「ねえ知ってる?
どんな成功も、どんな喜びも、どんな友情も、どんな愛情も、どんな優しさも、どんな思い出も、どんな経験も、どんな願いも、どんな幸せも、どんな笑い顔も、どんな可愛さも、どんな美味しさも、どんな美しさも、どんな幼稚さも、どんな煌めきも、どんな貪欲さも、どんな閃きも、どんな努力も、どんな香りも、どんな苦しみも、どんな痛みも、どんな悲しみも、どんな災難も、どんな失敗も、どんな裏切りも、どんな躓きも、どんな人生も…
死んだらさ。そんなの全部忘れちゃうんだよ?頑張って生きてたって意味ないじゃん。ねえ、君もつまらない人生なんてやめて、早くこっちにおいでよ」
最近、夢と現実の狭間を行ったり来たりしていると、決まってこの声に起こされてしまう。
薄目をあけると知らない女がベッドの脇に立っていて、乗り出すような格好で俺の顔を覗き込んでいるのだ。
俺はいつもその光景を見るたびにたちまち気を失い、深い眠りの中へ落ちていくのだが、今日は妙に頭が冴えているからかなんなのか、なかなか気を失う事ができないでいる。
「でもね、一つだけ死んでも忘れられないものがあるのよ、あんたそれが何かわかる?」
この女に質問をされるのは初めてだ。いや、いつも気を失った後に質問されていたのかも知れないが。少し動揺しながらも、なんとなく俺は心の中で答えた。
わかりません。
「う、ら、み、よ。 怨み。わたしはこの怨みという感情のせいでこの場所にとどまっているのよ。どう?可愛そうでしょ?
わたしは死ぬ前に付き合っていた男に酷いことをされてね。あの世に持っていけない怨みや苦しみ悲しみを沢山抱えこんじゃったもんだから、成仏も出来ないでいるの。
あんたにわたしの気持ちがわかるかしら?」
俺はあーそうなんですか?と心の中で生返事をしたが、さっき「怨み」以外の苦しみや悲しみの感情は全て忘れるって言ってたのに残ってるんかい!って、ツッコミそうになるのをなんとか我慢した。
「ふん、あんた男のくせに細かい事を気にするタイプじゃない?顔だけじゃなくそんな所もあの男とそっくりだわ!あームカつく!!」
どうやら心の声が聞こえていたようで、俺はこの女を怒らせてしまったようだ。
しかし、顔が似てるというだけで赤の他人の俺の所へ化けて出られるのも筋違いな話だ。俺はそんな男を知らないし、ましてや俺が引っ越してくる以前の事なんて俺の知った事ではない。
毎月家賃を払って真面目に仕事もしているのに、そんな理不尽な理由で寝不足にされてはたまったものではない。はっきり言って迷惑だ。
俺はそれを女に抗議しようかと思ったのだが、目の前の女の顔が余りにも怖いのでやめる事にした。
「なんでわたしが他人のあんたの所に化けて出るかですって?そんなのわたしの勝手じゃない。あんたが引っ越す前に大島て◯で調べてこないのが悪いのよ。
嘘だと思うんならググってみ?この部屋炎のマーク、ガンガンに灯ってるからさ!」
また俺の心の声が聞こえていたらしい。もう女の目なんてありえないくらいに血走っているし、白い肌には何本もの血管の青い筋が浮き出ている。おぞましいとはこの事だ。
「教えてあげる。その腐れ男はもうとっくにくたばってるわ。
わたしがこうやって毎晩枕元に立ってジサツに追い込んでやったからね。それと、わたしをバカにしたあの女もついでに殺ってやったわ…ふふふ」
どうでもいい。本当にどうでもいい。心の底からどうでもいい。
「対象がいなくなればわたしの怨みも消えると思ったんだけどね….そんなにうまくいかなかった@tv'pふじこs○8々…」
女の声にノイズが混じり始め、少し聞こえ辛くなってきた。
ああ、俺はただ明日のために早く寝たいだけなのに、なぜこの女は俺をいつまでも寝かせてくれないのだろう?
「それとね、死んだ先輩としてあんたにこれだけは言っときたいの。人に怨みや憎しみなんて抱いてる暇があったらそんな世界からすぐに抜け出して、もっと違う人生を生きなさい。
この一分、一秒はあんたの人生なんだから。あんたの好きな事をして生きなければgttd148_tmふじこg)oj5505のよ…」
じゃあ、俺のその大事な一分一秒の睡眠時間を邪魔しないでもらえますかね?この女はさっきからいったい何が言いたいのだろう。
その怨みを抱いた男や女のように俺も苦しめてジサツにでも追い込みたいのだろうか?赤の他人の俺を?やっぱり訳がわからない。まったく、人生悟ったみたいな事を言いやがって。
「ねえ、ちゃんと聞いて。世の中はあんたが思っているよう…gt'fw48々ふじこgp'nw〒=347.…じゃないの!わたしみたいな事にならないように、ちゃんとあんたの人生を生きp'xtmgふじこ78katvd448て!」
生きろとか死ねとか意味がわからない。俺がいったい何をしたと言うのだ…本当にはた迷惑な女だ。ブスだし…
「おいてめえ、今なんつった?」
なんでもありません。
ごめんなさい。
明日は仕事を休んで、この物件を紹介してくれた不動産屋さんに直接文句を言いに行こうと思う。
了
作者ロビンⓂ︎