人形に驚いたこと、貴方にはありますか?
どれくらいの人が共感してくれているかは分かりませんが、私にはあります。
今回は友達の家にあった人形との体験を話していきます。
ある日の学校の帰り道、私は友達の陽子ちゃんと話ながら帰っていました。
「明日セラちゃんの家遊びに行ってもいい?」
「大丈夫だと思う。一応親に聞くから、後で電話するね」
そう言って私達は遊びの約束をしました。
友達と別れた後、急いで家に帰り、さっそく親に聞きました。
「明日、友達家に呼んでいい?」
そう言うと親は少し困った顔になり、
「明日は家に居ないから、出来れば友達の家で遊べるかな」
と言いました。
明日は親は仕事で家にいないという事でした。
まだ小学校低学年の子供を、親のいない家で遊ばせるのは心配だったらしい。
「わかった、陽子ちゃんに聞いてみる」
理解した私は陽子ちゃんに電話をかけました。
陽子ちゃんに訳を話すと、
「じゃあ、私の家で良ければ遊ぼう」
という事になり、陽子ちゃんの家で遊ぶことになりました。
遊ぶ当日。
天気は晴れていて、空気はとても澄んでいます。
けれど、陽子ちゃんの家に向かう私は、少し沈んだ心持ちでした。
陽子ちゃんとは、これまで多く遊んできたので、遊ぶのが嫌という訳ではありません。
私が沈んでいる理由は、陽子ちゃんの家にある、ある物が原因でした。
「仕方ない」
そう自分に言い聞かせながら歩き、ついに陽子ちゃんの家に着きました。
チャイムを鳴らすと、すぐに陽子ちゃんが駆けつけて来ました。
「いらっしゃい、待ってたよ」
笑顔の陽子ちゃんと共に玄関を入ると、
「いらっしゃい、ゆっくりしてね」
と陽子ちゃんのお母さんまで出迎えてくれました。
そして私が苦手とする、ある物も出迎えてくれました。
胸元できっちりと切り揃えられた黒髪、こちらをじっと見つめる瞳、微笑みを浮かべた表情が特徴的な日本人形がそこにはいました。
玄関に置かれている、小さなテーブルの上に飾られている日本人形は、小学生低学年の私の視界にピッタリと入る高さにありました。
内心の動揺を押し隠し、平常心を装いながら、
「お邪魔します」
軽く一礼して、上がらせてもらいました。
玄関を上がり、右の廊下を真っ直ぐ進んだ先に、陽子ちゃんの部屋はあります。
斜め左の廊下はキッチンやトイレなど家族の生活する空間になっているようです。
左の廊下はトイレを借りる時ぐらいしか行ったことはありませんでした。
今日は陽子ちゃんの部屋で遊ぶことになったので、人形に背を向けて、右の廊下を進みました。
陽子ちゃんの部屋で話し合いをしていた時、お母さんがお菓子を持ってきてくれました。
「ありがとうございます」
お礼を言い、お母さんの方に向いたとき、開け放たれたドアの先が気になりました。
少し薄暗い廊下の先から、視線を感じ、よく見てみると、なんと玄関を向いていた日本人形が、こちらを向くように置かれていました。
驚きのあまり言葉は出ず、ただただ人形を見つめていると、私の視線の先に気づいたお母さんが、話始めました。
「あの人形はね、私のお母さんつまり、セラちゃんからみたらお祖母ちゃんの頃からある人形なの。私が子供の頃は一緒に遊んだり、寝たりもした、思い出の人形なのよ。陽子はあまり遊ばなかったから、玄関に飾る事にしたの。あそこに置くと、向きを変えれば、家の中を見渡せるから。でも寂しいのかしら。さっき通る時に見たら、悲しそうにしてたから、陽子の部屋に向けて、二人の楽しそうな雰囲気を見せていたの。」
人形の向きを変えたのは、陽子ちゃんのお母さんだったことに私は、ほっとしました。
「そうだったんだ、人形さんにも楽しい気分が伝わるといいな」
と私が言うと、
「きっと大丈夫よ。さっきより笑顔になってるもの。」
そう言い、陽子ちゃんのお母さんは去っていきました。
それから暫く遊んでいると、私はトイレに行きたくなりました。
なるべく、陽子ちゃんの家のトイレには行きたくありませんでした。
だってトイレに行く廊下には、日本人形が置かれています。
しかも、今は部屋に向かって置いてあるので、怖さ倍増です。
我が家までは距離があるし、そんな事を考えていたら、益々トイレに行きたくなりました。
思いきって覚悟を決めた私は、
「ごめん、トイレ借りるね」
と言い、廊下に出ました。
想像通り、廊下の先には微笑みを浮かべた日本人形が、こちらを見ていました。
なるべく目を合わせないように、下を見ながら歩きます。
そのまま人形の前を通り、トイレへ続く廊下に駆け込むように行きました。
トイレの前に辿り着き、安心した私は人形の方を見ました。
人形は陽子ちゃんの部屋に向いているため、目が合うことはありません。
部屋に戻る時、側を通らなければいけませんが、見なければ目が合うことはありません。
更に安心した私は、無事に用を足し、トイレからでました。
後は下を見ながら歩き、部屋に戻るだけです。
私は歩き出しました。
そろそろ人形が乗ったテーブルの足が見えてくる頃だろうと目線を少し上にあげた時です。
テーブルの足ではなく、小さな人の足のようなものと、綺麗な着物が視界に入りました。
「えっ」
と思い目線を上にあげると、テーブルの上にいるはずの人形が、テーブルの下に立った状態でいました。
「うわぁ」
私は悲鳴をあげ、後ろに倒れ、尻餅をつきました。
悲鳴を聞きつけた、陽子ちゃんとお母さんが駆けつけて来ました。
「人形が…」
私がそう言うと、二人は人形の方を見て、驚きました。
私がトイレに行っている間、二人は人形に触っていないようでした。
「不思議ね」
そう言い、陽子ちゃんのお母さんは、人形を元の位置に戻しました。
「もしかしたら、楽しそうなセラちゃんと遊びたかったのかもね」
この言葉は私の人形嫌いを更に促し、幼心にトラウマを刻みつけました。
作者セラ
人形にまつわる怖い話は、よくありますが、どれくらいの人が人形を苦手としているのでしょうか。
今回は私が人形嫌いになる、序章的な話を書いてみました。
誤字、脱字あったらごめんなさいm(__)m