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地元の知り合いから聞いた話。
その人の父親(以下、Aさん)が若い頃、山で不思議な体験をしたことがあるという。
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昭和初期の話。
Aさんは用事で、中辺路町の道湯川という集落に向かって、山道を歩いていた。
しばらく行くと、道の先に若い女が立っているのに気が付いた。
青い着物を着た、色の抜けるように白い別嬪だったそうだ。
女はAさんに向かって意味ありげに微笑みかけてきたという。
当時Aさんは二十歳そこそこで独身。当然若い女が気にはなったが、急ぎの用事だったので、知らん顔でその前を通り過ぎた。
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そのまましばらく進むと、道の先にまた女が立っているのが見えた。
しかも、さっきの女と同じような青い着物を着ていたそうだ。
Aさんは不思議に思いながらも、女を横目にそのまま先を急いだ。
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またしばらく行くと、
今度は道の真ん中に、赤い着物の少女がいた。
通せんぼするように両手を広げて、
「あにやん、こっから先に行ったらあかんで」
とAさんに言ったそうだ。
「急ぎの用事があるさかい、通してくれらよ」とAさんが頼んでも、
「行かれん、行かれん」
少女は通せんぼをしたまま、Aさんを先へ進ませなかったそうだ。
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ただならぬ雰囲気にAさんは次第に恐ろしくなり、荷物も何も放り出して、家まで逃げ帰ったそうだ。
それから体調を崩し、しばらく寝込んでしまったという。
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後日、集落のオガミさん(祈祷師)に見てもらうと、
「青い着物の女は“山おじ”が化けたモンで、おまはんを害する気ィやった。
赤い女の子の方は山の神さんで、山おじから守ってくれはったんや」と言われたそうだ。
Aさんはそれからも山に入ることが度々あったが、不思議な体験をしたのはこれっきりだったという。
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「親父は真面目で信心深い人やったさかい、神さんも助けてくれてんろぅ。
ワシらは、あかなぁ(ダメだ)。助平やさか、すぐ騙されてまうで。
ほんま、親父は真面目やったさか……」
その人は私に色々と亡父の思い出話を聞かせてくれた。
最後はちょっと泣くようになっていたのが印象に残っている。
作者岩坂トオル
以前「妖怪」カテゴリーに投稿した、
『大阪行きたいか?』と似たような話です。
故郷の辺りには、山の神様に助けられた話が色々と伝わっています。