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短編2
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荷車

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熊野古道が世界遺産に登録された年か、その前の年くらいの話。

私が学校から帰ると、

「今日、お寺のおっさん(和尚さん)から、おもろい話聞いてん」

と母親が嬉しそうに言ってきた。

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数日前のことだという。

そのお寺は集落の山際にあり、

裏手の墓場を奥へと進むと、未舗装の山道に続いているが、

この山道の途中で斜面を上がる脇道に行くことができる。

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そこから半時間ばかり進むと、小さな滝が見えてくる。周りは鬱蒼と木々が生い茂り昼間でも薄暗く、おまけに

「昔、山伏がこの辺りで追い剥ぎに斬殺された」

という話もあって、普段からあまり通る人のいない寂しいところだった。

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その滝の前を、お寺の近くに住む人が、何かの用事で通りがかったそうだ。

すると、

ガラガラガラガラガラ

不意に向こうから大きな音が近付いてきた。何の音だろう、と思いつつ歩いていると、

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ガラガラガラガラガラガラガラガラ

坂の上から、

無人の荷車が、こちらを目がけて物凄い勢いで走ってきたそうだ。

「あかん、ぶつかる!」思わず道の端に避けた。

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ところが、荷車はその人の前まで来ると、突然方向を変えて、道の下の川に転がり落ちていった。

川を覗いてみたが、荷車はどこにもなかったという。

不思議なコトもあるもんだ、とその人が和尚様に話し、母が和尚様から又聞きしてきたということだ。

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後日、私はその人を訪ね、同じ話を直接聞くことができた。

「荷車ら久しぶりに見たわ。昔、うっとこ(うち)で使いやったのより、上等やったぞ」と呑気なものだったが、一頻り話し終えた後で、

「やっぱり、あっこたし(あの辺り)は何かおるんやなぁ」と、呟いていた。

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話を聞いた後、私は早速友達とその滝に行きましたが、残念ながら特に何もありませんでした。

祖母曰く「あの辺りは狸が棲み着いていて、昔からよく人を化かす」とのこと。

今から十数年前の話ですが、我が故郷の狐狸は未だ現役なのかもしれません。

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