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森のヌシ 【A子シリーズ】

長編14
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森のヌシ 【A子シリーズ】

大学生活最後の思い出にと、私は雪さんに圧し切られ、三月頭のまだ寒さの残る中、とある山へと拉致されました。

拉致られ先には、すでにテントが設営されており、こんなに準備万端なサバイバル確定の様相を呈していては、私も観念するしかありません。

残雪はないものの、すこぶる寒い……。

河原に組まれたカマドの前では、迎里さんとミシェルさんが火を焚いて、暖を取っています。

「センパイ!遅いでねぇスか!!」

「いや、私も本意ではないよ……いろいろと」

「まぁ、楽しむしかないですよね。ここまで来たら」

達観している迎里さんに苦笑いしか返せない私の後ろから、主犯の雪さんが私の肩を叩いて言いました。

「んじゃあ、ウチとミッシェルちゃんで薪拾いしてくるけ、チーと晩飯の支度ヨロシク!」

「薪拾い?ホームセンターで買ってくればいいのに……」

私がうっかり余計なことを言った瞬間、雪さんの眼がギラリと鋭く光ります。

「はぁ?!これやから現代っ子は……わざわざ買わんでもそこら辺にいっぱい落ちてるからタダやん!人生はサバイバルやで!!アンタは頭のえぇ子やから分かるやろ?」

「でも……まだ寒いから、乾いた木なんてそうそうないと思いますよ?」

私が曇天を指差すと、雪さんは高らかに笑いました。

「そん時は木の一本や二本切り倒したったらえぇねん!緊急避難や」

「ダメ!!絶対っ!!器物損壊と窃盗ですよ!」

冗談とはいえ、サクッとそういうことを言うところは、A子にソックリです。

「そう言えば、A子は?」

どうせいるだろうと確信していた私が訊くと、傍で笑っていた迎里さんから返答をいただきました。

「今、一人で食材調達に」

「食材調達?!嫌な予感しかしないんですけど……」

私の背中に気温とは異質の寒さが走ります。

「そんなに心配しのでも大丈夫スよ?A子センパイ、山は任せろって言うでましたもん」

「A子だから心配なんだよ!何か不可思議なモノとか図鑑に載ってないモノとか持ってきそうだし」

「まさか……いくらA子さんでも、そんなことは」

迎里さんは必死にフォローしつつも、声が震えていました。

「大丈夫やて!毒のあるモンは持ってけぇへんやろうし、火ぃさえ通せば大概はイケるて!ここに医者もおるし」

原始時代じゃないんですよ?

豪快奔放な雪さんにそんなことが言えるはずもなく、ようやく出た言葉は……。

「そのお世話にならないようにしたいんですよ!」

結局、私の悲痛な声は届かず、雪さんはミシェルさんを従えてワシワシ山の中へ入っていきました。

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しばらく迎里さんと食事の支度をしていると、テントの一つから何か機械音がしています。

「あ!A子さんからだ!出ていただけますか?」

迎里さんに言われてテントに入ると、トランシーバーから声がしました。

「あーあー……こちらシャトーブリアン!応答せよ……どーぞー」

声は明らかにA子ですが、シャトーブリアンなどと肉の希少部位を名乗っています。

「どちら様?」

私が返事をすると、自称シャトーブリアンが何やら言ってきました。

「お?アンタも来てくれたんだね!……どーぞー」

「来たというより、連れてこられたって感じだけどね……それより、シャトーブリアンって何?」

私からの質問に結構な間があってから、シャトーブリA子がようやく話します。

「言い終わったら『どーぞー』って言いなよ。どーぞー」

めんどくさいな……。

「分かったよ!シャトーブリアンって何?……どうぞ」

「アタシのコードネームだよ……ちなみにアンタは『黒メガネ』ね。どーぞー」

そんなバレバレなコードネームつけてくれるんじゃないよ!てか、何でコードネーム?

「気心知れた仲間内でコードネームとかいらなくない?」

そう私が問い掛けますが、A子ことシャトーブリアンからの応答はありません。

「……どうぞ」

仕方なく、お決まりの語尾をつけてやると、返事が返ってきました。

「こういうのがあるとアガるでしょ?……どーぞー」

何がアガるの!?

「何一つアガりませんが?どうぞ」

「相変わらずノリが悪いねぇ……どーぞー」

もう、このやり取りやめていいかな?

「それより何か用事があったんじゃないの?迎里さんに代わろうか?どうぞ」

「別にいいよ。ちーちゃんは忙しいんでしょ?代わりに訊いといてよ……どーぞー」

私も米を炊いてたんだよ!!あれ?迎里さんはコードネームないのか?

さも、私が何もしてないみたいな言い方に腹は立ったものの、A子相手じゃ怒ってもしょうがないのでスルーします。

「何を訊けばいいの?……どうぞ」

「あのね、『熊を捌けるか』……どーぞー」

熊?!熊って鮭くわえてるヤツ?

サラッと突拍子もないことを言うA子ブリアンに、流石の私も思考停止です。

「……訊くまでもないと思うよ?」

「アンタは無理だろうけど、ちーちゃんなら出来そうじゃん?どーぞー」

「迎里さんはマタギじゃないんだよ!?」

「だって沖縄は家庭でヤギを捌いて食べるじゃん?ヤギが捌けりゃ熊も捌けるでしょ?どーぞー」

何なの?その超理論……。

「ヤギと熊じゃ骨格から違うでしょ!!何で同一線上に並んだのよ!?」

私とA子が一悶着いると、声に気づいた迎里さんがテントに入ってきました。

「どうしたんですか?」

心配そうな迎里さんに、私は笑顔を引きつらせながら「いやぁ……」と返すと、トランシーバーの向こうからシャトーブリアンが叫びました。

「ちーちゃん!熊、捌けるよね?どーぞー」

決めつけるんじゃないよ!

根拠なき絶大な信頼感に迎里さんも困惑しながら答えます。

「熊は流石に……ヤギなら何とか出来るんですが……」

ヤギはイケちゃうんだ……。

「そもそもシャトーブリアンさん、何故に熊の話をしているんですか?どうぞ」

迎里さん、聴いてたんだね。

「いやさ、いるんだよね……目の前に。どーぞー」

「は?今、何て言ったの?」

あまりにもライトにブリアンが放った言葉の意味が分かりませんでした。

「なかなかのビッグワンだからさ……皆で食べるのにちょうど良さそうかなって思ってね……どーぞー」

「何言ってんの!!直ちに逃げなさいよ!」

「だって、捕まえたら腹一杯食べられるんだよ?ウマイよ?熊鍋……どーぞー」

熊に勝てそうとか、何処からその自信が湧いてくるのよ!!

「いいから早く逃げなさいっ!!目を逸らさずに、ゆっくりと後退りして距離を取るんだよ?分かった!?」

私は前にニュースで見た付け焼刃な知識をA子に伝え、その場から離れるように強く言いました。

「分かったよ……ホント、心配性なんだから……どーぞー」

「野生の熊を目の前にして丸腰で捕まえようとするJDよりはマシだよ」

能天気も度を越すとバカをも超えるんだなぁ……。

そんなことがおぼろ気に頭を過った瞬間。

「あ……ありゃ熊じゃないな」

語尾に「どーぞー」がなかったことから、どうやら独り言のようです。

「A子?!どうしたの?」

嫌な予感が溢れ出し、私の体を凍りつかせました。

「うわっ!……っと!!……………こんにゃろぅ!!………えっ?…………あっ!………………うわぁぁぁぁァァァ………ドーゾォォォ……」

草が擦れる音や小枝を踏み折る音、そして何かが滑り落ちる音とA子の「ドーゾー」を最後に、通信は途絶えました。

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「A子?!」

「A子さんっ!!」

迎里さんと顔を見合せ、二人でしばらくパニクっていると、山の斜面からガサガサと草が揺れる音がします。

「何?」

「A子さん?」

揺れる草むらを凝視していると、小型犬くらいの犬のぬいぐるみがノッソリ出てきました。

ぬいぐるみは私達と目が合った途端、「わん」と吠えたというよりも言った感じです。

「犬?……でしょうか」

「あんなTHEツクリモノな犬なんている?」

「でも、確かに『わん』って言いましたよ?」

「私、犬好きだけど、あんな覇気のない『わん』を聞いたことないよ?」

ヒソヒソと謎の物体Xについて迎里さんと話し合ってみましたが、なかなか結論は出ません。

意を決して、迎里さんが物体Xに向かって言いました。

「あなたは犬ですか?」

何故、人語で話しかけたかは分かりませんが、迎里さんが問いかけると、ソレは答えます。

「はい、犬です……わん」

絶対に犬じゃない!!

語尾に取って付けたように「わん」をつけても、人語を返した時点でアウトです。

私達の疑念はさらに深まりました。

「ごめんなさい……驚かせてしまって」

唐突に背後から声がして振り返ると、ロングヘアーの長身の美人さんが立っています。

「ソレ……私の犬なんです」

髪を耳にかけながら美人さんが犬型のソレを指差しました。

「犬なんですか?」

私が問うと、美人さんは快活に答えます。

「えぇ、正確には犬型のラジコンなんですよ」

「ラジコンだったんですか♪」

迎里さんは瞳をキラッキラさせて犬型ラジコンに目を向けました。

「はい、ラジコンです……まだ試作品ですけど」

「しゃべるラジコンなんて初めて見ましたよ」

私も猜疑心を解いて美人さんに言うと、美人さんはクスッと笑いました。

「しゃべったのは、私ですよ?ほら」

そう言って美人さんが装着していたインカムに口を当てます。

「コンニチハ、ボクえだまめデス」

急に犬が片言で喋り出しました。

さっきは流暢だったのに……。

「今日はお散歩がてら試運転で……」

「わざわざ山に?」

私の追及に美人さんが一瞬たじろいだ気がしましたが、すぐに人懐っこい笑みを浮かべました。

「マタギ用なんですよ……ソレ」

「マタギ用?」

「えぇ、全国のマタギさんのサポート用で熊発見器として売り出す予定なの」

需要あるの?ソレ……。

「それより、この辺りは熊が出るからキャンプしない方がいいですよ?」

その話はキャンプやる前に聞きたかった……。

「……?!そうだ!A子さんが!!」

「そうだった!!A子……」

「どうかしたんですか?」

通りすがりの美人さんに経緯を話すと、美人さんは眉をひそめながら、インカムに何やら話しました。

「民間人が襲われたみたいです……ムトウさん、そちらはどうですか?」

どうやら美人さんは仲間に連絡しているようでしたが、返答は私達には聞こえません。

「お嬢ちゃん達のお友達ってのはコイツかい?」

突然した渋い声に振り返ると、長身の男性がアホ面で眠っているA子を背負って立っていました。

「ソレ……うちのです」

ついA子をモノのように言ってしまいましたが、男性がA子をテントの中へ下ろしながら呟きます。

「まさか、アレに自分から向かっていくなんて思わなかったぜ……足滑らせて落っこちて良かったよ」

結局、立ち向かったのか……無鉄砲め。

ケガも大したことなさそうだから良かったけど、死んじゃったらどうすんのよ……バカ。

若干白目がちなA子の寝顔を見つつ、オデコを一発張ってやると、A子は「おっ!」と呻きましたが、目は覚ましませんでした。

「それで、お嬢ちゃん達はこのクソ寒い中、わざわざキャンプか?」

A子を背負って来てくれた男性が、私達に困った顔を向けて言います。

「まだ寒いとはいえ、熊もいるんだ……さっさと帰った方がいい」

「そうしたいのは山々なんですが、他に二人ほど山に入ってまして……」

「「何だって?!」」

迎里さんが申し訳なさそうに言うと、美人さんと男性がハモりました。

「どうすんだよハトムラ……こんなデカい山から一般人を二人も探せったって、その前にヤツに見つかっちまったら……」

「大丈夫ですよムトウさん!……ヌコちゃん」

どうやら二人は知り合いだったようで、何やら相談すると、あのラジコン犬から返事がしました。

「あいよ~」

ラジコン犬が首輪を回転させると、脳に直接響くような甲高い変な音がし始めます。

「あなた達はテントに入ってて?いいと言うまで出てきちゃダメよ?」

二十歳を超えた私達に、美人さんは子供に諭すように言いました。

とりあえず、言うことを聞くことにした私達がテントに入ろうとしたその時、山の斜面から黒い塊が草むらを吹き飛ばして、目の前に立ち上がります。

「何…アレ……」

「熊というには大きすぎますね……多分、鬼熊でしょう」

あまりのことで何だか分からなくなっている私に、迎里さんが冷静に解説してくれました。

「鬼熊は山の神になり損なった熊の妖怪です。主に北海道から東北にかけて……」

「ご高説はありがたいが、いいから隠れててくれないか?お嬢ちゃん」

迎里さんの解説を男性が遮り、私達をテントに強引に押し込めます。

「ムトウさん!この妖怪、ゴーグルなしでも見えてますよ!」

「そういや、そうだな……お嬢ちゃん達にも見えてるみたいだし……どうなってんだ?」

「んなこたぁどうでもいい!今からレイ状申請するから、全力で一般人を守れ!!」

「「了解!」」

テントの外は不穏な空気が蔓延しているようでした。

「だから山なんて嫌いなんだよ……三毛別ヒグマ事件みたいになったら、父さんにも母さんにも顔向けできないよ」

「大丈夫ですよ……三毛別みたいになったら、顔向けどころか顔が残るかも分かりませんし」

もっと嫌だよ!そんなの!!

降って湧いた身の危険に泣きそうな私と何故か冷静過ぎる迎里さんが言い合いをしていると、間で寝ていたA子がパチッと目を開けました。

「……何よ?うるさいねぇ」

気持ちよく寝ていた所を起こされたA子の体を迎里さんが抱き起こします。

「A子さん!大丈夫ですか?!」

心配する迎里さんにA子はいつものねちっこい笑顔を返して言いました。

「大丈夫だよ?それより何で、ちーちゃんがここに?」

「いや、あんたがここに運ばれて来たんだよ!」

たまらずツッコミを入れた私に、A子が振り向き様に私に抱きつきます。

「良かった!無事で」

そりゃ、こっちのセリフだよ……。

私がA子を抱き締め返そうとすると、A子は突然、私を抱えたまま反対側へと腰を捻り、迎里さんごとテントの端まで突き飛ばしました。

「ちょっと!何す」

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いきなり突き放され、一言物申そうとすると、私がいた場所のテントが人型の何かに押し潰され、テントの幕が裂けた所からは、馬鹿デカい黒熊が見切れています。

「ひぃぃいいい!」

ソレと目が合ってしまった私は情けない悲鳴を上げてしまい、それに反応した黒熊がこちらへ突進して来ました。

「ご…ごろざれるぅ!!」

迎里さんと抱き合いながら、身に迫る狂気に震えていると、A子が立ち上がり、黒熊目掛けて走り出します。

「A子!!」

「A子さんっ!!」

ゴキッ!

A子は黒熊の前でスッと身をひるがえし、黒熊の爪をかわすと、そのまま右足を黒熊の頭に叩き込みました。

「グモォォォオオオ!!」

その黒熊は雄叫びを上げながら、少し後ずさりしたので、多分、熊的にも相当痛かったんだと思います。

「アタシの友達に手を出すんじゃないっ!!熊!このやろぅ!!」

嬉しいことを言ってくれましたが、A子のボキャブラリーの乏しさも露呈してしまいました。

「お、お嬢ちゃん……ナニモンだよ」

テントに吹っ飛ばされた男性が呆気に取られています。

「何だか室長みたいですね……」

美人さんもA子を見て絶句していました。

「おいっ!犬っころ!レイ状はまだなのか!?」

男性が苛立ちながらラジコン犬を怒鳴りつけると、ラジコン犬もその倍の剣幕で応戦します。

「うるさいっ!わたしのせいじゃない!文句を言う前にオマエもその女みたいに素手で戦ったらどうだ!!」

「ヌコちゃん、それはムリだよ……」

美人さんが怒れるラジコン犬をなだめようとしていましたが、今、犬を『ヌコ』と呼んでいたことが少し気になります。

「オッサン!お姉さん!アタシを援護して!!」

二人の返事を待たず、A子が再び黒熊に向かっていきました。

「援護ったって、どうすんだよ!」

「ムトウさん!足を狙いますよ!!」

美人さんが何故かピストルを構えると、男性も同じく黒熊にピストルを向けて同時に発射します。

ぱぱんっ!

両足に被弾した黒熊が体を前に屈めた所に、A子の爪先が黒熊の顎にグサリと刺さりました。

「おぉぉぉりぃやぁぁぁ!!」

ゴシャアッ!!

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A子がそのまま上へと振り上げて持ち上がりかけた頭を、突然現れた大きなリュックを背負った女性の肘が挟み込みます。

ゴキンッ!!

絶望的な鈍い音がして、黒熊は崩れ落ちるように倒れました。

「何処の子や?なかなかやるやんけ」

「アンタもね」

少年マンガみたいなやり取りをするA子とリュックの女性に、私は呆然としてしまい、言葉を発することができません。

「ハトムラ!ムトウ!オノレら何してんねん……」

「「すみません……」」

リュックの女性に一喝されてシュンとする大人二人に、私は心から同情しました。

あんなもの、普通の人間が相手になる訳がありません。

「せやけど、せっかく持ってきたコレ、役に立たへんかったなぁ……」

背中のリュックに目をやった女性が、A子の肩をガッチリつかんで言いました。

「せや!君らにコレやるわ!持って帰んのメンドイし、キャンプすんならバーベキューやろ?」

「ソレ、何?」

中身が気になるA子の隣で、女性がリュックからドデカい肉の塊を取り出して見せます。

「神戸牛ロース10キロ!こんだけありゃ足りるやろ?」

余るよ!!絶対っ!!

私のツッコミを他所に、A子は肉塊を抱き締め、女性に何度もお辞儀をしました。

「ありがとう!お姉さま!!愛してますっ!!」

嬉しそうに肉を抱えて戻ってくるA子の後ろで、倒れていた黒熊が急に立ち上がり、両手を振り上げます。

「じゃかぁしいんじゃっ!黒毛玉!!」

すぐ傍にいた女性が黒熊の土手腹に蹴りをめり込ませると、ラジコン犬が口から紙を吐き出しました。

「執行ヲ許可シマス」

ズドォン!!

それと同時に何処からか銃声が聞こえ、黒熊の額には大きな穴が空き、黒熊の姿が砂のように掻き消えていきます。

「相変わらず、レイ状の発行は遅いですねぇ……」

大きなライフルを肩に掛けた童顔の女性がニコニコしながら歩いてくるのを見て、迎里さんが声をかけました。

「チカゲねーねー!」

「ん?……ちー?」

迎里さんはライフルを携えた女性に飛びつき、抱き合います。

「ねーねー、那覇警察にいたんじゃないの?」

「それがつい最近、警察庁に転属したんよ……ちーは何でこんなトコに?」

「友達とキャンプに来てたの!紹介するさー」

迎里さんは女スナイパーの手を引いて、私達の前に連れてくると、女スナイパーさんを紹介してくれました。

「従姉のイタドリ チカゲねーねーです」

「どうも……千尋がお世話になってます」

「いえいえ、こちらこそ」

迎里さんの従姉紹介から、チカゲさんのお仲間で同じく警察官である

熊殺しのユキザワ室長、

遅すぎたイケメンのムトウさん、

才色兼備のハトムラさん、

そして、ハイテクぬいぐるみのえだまめ1号の紹介を受けました。

「えだまめって何処かで聞いたことある名前だね」

「あぁ……でも、アタシの相棒なら、アンタとキントキもいるよ」

キントキって誰よ?何で豆つながりなの?

ユキザワ室長以下数名と別れた後、薪をガッツリ拾って、雪さんとミシェルさんが戻って来ました。

「A子センパイ!大漁でねぇですか!」

「何?その肉塊?何処で拾たん?」

拾った肉は食べませんよ……。

ことの次第を雪さん達に説明すると、雪さんは残念そうに呟きます。

「何や……そんなオモロそうなことしとったんならウチらも呼んで欲しかったわ」

「ホント水くさい!オラも試したかった間接技があったんだに」

「あんた達は修羅か!」

何でそんなに闘いたがるの?相手は獣より強い妖怪だったんだよ?

何やかやありましたが、美味しいお肉をお腹一杯たべたり、夜の山を探検しようとするA子と雪さんをアルコールで足止めしたりと、忙しくキャンプを終えました。

いろんな意味で忘れられない一日になりましたが、私の慌ただしかった大学生活もそろそろ終わりに近づきます。

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そんな大学最後の日に予想だにしない大きな事件が起こるんですが、それはまた別の話です。

Concrete
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