない。
でも、言われて見れば確かにそれだけだ…。
「だろ?
どう考えても軽いだろ?
で…。
ここからが本題なんだけど…。
これはあくまでも僕の仮説だよ?
今まで何十年…いや、何百年なのかな?
お護りさんがウチ以外で、しかも僕達一族以外に見えるなんて事は一度も無かった。
それは恐らく、お護りさんの体に貼り付いた札と注連縄が関係していると思うんだ。
あれによって、お護りさんは力を封じられ、何処にも行けなかったんじゃ無いかと思う。」
「いや、それやったらおかしいやん?
お護りさんには今も札と注連縄ついてたで?
俺見たし、間違い無い。」
そう。
僕が見たお護りさんには、確かに二枚の顔に貼られた札と体に巻き付けられた注連縄があった。
「多分…僕の左目が関係してる…。
さっき言っただろ?
呪いにしては軽過ぎるって。
でも良く考えて見てくれ。
僕には、この両目以外に特別な力は何も無い。
自分の力だけで化け物を封じる事なんてとても出来やしないんだ。
じゃあ、僕の左目に吸い込まれた化け物達は何処へ行った?」
来夢の左目に吸い込まれた化け物達…。
…………………………。
?!
「ま、まさか来夢?!」
僕の頭に浮かんだ一つの可能性…。
だが、それは絶対に事実であってはならない最悪の可能性。
「あぁ…。
恐らく僕の左目に吸い込まれた化け物達の向かう先はお護りさん…。
お護りさんはそうやって化け物達を吸収し、徐々に力を取り戻して行ったんだと思う…。
だからお前の家に少しとは言え姿を現せたんだと思う。
でも、僕が吸収する位じゃ完全に解放されるまでには、途方も無い時間がかかってしまう。
だから僕と接触した人間に、この世の者では無いモノを見る力を与え、試したんじゃないかな…?
でも、今まではすぐに僕の事を気味悪がって皆離れて行ってしまった。
でも…お前は違った…。
僕の全てを理解した上で、僕と一緒にいる事を選んだ。
だからお護りさんはカイ…お前にその力を…。」
?!
「ちょっ、ちょっと待て来夢!
それってあれか?
俺に化け物を生まして、お前に吸収さして、それをお護りさんが食うって事か?!!」
僕は来夢の話しに頭が混乱していた。
今の話が本当なら、僕達は最悪の組み合わせになってしまう。
二人が行動を共にすれば共にするほどお護りさんの力が解放されていく。
「あ…あかん来夢!
俺ら一緒にいたらあかん!
俺帰るわ!」
そう言いながら、その場を立ち去ろうとした僕を来夢が引き留める。
「駄目なんだよ…。
言ったろ?
もう逃げられないって…。」
「アホかお前!
逃げるも何も、俺らが一緒にいたらお護りさんの封印が解かれてまうやんけ!
ちょっとでも一緒にいいひん方がええに決まってるやろが!」
「だから駄目なんだよ!!
お護りさんが試したのは僕達の絆…。
だから…。
だからお前には生み出す力を与えはしたけど、ソレを払う力を与え無かったんだよ!
僕達が離れてしまえば、払う力を持たないお前は間違い無く、自らが生み出したモノに殺されてしまう…。
お護りさんは全て計算済みって訳なんだよ…。」
?!
お護りさんは俺らが離れられへん様に、わざと相反する力を与えた…。
僕達二人は、余りに衝撃的な事実に言葉を失いそのまま黙り込んでしまった。
作者かい
どうすんの?!Σ(゜Д゜)
これどうすんの?!