これは親父から聞いた話
俺がまだ赤ん坊だったころの出来事だそうだ
親父は某有名ホテルで長年料理長を勤めてきた人だ
料理長ってホテルのなかでもけっこう位が高いらしくて
俺たち家族は無料でそのホテルに泊まらせてもらえることがちょくちょくあったらしい
その時も姉ちゃんの夏休みにあわせて宿泊していたんだそうだ
お袋、姉ちゃん、赤ん坊の俺の3人で
親父は仕事があるからあまり一緒にはいなかった
ホテルの周りはリゾート地で、昼間は周りで一通り遊んで、夜は親父自慢の料理を食べて、楽しく過ごしてた
2日目の夜のことだ
姉ちゃんが夜中に目が覚めた、横にはお袋と俺が寝てる
ふと横を見たとき、ベッドの横に、椅子に座ってる人がいた、窓に背を向けて座っていて、月明かりの逆光で顔がみえなかったから姉ちゃんは一瞬親父かとおもったそうなんだが
どうも様子がおかしい、身体中に細い紐をぐるぐる巻きにしている
姉ちゃんはこれが親父じゃないことに気づいた
目がなれて、そいつの顔が見えた、若い男だ
20そこそこの
姉ちゃんは寝ぼけてたのかなんなのか、その時は悲鳴もなにも出さず、ただボーッとそいつを見てたらしい
しばらく見てたら、最初は寝てるみたいに目を閉じてたそいつが、ゆっくりと目を開けた、すると
ニヤァ
不気味な笑顔だったらしい
そして、身体中に巻かれた紐が姉ちゃんのほうに伸びてきた
それが触れる瞬間、朝になっていたらしい
そのことを早速お袋に話したら
お袋「疲れてたから変な夢見たのよ」
と相手にしなかった
姉ちゃんは納得がいかず、親父にも同じ話をした
親父「なんで、、、」
親父は聞いた瞬間背筋が凍りついた
親父はそいつを知っていたんだ
ことは10年ほど前に遡る
ある大学生がいた
東大に通うエリート
将来も有望視されていた
そんな彼は一人旅行でこのホテルに泊まっていた
親父が振る舞った料理をすごく嬉しそうに食べて、料理長である親父にもうまかったと礼を言い、自分のことも話していた
男「周りに期待されるのは嬉しいけど、それが重圧なんです
一人になっていろいろ考えたくて、ここに旅行に来ました。
旅行の最後の日にこんなにうまい飯が食えてよかったです
なんかすっきりしました」
そんなことをいっていた
その数時間後のことだ
客「◯◯◯号室から煙が出てる!」
と連絡があった
急いで消防に連絡し、その部屋のあるフロアに向かった
煙の出ている部屋はさっき楽しそうに話していた青年の部屋だ
親父は急いで助けなければと、ドアを破り中に入った
その瞬間ものすごい臭いがした
そして部屋の中を見て、親父は絶句した
青年が、いや。おそらく青年だったものが椅子に腰かけている
しかし。それは黒焦げだった
よく見ると、身体中に裸に剥いたコードがまきついている
その先にはタイマー
即席の電気椅子のようだった
感電だけでなく、発火し体を焼き付くしたんだろう
そのフロアは臭いが凄まじく、すぐに改装家具なども新しいものに変えたそうだ
そう、姉ちゃんがみた紐は紐ではなく、コードだった
親父がこの話をまだ子供の姉ちゃんにしたことなどもちろんなかった
本人も忘れたかったらしい
ホテルというのは、自殺がけっこう多いらしい
でも営業に関わる事だから、公にはならないのだそうだ
そのなかでもこの事件は一際異常だったと親父は言っていた
俺たち家族が泊まったのはちょうどその事件のあったフロアの下の階にあたる
実は以前から、ホテルの従業員の間では噂があった
夜、当直で客室で仮眠をとっていると、部屋に他のものとは違う、改装前に使っていた、椅子だけが、部屋のすみに浮かび上がる、と
しかし、椅子だけで、青年を見たものは一人もいなかった
なぜ、姉ちゃんの前にだけ現れたのかはわからない
姉ちゃんにこの話を直接聞いたことがある、すると急に青い顔をして、話したくないっと言われてしまった
それほど怖かったのだろう
そのホテルは今も営業を続けている
親父は自分のレストランを開いて、離れたが
まだホテルにいる同僚からは
今も噂は続いているという
真夜中に現れる、使われていない、古い椅子の噂が
作者名も無きビビり