30代程度の青年だろうか。
不気味なほど静かな部屋の中で、一人黙々と日記を書いていた。
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20XX年△月◯日
気の狂った隣国が核攻撃、某国が報復攻撃をしてから1ヶ月が経過した。街や海、山を問わず破壊され、沈んだはずの太陽も遮る地平線が所々無くなっているのか、幸いにも真の暗闇を経験せずに済んでいる。
と、そんな事を書いている時点で精神がかなりいかれているのだろか。私には分からない。誰かに判断してもらいたい所だが、他の人が生きているとは思い難い。最悪、生きている人類が私だけとも考えられる。
むしろ私が生き残っている事自体が奇跡だ。そちらの方が可能性は高い。
しかし、人口を百億人を超えようとしていた人類が、一瞬で殺戮し尽くされるとはとても考えられない事だ。
たかが人間ごときが世界を文字通り木っ端微塵にできるなどというアニメの中でのみ存在するような兵器を作ることが間違いなのだ。
そもそも私は誰の為に日記を書いているのだろうか。
music:2
そこで束の間、手を止めた青年は、外から聞こえてきた声に身を震わせるとペンを走らせるスピードを上げた。「今外から声が聞こえてきた人間だろうかおんなのこえだがきかいとにんげんのあいだのようだしゃべっていることは
『アイスキャンデーはいかがでしょうか?』
これを何度も繰り返すこの前も来たどうすれば良いのか。
政府の食料支援のドローンだろうかそんな事はありえないそもそも言っていることがおかしい
今まで無視してきたが、今日は声をかけようと思う。」
そして青年は日記を閉じた。
外から聞こえて来るのは耳につく静寂と
「アイスキャンデーはいかがでしょうか?」
「アイスキャンデーはいかがでしょうか?」
「アイスキャンデーはいかがでしょうか?」
「アイスキャンデーはいかがでしょうか?」
声だけ。
淀みなく続けられる声は人間と機械の女の声を足して二で割ったようだ。
「アイスキャンデーはいかがでしょうか?」
怖い。
「アイスキャンデーはいかがでしょうか?」
そもそも、青年の住むこの小さな家の前には地面は存在していないはずなのだ。それなのに何故声がするのだ。アイスキャンデーとは?
「アイスキャンデーはいかがでしょうか?」
声の調子に変化は無い。途切れる事も、無い。
「アイスキャンデーはいかがでしょうか?」
青年は覚悟を決めた。
「アイスキャンデーはいかがでしょうか?」
息を吸う。
「アイスキャンデーはいかがでしょうか?」
「すみません!あなたは...」
music:4
「......。」
耳に痛いほどの、静寂。
ずっと親しんできたはずの静寂。
sound:36
青年に、恐怖が襲った。
「ああぁ、ああああー!」
声にならない声を上げて布団に潜り込む。
音は、しない。
それから3時間は経っただろうか。
青年は、おそるおそる顔を出す。
部屋に変化は無い。
上を向いてみた。
sound:34
......もちろん、何もない。
青年は掠れた声を出す。
「あれは...幻聴か?」
もちろん誰も居ない。
「俺は、狂っているのか?それとも...」
死んでいるのか。
music:2
『いえ、貴方は生きてますよ。』
下から声が聞こえた。
見れば焼けただれた女がこちらを見上げて居た。
「......。」
出せる声は、ない。
『この世界では、核が撃たれ全ては死に絶えるはずでした。貴方も含めて。」
「......。」
『しかし、ここで終わらせてはなりません。
全ての神々は自らの存在をかけ『決断』をしました。死んだはずの約100億人の祈り、日記は...役に立つ...さあ、行きなさい!』
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music:5
...朝だ。
ベットから私は起き上がった。
パジャマのまま外に出れば、そこには地面があり、木々のさざめきがあり、人の暮らしがある。
しかし、私には分かった。
世界の破滅が、この世界で容易に起こり得る事を。
作者天狗風
ペロッと書いてみました。
音を聞きながらお楽しみいただけると嬉しいです。