「死にたい」
彼女はそう言った。いつもの事だったのであったが、私はその日虫の居所が悪かったので、つい彼女に対して「そんなに死にたいなら死ねばいいだろ」と怒鳴ってしまった。
彼女は私の言葉を聞いて驚きで目を見開いていたが、そのあとすぐに顔色を戻した。
そうね、と言いながら彼女は自分の財布と携帯を持って自宅から出て行った。
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翌朝、目が覚めると彼女が台所にいた。彼女の作る味噌汁が私は好きだった。
味加減が私にとって丁度良かったのだ。
今日の朝食は鮭の塩焼きと卵焼き、昨日の晩御飯で余ってしまっていた肉じゃが、味噌汁と朝食をあまり食べない私にとっては多いものだった。
「さぁ、召し上がれ」と笑顔で言う彼女を見ていると残しては悪いと思った。
それに何よりとてもいい匂いだった。
「いただきます」箸を持ち軽く手を合わせた。
まず肉じゃがから。私は箸を進めた。昨日の余りなので味は相変わらず美味しい。昨日よりも味が染みて、ジャガイモが煮汁を吸ってすぐ崩れてしまうような、この触感が私は好きだった。鮭の塩焼きも丁度いい塩梅でご飯が進んだ。卵焼きは私が甘いのが苦手な為、いつもだし巻きだ。彼女は甘いのが好きだが、わざわざ私の好きな味付けにしてくれる。
最後に彼女の作った私好みの味付けがされた味噌汁。
胃がじんわりと温かくなっていくのが感じられる。朝から彼女の作った朝食に元気をもらっていた。すると昨日酷いこと言ってしまった事に後悔した。
「昨日はごめん。あんな酷いことを言ってしまって。こうしてご飯を食べてて思う。君は必要な存在なんだ。だから死なないでくれ」
そういうと彼女はにこりと微笑みながら「気にしてないわ」と言った。
私は彼女の言葉、顔を見て安心した。
そう、私は彼女が必要なのだ。
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「ふぅ…やっと終わった」そう言って私は帰る支度を始めた。
彼女に仕事が終わったので帰る旨の連絡をした。
彼女からすぐに返信が来た。「 お疲れ様!気を付けて帰ってきてね(*^^*) 」
こういった何気ないやり取りが私を癒してくれる。どうして彼女は頻繁に死にたいと言う事が増えたのかわからないくらい、明るく、優しく私に接してくれる。
だが、私は今が大丈夫なら大丈夫かと楽観的に考えていた。
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「死にたい」今日も彼女は私に呟くように言ってきた。
「どうしたの?最近よくそう考えているようだけど…」そう言って私は彼女に問い掛けた。
「…何でもない」そう言って彼女は寝室に行きベットで横になっていた。
私は風呂に入ってきてその後彼女が眠っている横に寝そべった。
彼女の寝息を聞きながら、明日は休みだ。どこか気晴らしになる所にでも連れて行こうか、そう考え私は眠りについた。
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「〇〇公園に女性のバラバラ遺棄死体。犯人はまだ見つからず」
そう言って朝から胸糞悪いニュースが流れてきた。
「酷いことするもんだな…しかもここから割と近いだろ…気を付けろよ」
私は彼女の身を案じてそう言った。
彼女は黙って私を見続けた。何もかも見透かしているような様子で。
いつからだったんだろう。気づいていたのは。
あいつが悪いんだ。私が彼女が居る事隠して、買春していた事彼女に話そうとしていたから。
だから首を絞めた。だけど、そのままの状態では処理に困るので、出刃包丁を購入し遺体をバラバラにしたんだ。今はまだ一部しか見つかってないからな。身元の判明も遅れるだろう。そうだ。彼女は、知っているはずがない。だけど、だが、彼女の「死にたい」と言う事が増えたのはいつからだった?おかしい、おかしい、おかしい、あり得ない、あり得ない、
私は頭をフル回転させていた。その間も彼女はじっと私を見ていた。悲しそうな、憐れんでいるような、または侮蔑しているような、気分が害されていくのが分かった。
「わかっていたのか」そう言って私は彼女の首を絞めた。
彼女は苦しそうな表情をしていたが、どこか泣いているような、嬉しそうな、よくわからない表情をしていた。
しばらく首を力強く締めていた為か、彼女は息絶えた。涙が流れていた。
だが、口はどこか笑っているような気がした。
私は彼女の首から手を放し、席に戻り呆けていた。
目の前に彼女が最期に作った朝食があった。
私は彼女の朝食を食べていた。泣きながら、味がしない朝食を食べていた。
味がしない、ではなく変な味がした。
私はそれが何か何となくわかっていた。毒を、彼女は最期に私と一緒に死ぬために毒を盛ったんだろう。
私の食事だけに。彼女の分は一切用意されてないから。
私が彼女を、自分を手に掛けてくれると信じて。
私は最高に幸せな気持ちになって、苦しんで死ねた。好きな人を手に掛けて、好きな人に手に掛けられて。
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「今の話が、貴方のしてきた事ですか。とても興味深いお話有難う御座います。出口はこちらです」
そう言って白髪のストレートで肌も白い、真っ白のワンピースを着た女が奥の扉を案内した。
私はそちらに行けば彼女に会えるかと問い掛けた。
「ええ、いるでしょうね」白い女はそう言ったので私は笑顔で彼女のもとへ向かった。
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「好きな人に殺される、か。それはどんな気分なんだろう」そう言って白い白い女は手元の本を閉じた。
作者アリー
すみません、よくわからなかったり、誤字脱字あったら教えていただけると助かります!!
最近は創作意欲が、というか、このサイトに来るのが何処か億劫になってきているので久し振りの投稿で少しずつ気持ちを取り戻せたらなと思います。