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ゴーストポリス 3(その2)

中編6
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ゴーストポリス 3(その2)

ロンドン警視庁 エントランス──。

 外に用意された車の前に立つばけものがかりの面々に、足早に駆けつけたリダが弾む息を整えながら笑顔に戻す。

 「お待たせしました! 参りましょう」

 「それはいいが、こっちは道を知らねぇぞ?」

 見知らぬ土地の不安をムトウが言うと、リダは笑顔を崩すことなく返した。

 「ナビゲーションに入力済みですので問題ないと思います」

 「ほら! いざとなったら私もヌコちゃんもいますし」

 リダのフォローなのか、勝手知ったるハトムラがムトウの肩をポンと叩いて笑う。

 「さっさと行こか。とっとと終わらして日本に帰るで?」

 「ユキザワ室長、ホームシックですかぁ?」

 「いや、旦那シックだろ?」

 軽口を叩いたチカゲとムトウに、ユキザワが体を貫かんばかりの視線でメンチを切る。

 「……次、しょーもないこと言うたら、オマエらコロすで?」

 「「すす、すいませんでしたっ!!」」

 殺意全開のユキザワの覇気に、二人の寿命は三年縮まった。

 「室長! これを」

 えだまめ1号が「おふぅ!」と軽くいきんで、おしりハッチからピンク色のカプセルをひり出すと、カプセルから手のひらサイズの白い犬型ロボが現れた。

 「霊子探査ロボのえだまめ2号(ジュニア)ことキントキです」

 えだまめ1号からの紹介を受けて、よろしくとばかりに「あんっ!」と一声鳴いたキントキを、チカゲが愛しそうに手に乗せて撫でた。

 「ミニえだちゃん!」

 「名付けのセンスはともかく、なかなかエェやんけ……アマノ、借りてくで」

 「どうぞ。戦闘能力はありませんが、霊子探査の性能は、えだまめの三倍です」

 どす黒く重々しかった空気をキントキの登場が一掃し、和やかムードのまま二手に別れた捜査員は、それぞれ車を走らせる。

 「ムトウさん、とりあえず第一の現場に行きましょう」

 「そうだな」

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 なれない道を安全運転で走らせ、ムトウとハトムラとロボ犬一匹を乗せた車が、第一現場へ到着すると、公園内はまだ明るいのにもかかわらず閑散としていて人気がなかった。

 「公園なのに、人っ子一人いねぇな」

 「あんな事件の後ですからね」

 「……さっそく反応があるぞ」

 二人と一匹は車を降り、えだまめ1号の先導で発見現場へと向かう。

 人目につきにくい場所の一帯には規制線が張られ、わずかに残った事件の爪跡が寒々しく感じられた。

 「この辺りだな……」

 えだまめ1号は首輪を高速回転させながら、その場で体も回転させると、少しずつ緩やかに動きを止め、グリンと上を向いて「うぉんっ!」と鳴いた。

 「上って何だよ」

 今までにない動きを見せたえだまめ1号を見下ろしたムトウが問いかけると、えだまめ1号は首を上に向けたまま言った。

 「いるんだよ……ここに」

 「まだここに妖怪が?!」

 サッと身構える二人に、えだまめ1号が落ち着いた口調で続ける。

 「そっちじゃない……被害者の方だよ」

 ゴーグルをしていなかったハトムラも装着し、辺りを見回すが、姿どころか反応もない。

 「ハトっち、左のダイヤルを回してみて」

 言われるままダイヤルを回すと、キリキリという音と共に解像度が上がり、うっすらと女性の姿が目の前に現れた。

 「ホントだ!」

 言葉に自信のないムトウは突然現れた外国人女性に気負いしているので、頼れるハトムラが女性に話しかける。

 「あなたが先日殺された方ですね」

 穏やかなハトムラの声に、女性はコクリと頷いた。

 「あなたを殺したのは、どんなでしたか?」

 被害者から直接犯人のことを訊ける絶好の機会だったが、被害者は力なく首を横に振る。

 「……あれは人ではなかったと思う」

 被害者の口から飛び出した答えに驚愕する刑事達を前に、女性はか細い声で語りだした。

 「あの夜、バイトで遅くなった私は近道のこの公園を横切ろうとしたの……そしたら、後ろから大きな何かが近づいてきて、怖くて逃げたんだけど転んでしまって……」

 「大きな何かって?」

 ハトムラが優しく問うと、女性は震えながら答える。

 「とても人とは思えないほど大きな何かだった……足を捕まれた時、一瞬感じたのは体温のない皮膚の感触だけ……その後、私の体は……」

 最後の言葉は言えず、泣き崩れる女性にハトムラは寄り添うように体を近づけて静かに手を合わせた。

 「本当に悔しかったでしょう……あなたの仇は必ず取りますから、どうか安らかに」

 「ありがとう……」

 女性はハトムラに涙を溢したままの笑顔を向けて、音もなくスゥっと姿を消していった。

 「馬鹿デカいナニカか……」

 「何でしょうね」

 「さぁな……室長達が調べてる事件も同一犯だとすると、第三の事件も恐らく……」

 ヒソヒソ相談する二人の間に、えだまめ1号が割り込む。

 「同一犯の可能性はない……被害者に共通点はあっても手口が違いすぎる。恐らく……」

 「同じ意図を持った複数犯ね」

 「そんなトコだと思う……そして、それにイギリス警察は気づいてる」

 「何だと?!」

 えだまめ1号とハトムラの会話に、素で驚いたムトウも興奮ぎみに参加した。

 「じゃあ何か?イギリス警察は何らかの目的を持ったグループの存在が分かった上で俺達を呼んだってのかよ」

 「今頃気づいたのか?ニブチンが」

 一悶着起きそうな一人と一匹の間に、ハトムラが入り込んで宥めるように言う。

 「多分ですけど、そのグループが人ならざるモノだと分かって、怪異専門の私達が呼ばれたんだと思います」

 「そういうことだ……後は室長とチカゲの捜査データと第三の現場のデータを解析すれば、おおよそのことが分かるはずだ」

 「ここで分かったことなんて、デカい何かがいるってことだけだろ?」

 ムトウがえだまめ1号を見下ろすと、呆れたようにえだまめ1号の眉毛がくるくる回る。

 「何を見てたんだよオッサン……よく見ろ!何かしらの足跡が消されてるだろ?」

 今にも「ケッ」と鼻で嗤いそうなえだまめ1号の顔にムカつきながらも、ムトウは現場の地面に目を凝らした。

 痕跡を消されたというだけあり、とても分かりづらいが、ほんの少しだけ地面に窪みがいくつかあることに気づき、駆け寄ったムトウが呟く。

 「何だこりゃ?」

 「おいおいオッサン……そこは『何じゃこりゃぁあああ!!』だろう?」

 茶化すえだまめ1号に、ムトウはジト目を向けて拳を握った。

 「俺ぁ、殉職する気はねぇよ」

 「そりゃ残念」

 「ヌコちゃん?」

 えだまめ1号越しのアマノの言動を見かねたハトムラが低めの声でたしなめると、えだまめ1号は眉をハの字にして舌を出す。

 「これがその足跡なのか?」

 「大きさがオッサンの靴のサイズの約2倍ある窪みは、ほぼ等間隔で転々としている。そして、進行方向の後ろ側の方が沈んでるだろ?それは踵から着地してるってことだ」

 「それってつまり、二足歩行の特徴じゃない?」

 「さすがハトっち、察しがいいね」

 「しかし、こんなもんが走り回ったらデケェ音がするんじゃねえのか?」

 素朴な疑問を上げたムトウに、えだまめ1号が低いトーンで答えた。

 「走ってないんだよ、たぶん」

 「走ってないだと?!」

 いちいち驚くムトウの顔を小バカにしたような顔で見上げながら、えだまめ1号が解説を始める。

 「二足歩行のモノが前に走る時は爪先を蹴り出すだろぅ?でも、この足跡にはそれが見られない……つまり、走っちゃいないってことだ」

 「歩いて追いかけてたのかよ」

 「そういうことになりますね……歩行スピードが速ければ走る必要もありませんし」

 「ものすごく大股で歩いてたか、被害者の運が悪かったか……どちらかってことだな」

 えだまめ1号の軽口に、熱い漢ムトウが怒りを露にして怒鳴った。

 「運で殺されてたまるかよ!人間だろうがバケモンだろうが、命を奪う輩は絶対に許さん!!」

 「そうですよね!ムトウさん」

 「暑苦しいヤツだ……さっさと次へ行こうか」

 データを取り終えたえだまめ1号の一声で、ばけものがかりムトウ班は第三の現場へと急いだ。

Concrete
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