陸上部にいたとき、代わる代わるいじめが行われていた。
中心的人物が「〇〇ってウザいよね」と言うとそれを発端にだんだんと広まり、無視や陰口が始まる、のが一般的なのだろう。
だが、私のとこは違った。
「なんとなく」そう、なんとなく始まるのだ。
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私もかく言う標的になったのだが、不思議だったのが、中心的人物がわざわざ言わぬとも「なんとなく」で、いじめが始まることだ。
誰が何もはっきり言わなくても、「なんとなく」鬱陶しい奴、浮いてる奴をターゲットにする。
恐ろしく怯えながら私は過ごしていたが、私は私で臆病だったから、私以外のチームメイトが標的だったとき、助けることはしなかった。ただ、陰口のとき、その子に目線を合わせないようにじっと聞いて、実は細かく震えていた。
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陸上ではリレーメンバーをしていたが、練習には一緒に参加しても、終わると嘘のように皆私の元から退散し、クスクスと笑ったりする声だけが聞こえるのだ。
だが、私へのいじめはそう長くなかった。
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なぜ、私がいじめの標的からそんなにすぐに外れたか。
それは、バトンの練習をしているとき、
私がバトンを渡すだいぶん前に、ある1人の子が走り始め、皆を困惑させたことから始まる。
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その子は「〇〇(私のこと)がはーいって言った声が聞こえたから…」と言った。
私含め、他のリレーメンバーは首を傾げた。そのときは聞き間違いだろう、と流されていたが、次の日も同じようにその子は言う。
皆、その子の初歩的なミスにいらついているのがわかった。
「バトンの感触もあったの…ほんとなの」
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とうとう1人の子が「ねぇ、霊感あるアピールなの?てか、どっちにしろ迷惑なんだけどねー」と言った。
その日を境に、その子がいじめの標的に変わった。
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私は、ごめんなさいと心の中で謝りながらも、標的が変わったのに安堵してしまっていた。
ただ、それ以来、ずっとその子の周りに黒い人影のようなものが見えた。
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ある日の練習のとき、その黒い人影が、
より、くっきりと見え、別の子に寄りかかった。
すると、その別の子が標的に変わった。
どうやら、その黒い人影は「なんとなく」の空気の正体のようだ。
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私は、とんでもないものもバトンタッチしてしまっていたのだと今更気づいた。
作者奈加