大学生活最後の年、私は卒業に向けて、論文作成をボチボチ始めようかと、図書館に行きました。
入口のロビーに群がる人達の騒がしさを横目に見ながら、私が図書コーナーへ向かっていると、後ろからガシッと腕を掴まれて、グイグイ引っ張られました。
「ちょっ……」
バランスを立て直そうと、体を反転させた私の目の前にいる見慣れた後頭部に、私は声をかけます。
「何?やめてよA子……」
「いいからいいから」
何がいいのか分からないまま、黒山の人集りへ飛び込んでいくA子に引きずられる形で、私も中へ入りました。
「……貴女も占いをご希望ですか?」
小さな正方形の机の奥に座っている艶やかなロングヘアーの女性が、上目遣いで話しかけてきます。
透き通るような白い肌に、何故かチャイナドレスという不可解な出で立ちの女性が、私を見ています。
「いえ、私は結構です」
私が丁重に辞退すると、女性は「そうですか」と視線を外しました。
「お願いします!!」
野次馬の中の一人の女性が手をピンと立てながらズイッと前に出ると、チャイナドレスの女性はトランプよりも一回りくらい大きなカードを机の上に円を描くように広げ、両手でグルグルとシャッフルし始めました。
「何を占って欲しいんですか?」
チャイナドレスの女性が問うと、手を挙げたままの女性が恥ずかしそうに言いました。
「彼氏が出来るかどうかを占ってください」
依頼を聞くや、チャイナ女性は、カードを一つにまとめて山を作ると、依頼人に「好きなだけ持ち上げて、別の場所に置いてください」と言いました。
依頼人は言われるままにカードを少し持ち上げ、カードの山の隣に置きます。
「いよいよ始まるわよ……マァさんの占いが」
ヒソヒソ声で話すギャラリーの会話で、目の前のチャイナドレス占い師が『マァさん』だと分かりました。
大学内で噂になっている神出鬼没で正体不明の占い師、的中率は驚異の100%という眉唾物の占い師の通称が『マァさん』だとは聞いていましたが、まさかチャイナドレスだとは思いませんでした。
マァさんは残りの山からカードを五枚、星の頂点を描くように並べました。
五枚の内のマァさんの右側に当たる一枚をめくり、絵柄を見ます。
落雷で破壊されている塔の絵でした。
「貴女……二股を掛けられて、男をフリましたね」
依頼人は「スゴ~い!」と歓声を上げて頷きました。
マァさんはその下のカードをめくり、絵柄を見ます。
杖を突いた爺さんがランタンを掲げている絵でした。
「その男が初めての彼氏だったんですね」
依頼人を見据えながらマァさんが言うと、依頼人は驚きつつも頷きます。
そのままの流れで手を左に滑らせて、マァさんは隣のカードをめくりました。
男女が向き合っている絵が逆さまになっています。
「貴女はそれほど彼氏が欲しいと思っていませんね……そもそも恋愛に積極的ではない」
抑揚のない声でズバリ言い切るマァさんに、依頼人も絶句しているのを見て、当たっているのが分かります。
マァさんは続けて、そのカードの上のカードをめくりました。
枝から伸びるロープに足を結ばれて吊るされている男の絵です。
「今のままだと、寄って来る男にロクな者はいません」
マァさんの辛辣な言葉を聞いて、依頼人は落胆していますが、占いは続きます。
マァさんが最後の一枚をめくります。
星空を見上げる女性が描かれていました。
「まず、恋愛に対する意識を変えなさい……コンタクトレンズからメガネに、それと、膝丈のスカートがいいでしょう」
今ドキの占い師はファッションのアドバイスもするのか……。
私が感心していると、依頼人はイキイキした瞳でマァさんを見つめ、元気よく「はいっ!」と返事をします。
満足気に後ろに下がる依頼人を見て、マァさんはカードを一つにまとめました。
「今日は終わります」
そう言って、後片付けを始めるマァさんから、集まっていたギャラリー達が引いて行き、残ったのは、マァさんと私とA子の三人になりました。
「アンタさぁ……占いなんかしてないでしょ?」
唐突に、A子がマァさんをディスり始めます。
「ちょっとA子!!」
私の制止を振り切り、A子は続けます。
「アンタ……見えてるんだね?他人の過去が」
A子の言葉に、マァさんの手が止まりました。
「……お気づきでしたか」
合ってたの!?
つまり、マァさんは占いで他人の過去を言い当てているのではなく、見たままを話していたと言うことになります。
「でも、未来は見えないんだね……だから、先のことには触れずに現状を変えるアドバイスをしてたんだ」
A子の言葉に、マァさんが返しました。
「未来は創るモノですから、そんな不確定なことを断言なんて出来ません……さっきの方は見た目が軽そうに見えるし、流されやすい性格ですから、バカしか寄って来ないのは当然です」
流れるように毒を吐くマァさんに、私はA子と同じ匂いを感じました。
「占いは未来を変えるためにあるんです……より良い未来に書き換えるための指針だと考えています」
「アンタ、面白いね♪」
A子がニヤけて言うと、マァさんは射抜くような視線をA子に向けて言いました。
「貴女は、とてつもない力をお持ちですね……でも、一度だけ過ちを犯した……と、貴女は思っている」
マァさんは続きを言おうとしましたが、フッと笑みを浮かべました。
「……あれは貴女のせいではありませんよ」
「いや、アタシのせいなんだ……」
そう吐き棄てたA子が、マァさんに背を向けて歩き始めたので、私もA子について行きます。
何処か哀愁を漂わせるA子の背中に、何度となくA子の過去が気になり、私はマァさんに訊いてみようと振り返りましたが、それは思いとどまりました。
いつか、きっとA子の方から話してくれる……その時を待とう。
私はA子の親友なんだから……。
そして、A子が犯してしまった過去の罪を、私が知ることになったのは、また別の話です。
作者ろっこめ
新作の進捗が芳しくないので、ストックから放出させていただきました。
新作をお待ちくださっている方々、本当に申し訳ございません。
(´;ω;`)←誰もいないよ……。
今回、お名前をお借りした まー様。
御協力ありがとうございます!!
これからもよろしくお願いいたします!!
お陰様で、ゲストキャラももうすぐ10人にに到達しそう(たぶん)です!!
10人に到達したら、何か企画やります!
何するかはまだ決めてませんので、いいアイディアがございましたらお願いいたします。