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祖母から聞いた曾祖母の話です。
曾祖母の実家は山奥の小さな村にあったらしく、その村は今はもう過疎化のため、なくなってしまったらしい。
曾祖母の家は、村の政を執り行う家の1つだった。
なので、家はかなり大きく、部屋も多かったと嬉しそうに曾祖母は話していた。
その家に結婚して、村を出るまでの間、曾祖母は住んでいた。
曾祖母は7人兄弟の長女だった。
それぐらいしか曾祖母のことは知らなかった。
曾祖母は自分の過去について、聞かれれば話してくれるが、自ずから話すことはあまりなかった。
そんな曾祖母が祖母に話した昔話を、話していきたいと思います。
「昔話をしようか」
ある日、曾祖母は祖母にいいました。
何か為になる話かもしれない、それでなくても話すことが好きだった祖母は、すぐに快諾した。
「これはね、私の妹の話なの。今では姉になるかな。」
そのとき祖母は疑問に思った。
曾祖母は7人兄弟であることは知っていたし、妹がいることも知ってはいたが、曾祖母は長女だから、姉はいないはず。
それに「今は姉になる」という意味も分からなかった。
「私は子供の頃、近くの河原で遊ぶのが好きでね。中でもお気に入りの場所があってね。家の古い脇戸を降りていくと、穏やかな小川が流れている場所にいけてね。そこで小川を見たり、音を聞いたり、何時間でも要れるんだよ。」
その場所は曾祖母以外居らず、曾祖母だけの秘密の場所として、時間があるとき、こっそり行っていたらしい。
それから何年かたったある日。
「いつも通り遊びにいくと、私と同じぐらいの女の子がいたんだよ。」
秘密の場所は辺りを木に囲われているから、自分の家の脇戸を通るぐらいしか、来れない場所にある。
妹はまだ起き上がれる歳じゃないし、だったら村の子が迷いこんだのかといろいろ考えていると、小川にいた女の子が視線に気づいて振り返った。
「私と同じ顔」
まるで鏡を見ているみたいだった。
今ならまだ様々な考えが巡るが、その時は好奇心が勝ってしまった。
「貴方は誰。何処から来たの。」
そんなことを聞いていた。
小川の女の子は、
「名前はない、来た場所は秘密」
と言って笑った。
曾祖母はますます楽しくなり、
「じゃあ友達になろう」
と言った。
小川の女の子は少し考えてから、
「私の事、誰にも言わないなら良いよ」
って言ったから、曾祖母は深くは考えずに友達になったそうだ。
「あの時はただ嬉しかった。自分と同じ顔の子と友達になれて、家族が増えたみたいだった。名前がないって言ってたから、ツバキちゃんって呼んでいたの。ツバキちゃんはいろんなことを知っていてね。話を聞くのも楽しかったし、いろんな遊びを一緒にして、とにかく楽しかった。」
家に帰って、その日の出来事を家族に話したかったけど、誰にも言わない約束だから、言わなかった。
二人だけの秘密で約束だった。
ある時、父親から毎日何処で遊んでいるのかと聞かれた。
約束だから、父親には秘密だと言った。
最初は父親も可愛い子供の隠し事だと思っていたが、日がたつにつれ、娘が脇戸から外に出ていく様子に疑問を持つようになった。
だから、こっそりと曾祖母の後をつけることにした。
その日も変わらず、ツバキちゃんとたくさん話して、遊んで楽しかった。
「じゃあ、また明日ね」
いつものように曾祖母が別れようとすると、
「待って、もう1つだけ約束してほしいことがあるの。」
曾祖母は新しい約束が増えることが嬉しくて、すぐに快諾した。
「私達はずっと一緒だから、会えなくなっても悲しまないでほしい。」
ツバキちゃんは悲しそうに言った。
あまりにも悲しそうに言うから、なんで会えなくなるのかと言うよりも、早くツバキちゃんに笑顔になってほしいと思った。
「わかった。ずっと友達だよね。」
努めて明るく曾祖母が言うと、ツバキちゃんも笑顔になり、
「うん、ずっと一緒だから。大好きだから、貴方には笑顔でいてほしい。」
と言い、曾祖母をそっと抱きしめた。
「私も大好きだよ」
曾祖母も抱きしめ返し、しばらくそのままでいた。
もう暗くなるからと、ツバキちゃんが名残惜しそうに離れ、曾祖母はもう少し居たかったけど、仕方なく家に帰った。
その日の夜から、曾祖母は急に体調を崩し寝込んだ。
風邪にしては症状も違く、とにかく体が千切れるように痛かった。
そして何故か涙が止まらない。
痛くて泣いてるわけじゃなく、何かを無くしたわけじゃないのに喪失感があり、涙が止まらなかった。
さらに寝込んでいる間、不思議な夢を見た。
ツバキちゃんと遊んでいる夢。
楽しく遊んでいると、突然辺りが騒がしくなり、村の人達の怒声が聞こえてくる。
すると、ツバキちゃんは走って何処かへ行こうとする。
「置いてかないで」
と曾祖母が言って追いかけても、
「ずっと一緒だから」
とツバキちゃんは言い、どんどん離れていってしまう夢。
詳しい原因が分からないまま、1週間は寝込んでいたらしい。
やっと元気になって小川へ遊びに行ったけれど、ツバキちゃんは居なかった。
たまに会えない日もあったから、特に気にすることなく、その日は帰った。
次の日も会えなかった。
また次の日も。
連続して会えない日が続き、気がつけば数ヶ月もの間、会えなかった。
その日も会えず、家に帰ろうとしていると、離れの家に住んでいる母親の親族の人達が、荷物の整理をしていた。
暇だったから、整理の手伝いを申し出ると、すごく褒められたらしい。
部屋にある荷物を運んでほしいと頼まれたので、軽そうな物から運んでいた。
全て捨てるから、雑にしてもいいと言われ、引っ張り出しては、まとめて運ぶ作業を続けていた。
部屋にあった全てのものを運び終え、捨てる物を見ていると、ふと目に留まる着物があった。
近くに行って、手に取り見てみると、すぐにわかった。
ツバキちゃんが着ていた着物だった。
どうしてここにあるのか、母親の親戚には小さな子供はいないはずなのにと考えていると、親戚の人が昔着ていたものだと教えてくれた。
たまたま一緒だったのかなとその時は考えることにした。
それから結婚して、村を出るまでの間、ツバキちゃんに会うことは二度となかった。
村を出て、家事と育児に追われて、気がつけば村を出てから数十年が経ったある日、父親が他界した。
久々に里帰りし、父親の遺品の整理をしていると、曾祖母に宛てた手紙があった。
中を見てみると、まずは謝罪が書かれていた。
さらに村のしきたりが書かれていた。
双子は先に産まれた方が妹で、後に産まれた方を姉とする。
もしも村に双子が産まれた場合、先に産まれた妹を殺し、後に産まれた姉は生かすこと。
初めて聞く話だけれど、何故今話すのだろうと考えた時、自分によく似たツバキちゃんを思い出した。
「まさか」
心臓が激しくなり、手が震える。
次の文を見ると、全ての答えが書かれていた。
曾祖母は双子であったこと。
本来は先に産まれた方は、すぐに殺すのがしきたりだが、憐れに思った母親が親族達に預け、双子であることを父親にも隠していたこと。
脇戸から遊びにいく曾祖母の後をつけ、双子であることを知り、母親を問いつめたこと。
曾祖母が寝込んでいるとき、村人総出で双子の片割れを探しだし、山道を逃げていた片割れを殺めたこと。
最後にもう一度謝罪が書かれていた。
手紙には文字が滲んでいるところもあった。
きっと父親にも様々な葛藤があったのだろう。
手紙を読み終えて、気がつくと小川に来ていた。
待っても、探してもツバキちゃんにはもう会えない。
悲しみが込み上げてきたとき、あの日の約束を思い出す。
「ずっと一緒だよね」
曾祖母がポツリと呟く。
「うん、ずっと一緒だよ」
曾祖母の近くでツバキちゃんの声が聞こえた。
振り返るけれど、ツバキちゃんはいない。
「貴方には笑顔でいてほしい」
双子の妹のツバキちゃんを悲しませないために、泣き出したい気持ちを抑え、曾祖母は笑顔を浮かべた。
作者セラ
私が祖母から聞いた話を書いてみました。
文章にするのなかなか難しい…
誤字、脱字あったら、すみません。
なんとなく理解して頂ければ、本望です。