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私の実家は和歌山県にある。
まだ私が地元にいた頃、同じ集落の老人から聞かせてもらった話。
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その人(以下、Aさん)は中辺路町の生まれ。
若い頃(昭和10年頃)、高尾山から木を伐り出し、日高川から筏に乗せて運ぶ仕事をしていたそうだ。
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ある日のこと。
その日の仕事を終えて下山したが、Aさん達のすぐ後から出発した筈の人が、何時間経っても下りてこなかった。
心配していると、Aさん達からずっと遅れて山を下りてきた人達が、途中で動けなくなっているその人を発見し一緒に連れて帰ってきたそうだ。
その人は地面に倒れ伏し、泥だらけで藻掻いていたという。
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「山を下りる途中で、いきなり腹が空いてどうにも動けなくなった。ひもじくて、どうしようもなくなってしまった」
その人は真っ青な顔で話したそうだ。
話を聞いた人達は、
「それは“ダル”に憑かれたのだ」
と口を揃えて言った。
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中辺路町の辺りでは、山道を歩いていると突然空腹に襲われ、動けなくなることがある。土地の人は「ダルに憑かれる」と言うそうだ。
ダルは餓死者の霊魂で、自分が死んだ場所に留まり、近付いた人に取り憑くらしい。
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「そいつが憑かれたところに石を置いて、仕事の間は毎日飯を供えたよ。
ダルが憑く場所は大体決まっていて、この辺りにもいくつかあった。最近は憑かれたという話も聞かんけどな」
と、Aさんは私に話してくれた。
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鬼太郎にも出てきた、ヒダル神と同じものと思われます。
憑かれた時は、米粒一つでも食べれば良いそうで、昔の人はお昼の弁当を一口分残しておいたそうです。
作者岩坂トオル
「怖い話」への投稿は初めてになります。
よろしくお願い致します。