中編4
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人形の森 X-6

人形の森 X-6

その頃、アーロンとアルは毒仙花を血眼になって探していると

辺りに響くように背後から声が聞こえる

二人が振り返ると人型の何かが岩に座っていたが

アーロンとアルは気配に気づかなかった。

それは紅く染まった爪を眺めていた

「この森に何の用だ?」

アーロンは銃を引き抜き構える

「バジリスクを探している」

人型の怪物が笑いながら膝を叩く

「あの老いぼれドラゴンを、か!」

人型の怪物が立ち上がり首を鳴らす

「久々の人間だ、私を楽しませてくれよ」

人型の怪物は目にも止まらぬ速さでアーロンを吹き飛ばし、アルのナイフを奪う

「いいナイフだな。それにしても人間にしては丈夫だな」

アルは別のナイフを取り出し

「貴様は何だ?ただの怪物には見えないが」

人型の怪物はナイフを弄びながら地面に突き刺す

「私は、ネケン…魔人だ」

アーロンは泥まみれになりながら立ち上がり

「魔人だと?その見た目…魔人になってから随分と時間が経っているな…」

ネケンは笑いながら

「詳しいんだな。ま、この森から生きて返さんがな」

ネケンは拳を強く握りアルを吹き飛ばす

アーロンは銃を取り出し構える

「アル!お前はバジリスクの痕跡を探しに行け」

アルは黙ったまま頷き、自分よりも高い木の枝に向かって飛び上がった

ネケンもアルを追いかけるように飛び上がる

「逃がすか!」

アーロンは飛び上がるネケンの右足を掴みそのまま地面に叩きつけ

足でネケンを押さえ頭部に銃弾を撃ち込む

その銃声は怪物の咆哮のような爆音が辺りに轟いた。

その頃、レイモンド達は…

バーキン博士が不安な面持ちでレイモンドに尋ねる

「今の鳴き声って、マズくないですか?」

レイモンドは音がした方角を眺め

「あの音はアーロンの銃声だ。何かに遭遇したんだろう」

その頃、アーロンは動かなくなったネケンから少し離れるとアルが戻ってきた

「痕跡を見つけたぜ、魔人はどうなった?」

アーロンは葉巻に火を点け、アルに地面に刺さっていたナイフを返す

「奴なら仕留めた」

アルはアーロンの背後を覗く

「で?その死体は」

アーロンが振り返ると

「そこに死体が…ありゃ?」

死体はそこにはなく、痕跡すら残っていなかった。

二人はネケンを捜索せず、毒仙花を再び探す。

「あの二人…人間じゃないな…」

ネケンは高い木の上から二人を眺めていた

森を歩いて、しばらくすると目の前に毒仙花が群生していた。

駆け寄るアルをアーロンは「待て!」と制止する。

毒仙花とは違う独特な匂い…強烈な腐敗臭が鼻を衝く

「マンドラゴラだ…この腐敗臭は間違いない」

アルは周囲を見渡しナイフを取り出す。

「こりゃ…二匹や三匹ってレベルじゃねぇぞ」

毒仙花の周囲に咲く無数のユリに似た花が風もなく揺れている。

そのマンドラゴラの中心に妖しく咲く毒仙花

「他の毒仙花を探したほうが賢明かもな」

アーロンはそれだけを言うと、その場から立ち去ろうとした時だった。

仕方なくアーロンを追いかけたアルがマンドラゴラの花を踏みつけてしまう。

「あ、ヤバい…」気付いた時には既に遅く、眠っていたマンドラゴラが一斉に目を覚まし活動を始めた。

アーロンは素早く先制攻撃でマンドラゴラの頭部を撃ち抜いていく

「それにしても数が尋常じゃないな!」

「そんなこと言わなくてもわかってる!」

マンドラゴラの神経毒は既に二人を侵食し始めていた。

アルはお得意のナイフ捌きで、マンドラゴラの花粉を放出する箇所を切り落としていく。

「やっべ…視界が霞んできた」

アルの接近戦が災いし神経毒を直接浴びていた。

アーロンは後方で援護するが埒が明かないことに痺れを切らし

「アル!下がれ!」

その合図を聞いたアルはフラフラになりながらも急いで、その場を離れる。

「この方法は毒仙花も巻き込むかもしれないが仕方ない!」

オレンジ色の液体が入った瓶をマンドラゴラの群れに投げ、瓶が割れるのと同時に爆炎と衝撃波がマンドラゴラを飲み込んだ。

「あー!毒仙花がー!」

アルは自分の躰よりも毒仙花を心配して叫ぶ

爆炎と衝撃波は瞬く間に収まり、残ったのは少し赤く光る灰だけだった。

「毒仙花は…ダメだったか。仕方ない…この状況で森を歩くのは危険だな」

二人は少し離れた場所で解毒薬の調合を始める。

「あれが最後の毒仙花だったら、どうするつもりなんだ?」

アルの不満げな問いにアーロンは笑いながら

「毒仙花は死骸に自生する、まだこの森でなら可能性はある」

アルは薬を調合しながら

「ま、毒仙花を採取することが任務ではないからいいんだけどよ」

アーロンは銃の点検をしながら

「毒仙花も気になるが、ネケンが気になる」

アルは完成した解毒薬を瓶に詰めアーロンに手渡す

「確かにな…あの気配を完璧にまで消せるのは普通の魔人じゃない」

アーロンは少量づつ口に含み掌を開いたり閉じたりを繰り返し解毒薬の効き目を計る。

「よし、次はお前だ」アーロンは瓶をアルに投げ

アルは残った中身を一気に飲み干した。

「この味といい、苦味といい最悪だよな」

アーロンは解毒薬のエグ味に顔を歪ませ笑う

「効き目がある薬ほど苦いものだ」

次第に辺りは夕暮れ時となり、妙な静けさの中

二人は黙り込んだ。

鋭い二人の視線は雑木林の中に向けられ、アーロンは銃の引き金に触れていた。

「やれやれ、休める気がしないですねぇー」

ため息交じりのアルの言葉を合図にアーロンは雑木林に向けて発砲する。

ギャアアア!という耳を劈く雄叫びと共に

無数のグールが現れた。

To be continued…

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