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長編12
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異酒屋話ー神婚ー

春の訪れを感じる日中の暖かさはどこへ行ってしまったのか?

と、思ってしまうような寒さが襲う春の夜。

仕事を終えて、アパートに帰りポストの中を確認した。

___!?

[なんでだよ・・・なんでここがわかったんだよ・・・]

投函されていた封筒の差出人を確認すると、グシャリと握りつぶした。

_____

≪いや~、暖かくなったと思ったらこの寒さだもんね~。まったく・・・熱燗がおいしいったらないわ!!≫

『全く同感だわ!ビールも美味い!』

と、小鳥ちゃんと飲み交わしながらカタカタとパソコンをいじっているのは“紅葉”ちゃんです。

≪“異世界物”のアニメやラノベが最近流行ってるわね~。異世界〇堂とか異世界〇茶店とかさ~。そうそうこの前あいつと本屋に行ったのよ。趣味で書き物してるあいつね。

それで、なんか異世界物コーナーの前で固まったから、どうしたのかと持っているもの見てみたら“異世界居酒屋”っての握ってんの。“嘘・・マジ?俺パクったみたいになってる・・・?やべぇよ。マジかよ・・・。”としきりに独り言言ってんの。

なんかもう顔面真っ青で面白かったわ~。≫

『あ~、あいつか。なんかそういうの書いてるって言ってたわね~。』

【最近、ほんと異世界物多いわね。異世界行ったら最強だった。とか、異世界で転生したら。とか、異世界でチートな何某。とかね、ちょっと前は最弱だと思ってた主人公が実は最強だった。とかも多かったわね。】

意外なことに花火ちゃんもそういう話についていけるとわ。

【それにしても紅葉、その恰好何よ?】

と、花火ちゃんは紅葉ちゃんに尋ねた。

≪え?巫女服よ?今までも着てたじゃない。≫

『違うわよ。なんで巫女服なのにミニスカかなのか?ってことよ。』

≪やっぱり萌え要素って大事だと思うのよね。そうだ!春ちゃんもミニスカの着物にしなさいよ!作ってあげるわ!≫

【春はそんなの・・・】

「いいですね!欲しいです!」

『マジか・・・』

なんて話していると

~♪~♪~

紅葉ちゃんのパソコンが鳴った。

『なに?メール?』

≪そんなとこかな。私のHPを通して相談が届いたのよ。≫

小鳥ちゃんはパソコンの画面をのぞき込み

『何このタイトル・・・・“現役巫女紅葉ちゃんの何でも相談室”・・・』

【ネーミングセンス・・・】

『いいでしょ?え~何々・・・』

___神様と結婚させられそうなんです。助けてください。

『なにこれ・・・いたずら?』

≪・・・それはないわ。私のHPには本当に助けを求めている人しか辿り着けないから。≫

さっきまでお茶らけていた紅葉ちゃんは、眼鏡をただし真剣な顔つきで読んでいた。

_____

俺の生まれた村は現代日本の中では、吹けば地図から消えてしまうような村だった。

少子高齢化。若い世代の都市部への流出による人口減少これらは地方にとって最重要課題となっている。

俺の村も例に違わない状況だったのだが、一つだけ他とは異なる点があった。

それは、若い世代。つまり生産人口の流出は著しく少なかった。

たとえ、外に出ていたとしても家族を連れて帰ってくる人たちがいた

理由は“大人になったら御村のために尽くすんだよ。”それが、両親、祖父母、教師の口癖。

幼い頃からの教育。「大人になったら村のために尽くす」という刷り込みの成果だろうか。

うちは村の中でも昔からの豪農、地主であるがゆえに徹底された。

幼い頃はそれが当たり前だと思っていた。

しかし、今は平成の世様々なメディアを通して情報が入ってくる。

俺は次第に外の世界に憧れを抱いた。

そして、俺の“憧れ”は外では、多少なりともしがらみはあれど誰もが享受できる“当たり前”のモノであることに気が付いた。

何か村であるたびに“お供え物”と称した貢物を抱えてやってくる村人。

後に知ったことだが、祖母や母は村巫女のようなもので“神のお告げ”なんてものが聞こえていたらしい。

そんな二人の前にひれ伏し感謝の言葉を述べる村人に、偉そうに言葉を吐く親族。

恐ろしく、自分の環境が異常であることに気が付いた。

近くの町の高校に進学した俺はバイトをして村を出ていくための資金を貯め、

大学に受かりやっと村を出た。親などには世間を知っておくことも重要じゃないか?なんてそれらしい理由をつけ納得させた。

大学生活を楽しみ、就職をした。

もちろん、高校を卒業して以来村に帰ることはなかった。

在学中「儀の日には帰って来てくれ。」そう書かれた手紙が届いたが俺は破り捨てた。

たぶん、次帰ったらもう二度と村外には出られなくなる。あの村に閉じ込められる。そんな予感がした。それから間もなく友人に資金を借り引っ越しをした。

日々ポストの中身に恐怖を抱きながらも卒業し、就職をした。

県外の企業に就職したため、もう家族は俺の居所は突き止めることはない。そう思っていたがそんなことはなかった。

あの人たちは俺を諦めてはいなかったのだ。

どういう手段を講じたのかはわからない。

だが、居所を突き止め、手紙を送ってきた。

[なんでだよ・・・なんでここがわかったんだよ・・・]

“もう十分だろう。儀が近づいている。帰ってこい。”

そう書かれていた。

何が十分か。

自由に過ごしただろう。村に戻ってこい。

そういう意味だろう。

初めのうちは無視し続けた。だが、手紙は届き続ける。

引っ越せばいいのだが通勤や金銭のことを考えるとそうそう簡単にはいかない。

そんなある日の夜、帰宅中アパートの前に遠目ながら誰かがいることに気が付いた。

誰かいる?

街灯の光に照らされた顔を見てすぐに分かった。

父親だ・・・。

きっと祖母と母に言いつけられ、実力行使にやって来たのだ。

俺は踵を返して逃げた。

同僚に電話し、泊めてもらえるよう頼み込んだ。

その日逃げたとしても、俺の服や何もかもは部屋にあるのだ。

次の日仕事終わり、同僚に付き添ってもらい自宅へと帰った。

そこに父親の姿はなく部屋に入ることができた。

「・・・ポストに入ってたよ。」

友人がポストの中身を確認してくれていたのだ。

表も裏も無地の封筒。

手紙には

“良い部屋ですね。冷蔵庫の中身はお酒とおつまみばかりですね。しっかり食べたほうがいいですよ。”

と書かれていた。

[・・・嘘だろ。]

これは脅しだ。

自分たちは部屋にも入れるんだぞ。会社も知っているし、交友関係も調べている。今後どうしてほしいかはお前次第だ。

そんな風に俺には感じられた。

狂ってる・・・

警察への相談を考えたが、民事不介入を言い訳に警察は何もしない。

それどころか途中からめんどくささを前面に押し出してくる。あんなのは頼りにできない。

ネット通じて何か方法はないかと探しているうちに見つけた。

“現役巫女紅葉ちゃんの何でも相談室”

ふざけたタイトルだとは思ったが、もう何でもいい。とそのページをクリックした。

ページの先頭に出てきたのは、

“このページを見ているということは、現実の友人などに相談できないことでお悩みですね。”

どんなところにでもある、ただのうたい文句かもしれない。しかし、藁にも縋りたい、話を聞いてもらいたかった俺は投稿したのだ。

_____

≪なるほどね。≫

いつの間にかカウンターから出て来ていた春ちゃん、小鳥、花火ちゃんの四人でメールを読んだ。

「“儀”って何でしょうね?」

『・・・たぶん、“村を守っている”として祀られている神様なんかに対しての儀式だと思う。今の時代にまで残すなんて阿保らしい。』

「小鳥ちゃんは儀式とかは無駄だと思うの?」

『そうじゃないわ。風習を守っていくのは大切なことだとは思う。だけど、やりたくもない人を巻き込んで無理やりやる必要なんてない。ってことよ。

元も子もないけど、結局のところ最終的には人の力でどうにかしなきゃならないのよ。

風習なんてものは、季節の流れを感じるためのモノ程度にとらえていればいいと私は思うわけよ。』

何かを思っているような顔をして小鳥は言っていた。

≪私も小鳥と同意見だわ。さて、紅葉ちゃんがお悩み解決してあげようじゃないの!≫

【なにか考えがあるみたいね。】

≪もちろん。こういった手合いのモノは案外簡単よ。≫

そういって私はいくつかの質問内容を添えて投稿に返信をした。

_____

まさか返事が来るとは思わなかった。しかも、こんな早く。

__貴方の置かれている状況、わかりました。3つ質問をさせてください。

・貴方の生まれた村の名前。

・儀の日がいつか。

・祀られているモノの名前。

私なら、あなたを助けられます。__

助けられる。か。

こんなバカげた話を聞いてそんな風に言ってくれる人間がいるなんて。

もしかしたら、俺は騙されているのかもしれない。

でも、見ず知らずの俺を俺を騙したところで何の得があるのか?

いや、そんなこと考えても仕方ないじゃないか。俺にはほかに選択肢がないんだから。

質問の回答を書き込み返信をした。

__回答ありがとうございます。これは、私の電話番号です。電話にて話しましょう。

いきなり電話番号を教えてくるとは・・・・もうやめよう、疑ってる場合じゃねえんだ。

それに、助けを求めたのは俺なんだ。

[もしもし。紅葉さんですか?]

≪えぇそうよ。お電話ありがとう。話は分かったわ。・・・あなたは私を信じられる?≫

初めての相手と話しているのに、不思議な安心感、落ち着きいい緊張感。

[はい。信じます。]

≪そう。それなら、私もあなたを助けます。儀の日、あなたの育った村に向かいます。≫

【え?・・・わかりました。】

たぶんこの人には何か考えがあるんだろう。だけど、それは俺が聞いても仕方ない。

信じる。

_____

儀の日当日。

紅葉さんとの待ち合わせの駅にやってきた。

≪こんにちは。≫

[あ、はい。こんにちは・・・。あなたが紅葉さんですか?]

綺麗な女性。眼鏡をかけた淑やかな印象の人だった。

≪えぇ。向かいましょう。≫

[・・・今日は、よろしくお願いします!]

前を歩く紅葉さんに向かい俺は頭を下げた。

≪任せておきなさい。≫

そういってにこりと笑った。

_____

紅葉さんと電話をしたのち、外の公衆電話から実家へと電話した。

___帰ってくるのね!?そうかそうかわかったわ!

よほどうれしかったのか、妙な猫なで声を上げていた。

電車を使い、バスを使い、進むこと時間。正直憑かれていた。紅葉さんは特に喋らず、静かに小説を読み続けていた。

≪着いたわね。さすがに疲れたわ。≫

[ですね。すいません。]

≪あら。いいのよ、私が行くといったんだから。≫

と話していると、実家の使いのモノだろう。俺たちを迎えに来ていた。

家へ着くと

___おかえり。

___会社はどうだ?

___元気にやっていたのか?

興味もないくせに心配していた風なことばかりを並べた。

___うちのために何もせんと出ていきおったが、あんの馬鹿たれようやく帰って来たわ。あん馬鹿でもお家のために神さんの元へ行くくらいはできらぁな。

なんて話しているのを立ち聞きしてしまった。

≪それで、私のことはなんて説明しているの?≫

[それは・・・彼女と。すいません。]

≪そう。それが一番いいでしょうね。≫

儀の時間まで迫っていた。

_____

夜。

外がかなり騒がしくなっていた。村の中央広場には薪を組んで何やらやっている。

___坊ちゃん。お時間です。

家のモノが彼を呼びに来ていた。

___お嬢さんはどうなさいますか?

≪私はここにいるわ。≫

___・・・そうでございますか。

いぶかしげな視線。

村に足を踏み入れていた時から感じていた。

異物、異質なものを見つめる猜疑心に取り込まれた視線。

昔気質、変な言い方だけど懐かしくも感じる。

今時こんな村残っているのね・・・

大方の予想はついていた。

この”儀”は神との婚礼。

神と寄り添う。すなわちそれは”死”を意味する。

恐らくは即身仏のような意味でとらえられているんだろう。

彼はそれをわかっていた。だからこそ近づきたくなかった。

当然だ。死ぬとわかっているのに近づくわけがない。

それを私に伝えなかったのは、そんな話信じてもらえないと思ったのかもしれない。

言葉として出したくなかったのかもしれない。

まぁ、どちらでもいい。

村人たちの己への保身のために他者を犠牲にする。

≪そんなことさせないわよ。≫

あんな思いをするのは私だけで十分だ。

[紅葉さん、信じてます。・・・行ってきます。]

≪うん。≫

私は頷き、見送った。

≪さて、始めましょうか。≫

私は、巫女服へと着替えた。

_____

和服へと着替え、松明を持つ家人に付き添われて儀の場へと到着した。

異様な風景。

村人たちは皆俺に向かい合唱をしている。

なんだこれ・・・

___お前が息子でよかったよ。お前のおかげでこの村は守られ続ける。

俺は母親の言葉を無視し紅葉さんを待った。

異様な空気にあてられ続けた村人のテンションは狂気に舞い上がっていた。

___村をお守りくださいお守りください。

と。

俺にできるのは、紅葉さん到着まで時間を稼ぐこと。

_____

耐えてね。

この姿になるには少し時間がかかる。

自我を奪われないためにお神酒を飲み、精神を集中させる。

ふぅ。

と息を吐き姿を変える。

≪くっ・・・。≫

怪異としての姿に変化する。

この姿を恐れない人間はいない。

待ってなさい。

この村のふざけた悪しき幻想をぶっ壊してあげるわ。

_____

のらりくらり何とか時間を稼いできたけど

もう限界だ。

≪私に捧げる人間はそやつか・・・?≫

この声・・・

[紅葉さん?!]

村の奥闇の中から姿を現したのは怪物。

巫女服を纏い六本の腕、脚は大蛇。

なんだ・・・こいつは・・・

___化物だ!?

___うわぁぁぁぁあああああああああ

___にげろおおおおおおお

悲鳴を上げ逃げ出す村人たち。

怪物は大蛇の尾で家屋なんかを破壊する。

阿鼻叫喚。

村人の中には祖母や母親に助けを請っているが、当の本人たちは震えて何もできない。

≪愉快愉快。そなたらが呼び出したのであろう?どこへ行くのだ?≫

村人を捕まえて持ち上げる。

赤く染まった眼でケラケラと笑っている。

俺も全く動けなかった。

≪なんじゃつまらぬの。まぁ、今宵は終いじゃ。わしはいつでもこの村を見ているぞ。いつでも呼び出すがよい。≫

そう言い残し去っていった。

俺は何を見ていたのだろうか。

力なのか腰が抜けたのかわからないが動けずそのままあおむけに倒れこみ眠ってしまった。

_____

翌朝

≪こんなところで寝ていると風邪をひくわよ?≫

[ん・・・]

目を覚ますとそこには紅葉さんがいた。

≪終わったわよ。全部。≫

その言葉で、やはり昨夜のあれは紅葉さんだったのだろうとわかった。

だけど、俺はそれを口にはしなかった。

紅葉さんが俺のためにしてくれたのだとわかっていたから。

≪帰りましょ。≫

[はい。帰りましょう。]

最後、紅葉さんと別れるとき

[ありがとうございました!あの、お礼はどうすれば。]

≪そんなものいらないわよ。あなたが生きている。それだけで十分よ。・・・それじゃあね、さようなら。≫

俺は去っていく紅葉さんの背に頭を下げた。

その後、村からは多くの人が去っていった。また、うちにあった権威のようなものは失墜した。

紅葉さんの携帯には繋がらなくなり、ホームページも姿を消した。

なんとなくだけど、あの人は俺のような人の相談に今日も乗っているのだろう。

そんな気がした。

_____

≪こんばんわ~≫

「いらっしゃい。紅葉ちゃん。」

『仕事は終わったの?』

≪まぁね~≫

紅葉ちゃんは事の顛末をあらましに話してくれた。

【でも、もともとそこに神なんかもいたのは事実なんでしょ?】

≪それは大丈夫。話つけていたからね。”好きにしていいわよ。神とはいっても私にも好みはあるし、何より命捧げて嫁ぐなんて重すぎる。やめてほしかったからちょうどいいわ。”

って言われたわ。≫

『そりゃそうだわ。』

「紅葉ちゃん、お疲れ様。」

そう言って私は熱燗を出した。

姦姦蛇螺

それが紅葉ちゃんの怪異としての名。

私や小鳥ちゃん、花火ちゃんとは怪異としての成り立ちが違う。

紅葉ちゃんは、”元人間”なのだ。

人を助けようとしたのに、人に裏切られ怪異となってしまった過去を持つ。

私たちより間違いなく人間を恨んでいるだろうに、自分と同じような目に合いそうな人間を助けている。

≪やばっ!新刊発売されてるじゃん!!明日買いに行かなきゃ!!≫

色々な想い抱えて生きている。

そんな紅葉ちゃんの生き方を私はかっこいいと思った。

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