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都市伝説 【三題怪談2】

大阪府立 南茶羅高等学校━━。

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「なぁ!あのウワサ知っとる?」

夏休み中の夏期講習の授業が終わり、帰り支度をしている時、少し茶色かがったロングの女子が、席の前に座っていた真面目そうな黒髪ショートの女子に話しかけた。

「何が?」

話しかけられた黒ショートが振り向くと、ニヤニヤしている茶髪ロングに訊く。

「知らんの?」

「だから、何がよ?主語もあらへんのに分かるわけないやろ?」

ヘラヘラする茶髪に、黒ショートは少しイラッとして語気強めに返した。

「そんな怒らんでもえぇやん。せっかくオモロい話したろ思てたのに」

「どうせまた、しょーもない話やろ?」

黒ショートが面倒臭そうに言うと、茶髪はぷぅっと頬を膨らませて眉を釣り上げる。

「そんなん言うんやったら、教えてやらへんわ!」

拗ねる茶髪に、黒ショートは「あっそ」と素っ気なく返して席を立つ。

「あ!ウソウソ!聞いてーなぁ……あんたのそういうトコ、嫌いやないで?」

「アンタにそう言われると……何でやろ?全然嬉しないわ」

黒ショートの切り返しの速さに、茶髪はゲラゲラ笑ってから、急に神妙な顔になる。

「あんた、『アオイさん』って知ってる?」

「何処の?」

話の頭からチャチャを入れる黒ショートを、茶髪は怒る訳でもなく続ける。

「先輩から聞いてんけどな。ガッコの近くに廃病院あるやん?」

「あぁ……あるなぁ」

「そこにな、アオイさんって妊婦さんが入院しててん」

「病院潰れてんのに?」

流石に二発目のチャチャはスルー出来なかったのか、茶髪がマジな感じで少しキレた。

「アホ!潰れる前の話に決まってるやろ?バカなん?」

「アホはエェけど、バカはアカン!!」

「黙って聞きぃや……ほんでな、そのアオイさんっていうのが可哀想やねん。出産まであと少しって時に、旦那の不倫相手に階段から落っことされてな……子供が流れてもうたんやて」

茶髪がそれなりの雰囲気を醸し出しつつ話しているのに、黒ショートはあんまり興味無さそうにすかさず横槍を入れる。

「で、その不倫相手をぶち殺したんやな?」

「ちゃうって!ちょ、ホンマに真面目に聞いて」

いつもの茶髪と違う空気に、黒ショートはばつ悪そうに頭を下げた。

「ごめん」

「んでな、それが原因でアオイさんは子供が出来んくなったんよ……それから、トメにイビられてな……心を病んだアオイさんは姿を消してもうたんやて」

そこまで聞いた黒ショートは、茶髪に疑問を投げかける。

「クソ旦那と腐れプリンは?」

首を傾げる黒ショートに、待ってましたとばかりに茶髪が答える。

「アオイさんは、そんなクソでも旦那を愛してたらしくてな。虐げられても文句一つ言わんかったんやて」

「はぁ?アタシなら慰謝料ガッツリ取って、生き地獄味わわせたるけどな」

「せやろ?それからなんやけど、この話を聞いた女は、アオイさんからメールが来るんやて!『私の赤ちゃんを殺したのはお前かーー!!』って」

茶髪の迫真の演技を、黒ショートは鼻で笑う。

「あほくさ……大体、何でメールやねん。顔見たら分かる話やろ?」

茶髪の渾身の怪談も黒ショートには通じず、呆れ顔で帰り支度をし始める。

「アネゴも聞いたやろ?こんな話、信じれるか?」

黒ショートが後ろの窓際にいた少しガラの悪そうな女子に話題を振ると、下敷きで涼を取りながらアネゴが言う。

「は?どうせ、どっかのチェーンメールの創作怪談やろ?そんなん怖ぁてJKが務まるかぃ!!」

「ほな、アネゴは何が怖いん?」

思ったよりウケずに悔しそうな茶髪がアネゴに訊くと、アネゴは深刻そうな面持ちでポツリと呟く。

「次のテストや」

アネゴの答えに二人は爆笑して同意する。

「ホンマそれ!」

「流石はアネゴやわ。勝たれへん」

それから少しくだらない話をしてから、三人はそれぞれの帰路に着いた。

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その夜、黒ショートが受験に向けて勉強していると、携帯の着信音が鳴った。

時刻はもうすぐ午前2時を回ろうとしている。

こんな時間に誰や?

黒ショートは携帯に手を伸ばし、確認のためパカッと開いた。

メール着信1件を知らせるアイコンにカーソルを合わせ、メールを開く。

title『無題』

本文『私の赤ちゃんを殺したのはお前か?』

その文面を見て、黒ショートはすぐに犯人に思い当たった。

「あのボケ……こんな夜中にアホなことしくさって……」

頭に来た黒ショートは、折り返し茶髪に電話する。

長い呼び出しの後、低い声の茶髪が電話に出た。

「何よ……こんな時間に」

寝起きのような声の茶髪に、黒ショートが怒りをぶちまける。

「何よ、ちゃうがな!変なメール寄越しやがって!!エェ加減にしーや!?」

怒髪天の黒ショートに、呑気な声で茶髪が返す。

「メール?そんなん知らんやん……せっかくえぇ夢見てたのに、そないにいきなりキレられても……」

茶髪のローテンションで、黒ショートも少し冷静さを取り戻し、メールをもう一度確認する。

よく見ると、送信元のメールアドレスは知らないアドレスだった。

「いや、アンタかと思たんやけど違たみたいや……起こしてゴメンな」

素直に謝る黒ショートに、茶髪が眠たげな声で訊き返す。

「何なん……メールて」

徐々に覚醒し始めた茶髪がキレた理由を問うと、黒ショートは自嘲気味に答えた。

「いやな……アンタが言うてたアオイさんやったっけ?その文面のメールが来たんよ」

「またまたぁ~……あんなんウソやって!あたしも信じてた訳ちゃうで?」

「せやけどホンマに来たんやもん」

「そのメール送れる?」

「エェよ。すぐ送るわ」

そう言って電話を切った直後、茶髪にメールを送ると、すぐに茶髪から電話が鳴った。

「今、メール見たけどイタズラやろ?」

「せやけど、他に誰か送るヤツなんておる?」

「一人おるやん!話聞いてた人が」

「アネゴ?まさかぁ……ほな、あんた聞いてみてよ」

「そんなんムリに決まってるやろ?よぅせんわ……十代で死にたないもん」

声でも茶髪が震えているのが分かり、黒ショートは苦笑混じりに言う。

「せやんなぁ……」

時間も時間なので、そろそろ電話を切ろうとする黒ショートに、茶髪は少し曇りのある声で呟く。

「実はあの話には続きがあってな……」

「何よ?」

事が事だけに黒ショートが食いついた。

「アオイさんからメールが来たら、三日間はアオイさんにつけ回されるらしいねやんか?」

「いや、知らんし」

「そらそうやねんけど、その三日目の晩にアオイさんが目の前に現れて、殺されるらしいねん」

「ようあるオチやな」

「ホンマやな」

真夜中に笑いあって少し気が紛れた黒ショートは、茶髪に「ありがとな」とお礼を言うと、茶髪は照れ臭そうに「えぇよ」と返した。

「おやすみ」

「うん……今夜こそキムタクと結婚したんねん」

「アホ!夢でもアンタにゃムリやで」

「夢くらい好きにさして!」

「勝手にせぇや……ほなな」

「うん……おやすみ」

バカ話の電話を終えた黒ショートは、テキストを片付けてベッドに潜り込んだ。

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翌朝、と言っても昼近くに起きた黒ショートは、遅めの朝食を摂り、勉強のために図書館へと自転車を走らせる。

照りつける日光は暑いが、スピードに乗った自転車で切る風は心地よい。

駐輪場に自転車を止め、カゴから荷物を取って図書館へ入ると、冷房の効いた館内は冷え性の黒ショートには少し寒いくらいだった。

いくつかの資料を取り、ノートを開く。

黒ショートは未来のため、少しランクの高い大学を目指していた。

持参したブランケットを膝にかけ、勉強に集中する。

幸い、図書館は静かなため、勉強が捗った。

どのくらい時間が経ったのか、効きすぎる冷房がブランケットのない上半身を冷やしたので、軽く伸びをしてからブランケットを背中へ回す。

その一瞬、本棚の隙間から覗く二つの目と、目が合った感じがした。

もう一度確認すると、そこに目などはないと分かり、黒ショートは「気のせいか」と安心する。

気を取り直してノートに向かい、また集中していると、うっかり消しゴムを落としてしまった。

舌打ちをし、消しゴムを拾おうと身を屈めた黒ショートが、何の気なしに視線を床から上げると、本棚の下の段の隙間に二つの目が自分を凝視しているのに気がついた。

えっ!?

急いで体を起こして本棚の方を見ると、やはりそこには本しかない。

恐る恐る机の下から本棚を見るが、何一つ奇怪しな点はなかった。

「疲れてんのかな」

そう小さく呟き、黒ショートはパンパンと頬を叩いて気合いを入れ直した。

気がつけば日も落ち、暗くなってきたので、黒ショートは荷物をまとめて図書館を出る。

自転車のカゴにバッグを放り込み、ロックを外して漕ぎ出した。

行きは下り坂が多いため楽チンだったが、帰りはその逆。

重いペダルを漕ぎながら、電動アシスト付き自転車を買ってもらおうと心に決めた。

立ち漕ぎで大汗をかきながら坂を上っていると、途中で力尽き、自転車から降りる。

ふと何かの視線を感じた。

まとわりつく湿気を帯びた暑さよりも、心をざわつかせる何とも言えない嫌な空気に振り返ると、通り過ぎた民家の塀と電柱の間から人の影のような黒いモノがこちらを窺っているのが見える。

その瞬間、全身に冷水を浴びせられたように悪寒が駆け巡った黒ショートは、悲鳴ともつかない声を上げて自転車に飛び乗って坂を懸命に上った。

気持ちとは裏腹になかなか前に進まない自転車にイラつきながらも、黒ショートは早鐘を打つ心臓と同調する荒い息づかいで苦しくなっていた。

ガチャンッ!!

あれほど重かったペダルが音と共に空転し、バランスを崩した黒ショートは、自転車ごと横倒しになり、体が投げ出される。

自転車のチェーンが切れたのだ。

腰や肩を強かに打ったが、それどころではない黒ショートが、後ろを振り返ると黒い影は先程よりも近くに忍び寄っていた。

もはや黒ショートの緊張の糸は限界を越えた。

喉が引き裂かれんばかりの絶叫を上げて、黒ショートは荷物も忘れて全速力で坂を駆け上がり、自宅の玄関に飛び込んだ。

娘のただならぬ怯え様に、黒ショートの母が声をかける。

「どないしたん?」

母の声に安心した娘の黒ショートは、泣きながら抱きつき、しゃくり上げている。

玄関での一幕に気づいた父親も慌ててリビングから娘の下へと駆け寄ると、母親にすがり付きながら嗚咽する娘を見て、何事かと言葉を失った。

リビングへ場所を移し、娘を落ち着かせると、娘の口から今の出来事を聞き、念のために乱暴されていないかを心配するも、その事実はないことが娘の証言から分かり、両親も安堵した。

父親が壊れた自転車と荷物を取りに現場に行った際、周辺をよく確認したが、何の痕跡も見つけることが出来なかった。

その日の内に、黒ショートも茶髪に連絡を取った。

ただの都市伝説の一つとバカにしていたことが、今、我が身に降りかかっている恐怖と、自分をそんな事態に陥れた茶髪への怒りもあった。

数回のコールの後、茶髪がいつも通りのヘラヘラした声で出る。

「お~どした~?」

茶髪の呑気な第一声に、一瞬でも死すら覚悟するような恐怖を味わった黒ショートはがなり音を立てた。

「お前、どうしてくれんねん!!」

黒ショートのいきなりの剣幕に、茶髪はビックリしながら宥めるように訊く。

「どないしたんよ……落ち着きぃな」

茶髪の対岸の火事のような物言いに、さらにヒートアップする黒ショート。

「あんたの所為で殺されるかも知れんのやで!!」

「えっ?」

黒ショートの物騒な言葉に、茶髪は思わず絶句したようだった。

「何があったん?説明して?お願いやから」

茶髪の懇願で少し冷静になれた黒ショートが、今日あったことを話すと、茶髪は間を置いてから打ち明ける。

「アタシもこんな話、信じられへんかってんけど、話してくれた先輩がな……アンタとおんなじようなことがあったって聞かされてん」

「いつの話よ?」

「今日の夕方」

今度は茶髪の言葉で黒ショートが絶句し、暫し呆然とするも、あることに気がつく。

「それで、その先輩はどうやって助かったんよ?」

「ゴメン……それは訊いてへん」

即答の茶髪を「ホンマに使えへんヤツやな!」と吐き捨てる黒ショートに、茶髪は申し訳なさそうに「ゴメン……」としか言えなかった。

「明日までには訊いておくから!絶対!!」

リミットの明日までに手を打たないと、噂が本当なら自分の身はいよいよ危うい。

それもあって、黒ショートは茶髪を責めることによって助かる手立ての聞き出しを怠ることを懸念し、その場は矛先を納めた。

「アタシが先輩に訊くまで、絶対に家から出んといてな!」

茶髪も万が一を思ってか、外出を控えるように言ってくれるが、そんなことは黒ショートも承知だ。

しかし、怒りに任せて茶髪に当たった場合、前述の恐れがあるので、黒ショートは素直に了承した。

電話を終えてベッドに潜った黒ショートは、部屋の照明に手を伸ばしたが、躊躇する。

暗闇が怖い……。

明かりを消すのを止め、静かに目を閉じるが、神経が高ぶっているのか寝付けない。

ゆっくりと目を開けると、窓辺のカーテンの僅かな隙間から夜闇が覗いている。

また視線を感じた気がして、黒ショートはカーテンの隙間をガムテープで塞いだ。

それを皮切りに全ての隙間が恐ろしくなり、目につく隙間を片っ端からガムテープでギチギチに塞いでいく。

そうしたところで、黒ショートは安心感が得られず、眠れぬ夜を明かした。

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不安と恐怖に苛まれた黒ショートは、部屋から出ることも出来ず、ただベッドの上で震えていた。

どれだけ時間が経ったのか……それすら分からぬまま、黒ショートはタオルケットを頭から被ってうずくまっていると、母の声がする。

どうやら茶髪が来たらしい。

茶髪が部屋の扉の前で声をかけると、ガチャリと鍵を外し、中から黒ショートの手が茶髪を掴むと、強引に引き入れた。

部屋の中の光景を見て、茶髪は言葉を失う。

カーテン、押し入れ、机の引き出しなど至る所にガムテープで目張りがしてあった。

「どうしたん……コレ……」

茶髪の問いには答えず、黒ショートはタオルケットを被り、ベッドに乗る。

「あんなぁ……コレ見て」

すっかり怯える黒ショートに、茶髪はA4のコピー用紙を一枚見せた。

昔の新聞のコピーだった。

『大阪日報 産院内で白昼の凶行!!』

そんな見出しで、内容は茶髪が語ったのと殆ど同じく、妊婦が階段から何者かに落とされて重傷、胎児は死亡した━━という記事だった。

それを見せながら、茶髪は泣きながら土下座する。

「アンタの言葉を信じてなかった訳やないけど、どうしても腑に落ちひんくて調べてみたら……」

床に頭を擦り付ける茶髪をベッドの上から見下ろしなから、黒ショートは言った。

「そんなことより、助かる方法を教えてくれや」

低く重みのある声に、茶髪は顔を上げた。

「独りで、午前2時22分に、廃病院の4階にある404号室で、『私はあの女ではありません』って三回言うんやて」

「それだけ?他に何か要るものとかないん?」

不手際がないように確認する黒ショートに、茶髪は力強く頷く。

「間違いないな?」

「何度も聞いたから間違いない」

「分かったわ……ありがとう」

無表情で礼を言う黒ショートを見て、茶髪は「別に……友達やし」と呟くと、黒ショートの目が見開かれた。

「何が友達や!!あたしにこんな思いさして誰が言うてんねん!!」

怒りをぶちまける黒ショートに返す言葉もなく、茶髪は項垂れる。

「もう帰ってエェで?あんたに用はないしな」

黒ショートの冷淡な口調に「ゴメンな……」とだけ振り絞り、部屋を出ていくしかない茶髪の小さな背中は、小刻みに震えていた。

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さらに時が経ち、午前2時前。

黒ショートは恐怖の元凶、アオイさんの待つ廃病院へと向かった。

自転車が壊れたので闇の中を独り、走っていく。

さほど遠くない場所であることもあり、5分もしない内に到着した。

行く手を阻む『立入禁止』の札のついた赤茶けた鎖を持ち上げて潜る。

もう人気がなくなって何年も放置されたまま風化が進み、所々朽ちている壁や割れた窓、外れかけて意味を持たない入口のドア。

近所にあってもこんなにまじまじと見ることがなかった廃墟に、黒ショートは尻込みした。

だが、行かねば殺される━━。

そのことだけが、黒ショートをここまで来させた。

死にたくない!!

気持ちを奮い立たせ、黒ショートは竦む足を前へと押し出す。

グラグラと今にも落ちそうなドアを開け、散乱するガラスの破片を踏みながら、黒ショートは四階を目指した。

自分の足音以外は何の雑音も聴こえない。

真夏の熱気を孕んだ建物内は、様々な臭いが混ざり合い、空気から混沌としている。

四階に着き、長く伸びる廊下の先を懐中電灯で照らすが、か細く頼りない光では3メートルが限界だった。

後は窓だった所から入ってくる月明かりだけで、進んでいくしかない。

階段すぐにあった待合所だと思われる広い空間の先には、カウンターがある。

恐らくナースステーション跡だろう。

その奥に新生児室、そして、病室になっているはずだ。

カツーン……コツーン……。

時折、踏みしめる破片のパキッという音が、漆黒に吸い込まれる。

黒ショートは一つ一つの部屋に光を射し、確かめながら歩いていく。

左側が個室、右が大部屋。

壁にあるプレートから、左が401、右が410なので、404号室は左側の四番目の部屋であることも分かった。

黒ショートはジットリとかいた汗で貼り付くTシャツを気にも留めず、四番目の部屋のドアノブを捻った。

甲高い悲鳴を上げるドアを開け、黒ショートはゆっくりと中へ入る。

手を離したドアが独りでに元に戻ろうとするも、閉じる寸前で止まり、大きな音は立てずに済んだ。

千切れたカーテンが微かに風で揺れている。

時計を見ると、時刻は午前2時21分。

随分と時間はかかったが、間に合ったことに安堵する。

そして、時計が2時22分を差した瞬間、黒ショートは神仏にすがるように合掌し、目を固く閉じながら小さな声で呟いた。

「私はあの女ではありません……私はあの女ではありません……私はあの女ではありません!!」

祈りにも似た想いで、暫くその場にいた黒ショートは、ゆっくりと目を開ける。

独り佇む室内は、水を打ったような静寂に包まれていた。

ぽっかり空いた窓には、月だけが覗いている。

「助かった……」

黒ショートは溜め息と共に力が抜け、その場に座り込みそうになるのを堪えた。

生きている喜びを噛み締めながら、家へ帰ろうと踵を返した黒ショートは、蒼い月明かりに浮かび上がったドアの隙間の二つの眼に気づく。

次の瞬間、勢いよくドアが開き、漆黒のヒトガタが黒ショートに襲いかかった。

突然の出来事に、黒ショートは声を出す間もなかった。

Concrete
コメント怖い
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関西弁、えぇなぁ(*´ω`)
やはり続きが気になります♪

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@ろっこめ 様
あたったあああああああああ!!!!!!
(今更かいっ)
リンク!?リンクだとぅ!?
もう一回読んでこよっ!!

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